第33話 入院


 「最悪」


 眼が覚めると、知らない天井が映り…体を起こそうとするが、痛みでベットに戻ってしまった。


 「眼が覚めたんですね!!」


 「んあ?」


 声がした方に、何とか首だけを動かして見てみると…金髪のギャルが、そこにいた。


 …誰だっけコイツ。


 金髪のギャルは、少し離れた椅子から立ち上がり…小走りで駆け寄ってくる。


 「あの時は、助けていただきありがとうございました! もし、貴方がいなければ、私はどうなっていたか…」


 そう言う、金髪のギャルは自分の体を抱きしめ…震えており、俺はこんな状態になったが、少しだけ心が軽くなったように感じられた。


 「別にいい、気がついたから通報しただけだ。まぁ…その後の事は、予想の中でも嫌な方だったけどな」


 あの時、男達は背を向けていたし、気づかれないように小声で警察に電話した。


 気づかれないと思っていたんだがな…。


 「そうです! 怪我の方は大丈夫なんですか!? 貴方が倒れた後、直ぐに警察が来て救急車を呼んだんですが…」


 「いや、普通に痛い」


 ここで強がる男もいるんだろうが…痛いものは痛い。それだけだ。


 視線を金髪ギャルに向けると、心なしか顔が一瞬、引き攣ったように見えたのは気のせいか?


 「ど…どうしましょう!! とりあえず、先生を呼びますね!!」


 そう言うや否や、パッ…と立ち上がり、ベットの横にあるボタンが押すと、そんなに時間も経たずに、白衣を着たイケオジがやって来た。


 この人絶対、20年前はイケメンだっただろ。


 「はいはい、ちょ〜と失礼するよ」


 そう言って、躊躇なく俺の上着をめくり…体をジロジロ見たり、触ったりしだした。


 手慣れてるなぁ…きっと、この技術は若い頃に遊んで身についた物なのだろう。


 そんな見当違いの事を考えていると…一通り調べたのか、イケオジ先生が立ち上がった。


 「うん、打撲」


 「打撲」


 「そう、念の為…酷かった場所には湿布を付けて、今日1日は安静にしておこうか」


 何だ、ただの打撲か…まぁ、骨にヒビが入っていないだけ良しとするか。


 「そうなんですね!! 良かったぁ〜もし、貴方に何かあれば私…!」


 悲痛そうに、両手で眼を隠す金髪ギャルを、イケオジ先生は…慣れたように肩に手を置いた。


 「いや、お前…俺のなに?」


 思わず出てしまった言葉に、2人は固まり…金髪ギャルは、恥ずかしそうに口を開いた。


 「私の…恩人です」


 そう言うと、頬を染めながら…病室から出ていった。


 そんな所を見ていた、イケオジ先生は悪い笑みを浮かべながら…俺の肩に手を置いた。


 「彼女…君に好意をもってるよ? 誘ってみればワンチャンあるかもよ?」


 なに言ってんだ、このオッサン。


 オッサンの下ネタに、思わずため息が出る。


 「あのなぁ、オッサン。俺には一応彼女がいるんだよ。それなのに誘うとか、ワンチャンとか無いから」


 少なくも、仮であろうが、付き合っている以上は大事にする。


 本当の俺を知った上で、それでも初音が本気なら…俺も覚悟を決めるべきだろうな。


 「そう? 勿体無いなぁ〜彼女はあんなに美人なのに」


 「知ってるかオッサン。容姿が良い奴の9割は性格が悪いんだよ」


 「ん〜彼女は違うと思うけどね。とりあえず、私は戻るよ。くれぐれも安静にね」


 「うい」


 去っていくオッサンの後ろ姿が、横引きのドアで見えなくなった。


 「本当に、最近色々ありすぎだろ…」


 俺は、そうぼやき…再び眠りについた。

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