第41話 観覧車の中で
ガタンガタン…と、音を立てながら、観覧車がゆっくりと上に上がっていく。
俺達は向かい合うように座り、外の景色を眺めていた。
「やっぱり観覧車っていいわね。こんな綺麗な景色が見れるんだもの」
「そうだな」
チャラ男がいなくなった後、初音が買ってきたドリンクを飲みながらベンチに座り、会話をしながら30分程休み…その後は、軽いアトラクションを乗って、この時間を楽しんだ。
そして気づけば、日が落ち始め…最後に観覧車に乗りたいとの事だったので、断る理由もないので承諾した。
「「……」」
なんだろうな…無言なんだけど、決して嫌なわけじゃない。どちらかと言うと、心地いい。
そう思っていたのは、俺だけでは無かったようで…初音も、このゆったりとした空気を満喫するように壁に背を付け、足を揺らしていた。
夕暮れが彼女と合わさり、今まで見た中で1番美しく見え…恥ずかしくなった俺は、つい視線を景色に変えた。
「ねぇ…」
「ん?」
初音の声に、視線を戻すと…何とも言えない複雑そうな顔をしていた。
「安曇があのチャラチャラした男達に言った事って、今もそう思っているの?」
「…ああ、今でもそう思っている自分がいる」
一瞬…嘘をつく事も考えた。
でも、気持ちは…思いは…口に出さなければ相手に伝わらない。
言葉にせずとも、相手に伝わるというのは幻想だ。
俺はそれを知っている。
だから…
「正直信じられないんだ。俺みたいな人間が初音みたいな、魅力的な人に好意を向けられているということが…」
「ッ!」
初音の顔が赤くなったような気がするが、続ける。
「もちろん、初音を疑っているわけじゃない。お前と一緒にいて、その…なんだ。
心が満たされるような感覚になった」
けど、同時に怖くもあった。
この気持ちを抱き続け裏切られた時…俺はきっと、もう立ち直れなくなる。
それが分かっているから、最後の一歩を踏み出せずにいた。
「そう…。安曇の気持ちはよく、分かったわ」
初音はそう言うと、突然立ち上がり…真横に座った。
近いんだが…。
肩と肩がくっついている状況に、自然と心拍数が大きくなっていく。
「酔っ払っている時も言ってたし…信じてもらうには、安曇が疑う余地もないくらいに私が愛…せばいいのね!!」
自分で言っておいて、途中で恥ずかしくなったのか…勢いで誤魔化したな。
「だからこれは…その為なんだからね!?」
そう言うや否や、初音は安曇の頬にキスをした。
「は? は…? はぁ!?」
いきなり何してんだ!?
初音のまさかの行動に、思わず唇が触れた頬を押さえ…感触を思い出す。
ぷるぷるで柔らかい、初音の唇が俺の頬に…!! 落ち着け!! 落ち着けぇぇええ!! 心拍数上がるんじゃない!!
初音にも聞こえるんじゃないか…と、思えるほど、心拍数が上がっていく。
初音はそんな事を知らずに、顔を窓に向けているが…反射で映る彼女の顔は、赤く染まっているのが見えた。
「安曇も知っているでしょ? 観覧車のてっぺんでキスをすると…結ばれるって。だからよ」
「そ、そうか」
「「……」」
観覧車に乗り始めた時の無言とは違い…気まずく、恥ずかしい空気が観覧車から降りるまで続いたのだった。
仮の交際終了まで残り10日
---------------------------------------------------------------
完結までもう少し!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます