第八章
しかし家の中の雰囲気は一気に変化した。美枝の死が大きな影を落とし、薫もチャー坊の世話をする代わり、勇の面倒は介護士に任せっきりとなったのだ。
その為土日以外は朝から晩までデイサービス通いをさせられ、家の中では再び邪険にされた。それでも勇は介護される側としてその大変さが分かっていた為、何も言えずにいた。実の娘だからと言って、トイレなどの下の世話をされるのは恥ずかしい。もちろんする方だって嫌だろう。入浴させるために車椅子から移動させるにも、介護用器具を使わなければ相当な力が必要になる。この時薫も既に五十に手が届く年齢だったから余計だ。
よって出来る限り彼女達の手を煩わさないようにと、通っている介護施設が休みでない平日は、積極的にデイサービスを利用した。それは自分の為でもあった。美枝のいた頃とは違う重苦しい空気をまとった家から、少しでも離れたかったからだ。お金は十分ある為、家を出て入居型の介護施設へ移り住むことも考えた。美枝の三回忌が過ぎた頃、薫達にそう提案したこともある。だが近所の目を気にしてか、二人は首を横に振ったのだ。
確かに足腰以外は元気だから、電動車椅子があれば外出だって一人でできる。寝たきりではないし、デイサービスを受けていれば、家の中での介護も最小限で済む。面倒なのはトイレの時くらいだった。入浴は平日なら施設で毎日利用している為、土日くらいは入らなくてもいい。食事も朝から外出し、近所の喫茶店でモーニングを食べ、夕食も外食で済ますことだってできた。
雨の日にはタクシーを呼べばいい。その他の時間は土日も開放している集会場に行けば、同じような境遇の人達と会うことが出来る。しかもIOTが発達したおかげで、自分一人で自由に音楽を聴いたりテレビを点けたり、部屋の灯りや冷暖房の調整することもできた。声さえ出せれば機械が聞き取ってくれ、したいことはほぼ何でもやってくれる。
ただそうした便利な機能とデイサービスの利用によって、失ったモノがあった。それは一時取り戻した家族の交流と絆だ。結び付けていたのはチャー坊だけではない。やはり美枝がいたからこそ成り立っていたのだと、勇は彼女を失ったことで改めて痛感させられた。
そして再び孤独感が募ったことで、勇はおかしな行動を取るようになったのだ。介護施設での女性担当者へのセクハラ行為もその一つだった。寂しさを紛らわす為に、親切にしてくれる介護士達への甘えが度を超えた行動へと向かわせたのだろう。これが以前経験したギャンブル依存症と同じ衝動制御型の一種だとは、この時全く気づかなかった。
男性介護士に注意を受け、薫達には決して迷惑を掛けてはいけないと、セクハラはなんとか辞めることができた。しかし溜まっていくストレスを解消できるものは他にないかと、模索する日々が数年続いた頃だ。土日に出会う老人仲間から、新しくできたカジノで遊んでみないかと誘われたのである。そこでデイサービスを隠れ蓑にし、久しぶりにギャンブルの面白さを経験した勇は、依存症が再発してしまったのだ。
お金の管理が以前とは違い、甘くなっていたことも一因となった。パチンコから足を洗って十年以上経ち、薫達も油断していたのだろう。美枝が亡くなったことで、そうした事に神経が回らなくなったことも影響していたのかもしれない。
その証拠に一度は土地の所有者から勇の名を外したにも拘らず、美枝の死亡により相続が発生した折、半分を占めていた彼女の持ち分がそのまま勇のものとなっていた。配偶者控除を使えば相続税もかからないし、もう半分は薫達が持っているからいいとでも思ったのかもしれない。
また一時期は銀行の貸金庫を借り、土地の登記簿や預貯金通帳、生命保険などの証書といった大事な物を全て預けていた。その上家庭内でも勇以外は財布を常に肌身離さず持ち歩き、お風呂場にまで水を通さないビニール袋に入れていた程注意していたのである。
それが徐々に緩和され、美枝が亡くなった頃には、勇専用の財布とお金を持たせてくれるまでになっていた。さらには保険金も含めた相続の手続きをした際、通帳まで預けて貰ったのだ。
足腰が不自由になり、以前のようにはパチンコ店通い等出来ないと高を括っていたのかもしれない。車椅子に座った高齢者が出入りしていれば、周囲から目立つ。よってすぐ薫達の耳にも入ってくるはずだと思ったのだろう。それに実際障害者を受け入れてくれるような店は、数が限られている。
そうした隙をかいくぐり、勇は好きなだけギャンブルができるカジノ通いにのめり込んでいった。通帳から用意した三百万円を事前に預け、土地を含めた個人の資産状況を申告しておけば、高齢者用のVIP会員カードが支給され、いちいちお金を下ろしてチップを購入する手間が省けた。
本来カジノは、現金をチップと交換しなければならない。手持ちの金が無くなった場合に備えて、キャッシュディスペンサーも備えている所もある。しかしそれはあくまで海外の話だ。
日本でのIR法では、ギャンブル依存症対策の一環としてカジノ施設内ではATMなどの設置が禁止されていた。しかもカジノ施設はIR施設の延べ床面積の三%以内に抑えられている。あくまでレジャー施設やアトラクションのあるエンターテイメント広場、食や文化のテーマパークやさらには国際的な展示場と会議場等を中心とした複合観光施設でなければならないからだ。
それに外国人旅行者を除き国内に居住する人に対しては、カジノ管理委員会規則で定める金額以上の金銭を、当該カジノ事業者の管理する口座に預け入れていない限り、貸し付けも禁止されていた。
さらには国内居住者の入場回数も制限している。週三日で月十日までに限る他、入場料も一回六千円と高額にすることで、入り浸ることが無いよう規制を設けていたからだ。
加えて入場する際は、マイナンバーカードやICチップに格納されている電子証明書を用いた公的個人認証等が必要で、入場者の本人特定事項や当該入場者が入場禁止対象者に該当するかどうかなどを確認するよう、管理は徹底されている。
その上カジノ事業者が顧客の資金移動をするには、銀行等の金融機関を介し、かつカジノ事業者が管理する当該顧客名義の口座と当該顧客が指定する、当該顧客名義の預貯金口座との間でしかできないと定められていた。違法に入手された金銭が、カジノを通すことで合法的なお金に洗浄する、いわゆるマネーロンダリングを防ぐためらしい。
しかし法には必ず穴がある。例えばカジノ施設にはなくとも、一歩外に出た他のIR施設内にATMなどキャッシング機能が付いた機械は至る所に設置されており、質屋まであった。
カジノに一度入場料を支払った者は、二十四時間以内に限り出入り自由となっている。その為手元に現金が無くても、一旦退場すればいくらでも金を用立てることが出来た。
しかしVIPルームにいる高齢者には、そのような規則などほとんど関係ない。というのもカジノ側に一定のお金を預けている資産家ばかりの為、融資してもらえるからだ。つまりお金も全てツケで用立てていた。
ただし万が一負けが込んだ場合は、利用者達が持つ資産からいつでも回収できることが条件となっている。あくまで融資額は、利用者が持つ資産内の半分以下と決められていた。
もちろんVIPルームへ入場できる高齢者はただの資産家ではなく、様々な条件をクリアした人達ばかりである。だがそれでも焦げ付きなどのトラブルを起こさないよう、決められた範囲内に
それでも毎回ツケで賭けができ、入浴や食事もカジノでサービスが受けられた。その為介護施設へ通っているとばかり思っている薫達に、勇のカジノ通いは気付かれることがなかった。しかし持っている資産の半分を目安に負けが上回れば、清算しなければならない。
そうなれば家族にも分かってしまう為、その一線だけは越えないように気を付けていた。だから通いだした頃は、こっそりと自分がいくら使っていくら勝ったか負けたかの収支を付けていた程である。
だが一度スロットマシーンで何百万の儲けを出した頃から、それも止めてしまった。長く通っていると、負けてばかりではない。時には大勝ちすることもあった為、ちょっとやそっとでは貸し付け限度を越えないだろうと本気で思っていたのだ。
その油断が命取りになった。カジノに通い出して一年も経たない内に、恐れた事が起こった。ギャンブルだけが楽しみな生活にどっぷりと嵌り、冷静な判断ができなくなっていたのだろう。いつの間にかツケは一千万円以上を超え、このままだと限度額を超えてしまうと、カジノ側から警告を受けてしまったのである。
先方も取り立ての際に問題が起こり回収不能になっては困る為、客の資産状況を定期的に確認していたらしい。勇の持ち分は土地の他、事故時に支払われた賠償金と保険金が入っている預貯金がメインだ。もちろん定期的に年金が支給されるため、普通に生活する分なら問題はない。問題は日頃の支出だ。
カジノは最大週に三日、月に十日しか通えない為、他の日は普通に施設でサービスを受けなければならない。そういう日はお金を使う機会などまず無かった。せいぜい朝食や土日の外食分程度だ。
それだけの支出なら、預貯金が枯渇することはない。しかし最低でもカジノへの入場料は月十回で六万円の出費が確定する。そこにゲームでの負け分が加算すれば、自ずと通帳の残高は減少していく。
我に返った時には遅かった。これ以上負けが込むと、事前に預けているお金と通帳の預貯金だけでは支払いきれない限界まで近づいていたのだ。もし一線を越えれば家と土地が資産対象となっている為、それらを処分しなければならなくなる。そうなれば自分だけで処理出来ない。薫達にも間違いなくばれてしまう。
焦った勇は考えた。過去の経験からギャンブル依存症が再発したことは客観的にも分かる。そして自分の意志だけではそう簡単に抜け出せないことも理解していた。そこでまだ残っている預貯金分でツケを全て清算し、家と土地を取られないようにすることを決心した。その上で自らカジノへの出入り禁止措置を申し出れば良いと結論付けたのである。
しかしここで葛藤が起こった。清算してしまえば今手にしている高齢者VIPの会員証は間違いなく取り上げられ、二度とVIPルームで遊ぶことは出来ない。VIPの認定を受けていたからこそデイサービスに通っている振りをして、平日の昼間に介護施設で受けている入浴や食事の提供を受けながらギャンブルが出来ていたのだ。その資格を失うことは、今後カジノに入場する際は一般客と同様の入り口からしか入れない。もちろん今までのように、介護士を仲介した送り迎えなどしてもらえなくなる。
そこで担当介護士に相談し、良い手はないかとカジノ側にも問い合わせた結果、新たな提案を受けたのだ。
「一度ツケの半分を口座の残高で支払い、その後はカジノへの出入り禁止措置を自ら申し出れば、VIP資格はそのまま保留できます。そうして時間を置き、もうギャンブルは止めてVIP会員から外れても構わないと決断できた時点で残りを支払ってもらえば、担保になっている土地を回収する事態にはならずに済みますよ」
勇はその案に乗った。今なら自分を制御できる。だから止めようと思えば止められるだろう。そう考えていたからだ。それが甘かった。依存症の怖さは以前十分学んでいたはずだが、再び手を出した時点で病が再発している事の重大さに気付いていなかったのだ。
これは病気で完治させるには相当な時間が必要であること、抜け出す為には一人ではとても無理で、家族や専門家など周囲の協力が不可欠だとの認識に欠けていたのである。
カジノへの出入り禁止措置を申し出た後、週に二、三回のペースで通っていた勇は、通常のデイサービスを受ける日々が続いた。しかし頭からギャンブルの事が離れず、イライラ募った。そのせいか介護施設でも家に帰った後でも機嫌が悪く、時には介護士や薫にまで激しく怒鳴りつけることが多くなったのである。
それを不審に思った薫は言った。
「お父さん、最近どうしたの? お母さんが亡くなって一時期落ち込んでいたけど、しばらくして落ち着いていたのに。施設の人達とも仲良くなって、土日に会うセンターの人達とも話が合うって機嫌よく出かけていたじゃない。何かあった? 誰かと喧嘩でもした?」
施設で仲良くなっているのは、自分と同じようにカジノ通いをしている連中だ。土日に会っている奴らも、別の施設から通ってくるVIPルーム仲間だから話が合っただけで、それが楽しいから出かけていたのではない。本音では土日だけでも、家でゆっくりしたいと思っていた。それができないのは、お前達が嫌がるからじゃないか。そう口に出したかったが、何とか堪えて誤魔化した。
「ここ最近、何となく体の調子がすっきりしないだけだ。足腰に障害があるんだし、もう八十三にもなるからしょうがないよ」
「え? 大丈夫? 病気なんかじゃないよね? 施設の人からそういう話は聞いていないけど」
「気分の問題だ。なんとなくモヤモヤするだけだから気にするな」
病気という言葉が出てひやりとした。これが前に患ったギャンブル依存症の禁断症状だと分かればおしまいだ。この年になってまた依存症治療の為に通院したり、自助グループに参加したりするなどまっぴらである。
それにもう美枝はいない。このまま依存症が治らないくらいなら死んだほうがましだ。以前勉強したが依存症の自殺率は高く、実際に死のうと考えたり計画したりする人は、低くて一般人口の五倍から七倍だという。
あの頃はそこまで思わなかったが、この年になればいつ死んだって悔いはない。そうだ。残りの人生を今のように苦しみながら終えるくらいなら、やりたいことをやり尽くす方が有意義だ。
そう思い直した勇は、以前相談した担当介護士にお願いした。
「カジノに連れて行ってくれ。出入り禁止の措置を解除したい」
「え? もう、ですか。あれから一カ月も経っていませんよ」
「いいから連れていけ! VIP会員の資格はまだ持っている。俺には行く権利があるだろ!」
勇の申し出を断れなかった介護士は、次の朝のお迎え時にカジノへと移動するバスの集合場所へと連れて行ってくれた。そしてカジノ側のスタッフにも措置の解除申請をしたいと申し出た所、了承を取り付けることが出来たのだ。
ちなみにそのスタッフは以前、施設でセクハラ問題が起こった際に注意を受けた元介護士であることは覚えていた。だがその件について向こうから話題にしたことは今まで一度もない。その為他の奴らに噂が広がることも無かったため、信用をしていた。
だがカジノの施設に着いていざ解除の署名をしようとした際、以前よりツケが利く貸し出しは、それほど多くないと説明された。さらには今度こそ限度を超えたら残りの預貯金だけでなく、土地を担保にして返済して貰うことになると念を押されたのである。
一瞬迷ったがそれでも良いと署名捺印をした勇は、久しぶりのVIPルームで存分に遊んだ。負けてなるものかと気合が入っていたからか、その日は大勝ちした。そこで気分を良くし、再びカジノ通いを始めたのである。
しかしギャンブルで勝ち続けることなど出来る訳がなかった。そこから二か月も経たない内に限度額を超え、とうとうカジノ側からVIP会員証の回収とツケの支払いを要求されてしまったのである。当然通帳に入っている金だけでは足りない。そこで少しでも時間を稼ぐためにと、カードローン会社からお金を借りまくってどうにか返済に充てたのだった。
だがカジノ側への支払いは済ませたものの、今度はカード会社からの返済督促が待っている。最初は支給される年金で利息分だけをコツコツと返していたが、それでは元本が一向に減らない。そしてとうとう最悪の事態に陥った。毎月の利息さえ返すことが出来なかった為、督促の電話が家にかかってくるようになったのだ。
そこで初めて薫達は、勇が借金をしている事に気が付いたのである。当然二人は激怒した。
「お父さん! 何やっているの? もしかしてまたパチンコ? そんなわけないよね。この周辺でお父さんがパチンコ店に出入りしていたら、私達の耳に入らない訳がない。一体何に使ったの?」
「通帳残高もゼロじゃないですか! この中にいくらあったと思っているんですか! お義母さんの死亡保険金と賠償金とお義父さんに支払われた保険金を合わせたら、三千万円はあったはずでしょう。それを使い果たして借金までするなんて、依存症が再発したとしか思えません。一体どこでそんなお金を使っていたんですか!」
「金ならまだあるだろ。この土地の半分は俺の名義になっているじゃないか。それをお前らの名義にすればいい。その分の金を借金の返済に充ててくれ」
開き直った勇の態度に、二人はさらにヒートアップした。
「それで済むと思っているの! お金を返せば解決する問題じゃないのよ! 和雄さんが言ったように、また昔の悪い病気が再発したの? どこでギャンブルなんかしていたの? もしかして土日に出かけた時、タクシーで馬券売り場まで行っていたの?」
薫の質問攻めを無視していると、和雄の鋭い指摘が飛んできた。
「お義父さん。もしかしてカジノに出入りしていたなんて言わないでしょうね」
ぎくりとした勇の表情を見て、薫が反応した。
「カジノ? 嘘でしょ。平日はデイサービスがあるから無理だけど、土日が来る度にY地まで足を運んでいたっていうの?」
もう誤魔化せないと観念した勇は、逆切れをした。
「うるさい、うるさい! お前らのそういう態度が俺をこうさせたんじゃないか! 俺の金を俺がどう使おうと自由だろう。もう残り少ない人生だ。好きにさせろ! 俺だって長生きなんかしたくない。憎いなら殺せ! 早く美枝の所に行かせてくれ! そしたらお前らも、俺の病気に悩まされることも無くなるじゃないか!」
勇の過激な発言と病気という言葉を聞いて、二人は黙った。事の重大さに気が付いたらしい。彼らもまた前回の事でギャンブル依存症については多くの事を学んでいた。そこでいち早く冷静さを取り戻した和雄が、静かな優しい声を出して話し出した。
「大きな声を出してすみません。お互い少し落ち着きましょう。借金の返済に関してはお義父さんの言う通り、土地の名義を私達に変えて、その分のお金で私達が返します。ただこれで終わらないことは、ご自分でも分かっていますよね」
沈黙して答えない勇に、今度は薫が語りかけてきた。
「そうよ。もう一度前にお世話になったお医者さんの所へ行きましょう。ここで感情的になっても問題は解決しないから。これは病気なの。それが再発しただけじゃない。でも癌なんかと違って、時間をかければ治る病気よ。以前だってそうじゃない。でも事故に遭って、お母さんが亡くなったことが引き金になっていたのね。ごめんなさい。私達もあの事があってから、お父さんの病気の事をすっかり忘れていたからいけなかった。それに平日は介護士さんに任せっきりで、土日も一人にさせていた私が悪いんだわ」
泣き出した薫の背中を、和雄が擦りながら言った。
「申し訳ございません。私もあの病気が再発する恐れがあると知りながら、もう大丈夫だろうと安心していたのがいけなかったんです。お義母さんの件と車椅子生活になったことで、お義父さんがどれだけ辛い思いをしていたかなんて、考えが至らなかった私のせいです」
二人に頭を下げられ、勇は戸惑った。そして正直に話した。
「すまん。私が全部悪いんだ。こんな体になって美枝もいなくなった。薫にも介護してもらわなきゃならない体になって申し訳ないと思い、なるべく迷惑をかけないよう土日も出かけていた。最初はただそれだけだったんだ。でもそこで知り合った人に高齢者専用のカジノがあると聞いて、一度行ってみないかと誘われたんだ。それに嵌った俺が馬鹿だったんだ。申し訳ない」
そうして事の発端や、途中でカジノへの出入り禁止の措置もしたが、それでも駄目だったことを告白したのである。勇の話に驚いた表情をしたり、時折怒りで顔を赤らめたりしながらも、最後まで聞き終わった二人は、大きな溜息をついた。
しばらく沈黙が続いた後、薫が口を開いた。
「とにかく私と一緒に以前通った病院へ行って、自助グループにも参加しましょう。お父さんにはお母さんの分まで長生きして欲しいの。だから殺してくれなんて言わないで。お願いだから」
勇は頷き、二人の言うことに従うことを決めた。そしてこれまで通っていたデイサービスの利用を辞め、代わりに薫が勇の介護を全て行うことになったのだ。
しかしこの騒ぎはこれで終わらなかった。和雄は介護施設が家族に内緒で勇を施設に連れて行かず、カジノ施設側の従業員に任せた事を問題視していた。そして法的措置を取るため弁護士を雇っていたことを後に知ったのである。
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