第36話 ゴチになります


 「私の名前は山本やまもと杏奈あんな 是非覚えておいて下さいね!」


 聞いてもいないのに、名乗り出した金髪ギャルの山本を不思議に思いながら…奢ってくれる店に到着した。


 そこは、外装だけでイタリアン系のお店で、いかにもオシャレな若者に人気そうだと、簡単に想像できた。


 正直な所、こうゆう所は好きじゃないんだがな…。


 「安曇君! 早く行きましょ!!」


 「分かったから、店の前ではしゃぐな…」


 店の前で、手を振る金髪ギャルの山本に近寄りたくないが…せっかくのタダ飯を逃したくもない。


 これで、不味かったら…どうしようか?


 と、言っても特に何か出来るわけじゃないんだがな…。


 そんな事を思いながら、金髪ギャルの山本に続き、店に入ると…これまた、オシャレな内装だった。


 全体的に、明るい茶色で、植物なども置かれており…心なしか、外よりも空気がよく感じた。


 「いらっしゃいませ。何名様でございましょうか?」


 「2名です」


 「かしこまりました。お席へご案内します」


 案内された席は、外がよく見える席だった。


 「メニューがお決まりになりましたら、こちらのボタンを押して下さい」


 店員は、赤いボタンを示しながら、下がっていった。


 「安曇君は何を頼む? 私は小さなピザとナポリタンかな? ピザは2人で食べよ?」


 金髪ギャルの山本が差し出してくる、メニュー表を見ると…色々なパスタやサラダ スープにピザが写真と一緒に書かれていた。


 「んじゃ、カルボナーラとシーザーサラダで」


 「あっ! それならサラダを多くしてもらって、2人で分けましょ!」


 思いついた! と言わんばかりに、両手の手の平をくっつけ…金髪ギャルの山本を見ていた者は、思わず見惚れてしまった。


 彼女と一緒に来ていた男は、彼女から足を踏まれたり、ビンタされたりされていた。


 逆に、外で見ていた者は…電柱にぶつかっていた。


 しかし…安曇のタイプは、山本の真逆で初音みたいな、黒髪ショートが好み故に効果は無かった。


 「ん、ああ…別にいいぞ」


 取り皿を貰えば衛生的にも問題ないしな。


 「じゃあ、押しちゃいますね!」



 **********



 「美味しかったね〜!」


 「そうだな」


 値段も割高だったが…今日は奢りだし、満足だ。


 もし…初音と仮の付き合いが終わっても、変わらない気持ちだったら、一緒に行ってみるのもいいな。


 「あっ! そうだ! ねぇ、◯INEのID交換しましょうよ!」


 前を歩いていた、金髪ギャルの山本がくるりと振り向き…そんな事を言ってきた。


 「なんで?」


 別にいらんだろ


 「あ〜! そんな事を言うの!? 私はこんなに安曇君と仲良くなりたいと思ってるのに!!」


 ぷりぷりと怒り出す、金髪ギャルの山本を見ていると、どうしても違和感を感じるんだよなぁ…。


 「隙あり!」


 「あっ…」


 ぼ〜としていた、せいか…隙を突かれてポケットに入れていた携帯を奪われた。


 「はい! 交換しておきましたよ!」


 「別に連絡することないだろうに…」


 俺は、増えた連絡先を見て…つい、ブロックを押したくなるが、諦めてポケットに携帯をしまうと、地下鉄が見えてきた。


 「今日はありがとうございました!! では、また!」


 「ん、ゴチになった」


 …ん? またね?


 「おーーって、もういねぇ」


 視界から早く消えた金髪ギャルの山本に、感心しながら…反対側の階段を降りて、地下鉄に乗った。


 「何かきてるかな?」


 金髪ギャルの山本の事は、頭の隅に置き…何気に◯INEを開くと、初音から2通のメッセージがきていたことに気づいた。


 「あ…まぁ、帰ったら返すか」


 その後、家に帰った安曇は、今日の事を話すと…嫉妬した初音に、説教されたのは別の話。

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