第35話 貴方の名は…?


 「それで? 何を奢ってくれるんだ?」


 「え? 奢りですか?」


 ん? 飯を奢ってくれるんじゃないのか? それなら帰るか。


 隣で首をかしげる、金髪ギャルを置いて行くように、ペースを合わせないでドンドン進んで行くと…後ろから、慌てたように走ってきた。


 「待ってください! 何で置いていこうとするんですか!? 奢りって事はご飯が食べたいんですよね!! それなら私の家にご招待します! これでも料理は得意なんですよ?」


 「え? 無理」


 胸を張りながら、そんな馬鹿げた事を言ってくる金髪ギャルに呆れを隠せなかった。


 「どうしてですか!?」


 いや、何信じられない! みたいな顔をしているんだ?


 信用していない奴と、個室に行くなんて考えられない。


 「友人以下の奴の家には行きたくないだけだ」


 「え? 私達もう友達ですよね?」


 「はぁ?」


 えっ? コイツ何言ってんの?


 考えが、顔に出ていたのか…金髪ギャルはショックを受けたように、後ろに下がった。


 「そ、そんな…私は友達だと思っていたのに! そう思っていたのは私だけだったなんて…悲しいです」


 いや、そんは悲痛そうに言うなし。


 しかし…いつ、金髪ギャルから友達認定されたんだ? 全く記憶にないんだが。


 「俺の友人になるには、そんな簡単な事じゃないんだよ」


 俺…何言ってんだ?


 思わず、出てしまった言葉に、自分でも理解出来ず少しのあいだ、止まっていると…金髪ギャルに腕を絡め取られた。


 「いや、急になに?」


 一瞬の隙をつかれ、絡め取られた右腕を金髪ギャルから離し…距離をとったが、腕に触れた感触を思い出す。


 「あれ? 少し顔が赤くなってる? ごめんね? ちょっと触れられるのが嫌そうだったからつい…」


 悪戯っぽく、笑う金髪ギャルが、だんだんと遠慮がなくなってきている事に…、イラつきが若干顔を出す。


 「つい…って何? 本当に帰るぞ?」


 「わぁぁああ! ごめんなさい! お礼に美味しいご飯が食べれる店でご馳走するから許して下さい!!」


 帰ろうとする安曇に、金髪ギャルは引き止めようと腕を伸ばすが…ことごとく避けられる。


 ていうか、こんな道の真ん中で騒ぐなよ。こっちが恥ずかしいわ。


 「分かったから、早く案内しろ。そして、食って直ぐ帰る」


 「分かりました…そういえば、貴方の名前は何て言うんですか? 聞くのを忘れてました!」


 「別に言う必要ある? 飯を食ったら、もう会うこともないだろうし」


 「いいえ! もしかしたら、会うかもしれないじゃないですか!! その時に名前が分からなかったら、呼べないですから、気づいてもらうのに、触れる必要がありますよ?」


 む…確かに、名前を呼ばれなければ、少なくも自分が呼ばれているとは思わないな。


 触られるぐらいなら、名前で呼ばれる方がマシか…。


 「安曇あずみしょう


 そう答えると、金髪ギャルは…何度も俺の前を繰り返し、顔を上げた。


 「安曇君ですね! 覚えました!!」


 「そうか」


 何事もなかったように、足を進めると…背中に軽い衝撃を受け、振り返ると金髪ギャルがむくれたように見ていた。


 「そうか…じゃないですよ! そこは私の名前を聞く所じゃないですか!!」


 「いや、別にいい」


 そう言うと、金髪ギャルは大きくショックを受けたように…電柱に手をつけだした。


 ブツブツと言い出した、構ってオーラ全開の金髪ギャルをスルーして、俺は足を進めた。


 本当にお礼がしたいなら、直ぐに追いかけてくるだろう。



 そして、その予想は当たり…後ろから走って来た、金髪ギャルと会うのは、3分が過ぎた後だった。

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