第40話 美人は得でも損でもある


 「安曇…」


 前で睨みつけている、2人のチャラを警戒しながらも…横目で初音を確認すると、怖かったのか、服の掴み震えていた。


 初音を1人で行かせてしまった自分に、腹が立つが…今はコイツらをどうにかしないとな。


 「なぁ? 聞いてんの? 誰だって聞いてんだけど?」


 「テメェいきなり何すんの? 俺をこけにして、タダで済むと思ってんの?」


 いや、2人いっぺんに話すなし。めんどくさいだろ


 何て返そうか…考えていると、何も喋らない俺に、ごうやしたのか先程転ばしたチャラ男が胸ぐらを掴んできた。


 「黙ってないで、何か言えやゴラァォアア!!」


 「いや、顔近いから。離れてくれない?」


 後少しでも近づいたら、キスをしてしまいそうな距離に思わず、そんな事を言ってしまい…胸ぐらを掴んでいる腕が、更に力が入ったような気がした。


 「お前完全に嘗めたんだろ?」


 「まぁちょいちょい待てよ? 俺はコイツをボコる前に聞きたいことがあるんだけどさ〜もしかして、お前…この女性を助ければ自分を好きになってもらえるとでも思ったの?」


 今にも殴りかかってきそうな、チャラ男をもう1人が止め、胸ぐらを離すと…馬鹿にするように、笑いながらそんな事を喋り出す。


 コイツ等のように、人を馬鹿にし…傷つける事に対して、何も考えていない奴らを見ると、本当にどうして神が人間を作り出しのか、分からない。


 俺達みたいな、不完全な生き物を…。


 ああ…駄目だ。今はそんな事を考える事じゃない。先にコイツ等をどうにかしないと。


 かと言って、暴力での解決は無理だな。


 喧嘩は子供の頃した時ぐらいだし、自分が強いなんて思わない。


 とりあえず、時間が経てば警備員が来るだろうし…時間を稼ぐか。


 最悪、俺が殴られても初音を守れればいいしな。


 「好きになってもらうも何も、コイツは俺の彼女だが?」


 「「は?」」


 意味が分からないって顔をしているな。


 安心しろ、俺でも未だに、信じられてないからな。


 「「ハハハハハハハハ!!!!」」


 「ん〜まぁ、予想通り」


 予想通りの反応に、思わずニヤケそうになる顔に、力を入れる。


 「ハ? 妄想も大概にしろよ? お前みたいな平凡で、何にも魅力がない奴が、こんな可愛い彼女がいるはずないだろ?」


 「マジでキモいからなそれ。お前みたいな陰キャは1人寂しく自分を慰めてろよ」


 「まぁ、普通に考えて信じられないよな。俺でも未だに、不思議に思うからな〜無理もない」


 「あ? 何お前? マジでキモいんだけど」


 「いい加減消えないと殺すぞ?」


 俺がキレると思っていたのか、なんて事もないように話し出す俺に…イラつきだした。


 とりあえず、まだ時間は稼げるな。


 「いや、お前もさっき言っただろ? 俺には魅力が無いって…その通りなんだよ。

 イケメンでも金があるわけでもない。そんな俺をコイツは好きだって言ったんだ。最初は普通に免罪にかけようとしてるのか? と思ったけど…どうも本気みたいでな、その事実に未だに信じられないんだよ」


 「お前もう黙れ」


 「ぐっ…!」


 また胸ぐらを掴まれ…遠巻きに見といた人達がざわついた様に感じた。


 「お前みたいな陰キャは、生きているだけで目障りなんだよ。死ねよ」


 (あっ…これ間に合わないな)


 迫りくる拳に、受け止める事が間に合わないと…語った俺は、顎に力を入れ、少しでも弱めとした。


 だが…。


 「いい加減にしなさい!!」


 「あ?」


 お前…人見知りの癖に、無理すんなよな…。


 心の中では、そう思いつつも…俺を助ける為に、こんな人目のつく場所で大声を出してくれた初音に、嬉しさが隠せなかった。


 「さっきから聞いてれば、人の彼氏をズタボロに言ってくれて…これ以上、彼を傷つけるようなら許さないわよ!」


 「へぇ…許さないってどうするんだ?」


 「そんなの簡単よ…」


 初音はそう言うと…大きく空気を吸い込んだ。


 あっ…展開が読めたわ。


 「誰かぁああああ!! 助けてぇええええ!! 犯されるぅううううう!!」


 「なっ!?」


 「テメェ!!」


 「ばぁ〜か」


 初音が叫んだせいか…内容のせいか、遠巻きに見ていた男の人達の何人かが、こちらに走ってくるのが見えた。


 その後ろには、警備員らしき人も走ってくるのが見えた。


 「クソが!! テメェ覚えてろよ!!」


 「このままじゃ済まねぇからな!!」


 そう吐き捨てるように、言うとチャラ男の2人は走って消えていった。


 助かった…助かったのはいいんだが、1つだけ言いたい。


 俺が殴られそうになってる時は、誰も助けようとしなかった癖に、初音が助けを求めたら、走ってくるってどうなんだよ…。


 つくづく美人は得だな…と思わずにはいられなかった。

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