第5話 再開


 「あ…どうも」


 「どうも」


 眼が合うと、黒髪ショートの女性は椅子から立ち上がり…頭を下げた。


 俺も続くように頭を下げ…。


 「「………」」


 で…? もしかしてあれか? お礼的な。


 お互いに間が続くと、突然バン! と…扉が大きく開いた。


 「やだ〜優衣可愛いい〜!! 困ってる姿が見たくて入らなかったんだ、許してちょ?」


 赤髪の女性が、俺の横を走って通り過ぎ…黒髪ショートの女性に抱きつき、頭を撫で出した。


 「近くにいてって言ったのに…」


 「だから、ごめんって…」


 何こそこそ話してるんだ? 帰ってもいいかな?


 俺が扉を開けようとすると、それを察知したのか赤髪の女性が走ってきて…腕を掴まれた。


 「ちょいちょいちょいちょーーい!! 何帰ろうとしてるのさ! 全く油断も隙もあったもんじゃない!!」


 「いや、めんどくさそうだし…」


 「めんどくさい!? 君はこ〜んな美人2人を前にして、めんどくさいとは何事か!!」


 「ちょっと…」


 赤髪の女性は、黒髪ショートの女性を前に突き出し…その肩に顔を乗せた事に、不満の声を漏らした。


 「いや、確かに美人だとは思うが、俺には関係のない事だし」


 少なくとも、現状この2人をブスと言う人間は少ないだろ。


 「へぇ〜」


 俺がそう言うと、赤髪の女性はニヤニヤと、気持ちの悪い笑みを浮かべ…肘で横腹を突いてきた。


 「君から見ても、私達はとって〜〜〜も可愛く見えるんだ〜! そうかそうか〜!」


 「うぜぇ」


 あっ…やべ、あまりのウザさに、つい口から出てしまった。


 「ひっどぉ〜い! そんな事、親と友達と同じ会社の人にしか言われた事ないのに〜!!」


 「んで、俺に何の用?」


 「あっ! 無視した無視した!」


 コイツの相手をしても、疲れるだけだと理解した俺は、基本的に無視する事を決めた。


 それは合っていたみたいで、赤髪の女性は不貞腐れたように息を吐き出し、黒髪ショートの女性の肩に手を置いた。


 「優衣ーあっ、この子の名前ね? 優衣が君に恩を押し付けられた事が気に入らないみたいで、お礼をしたいんだって〜私達に出来る事なら?」


 「ちょっと、私何でもなんて言って…モガモガ」


 「シィー…」


 おい、聞こえてんぞ。


 ハァ…こんな美人2人が何でもしてあげる何て言われたら、は良からぬ事考え奴が大半だろうな。


 まぁ、こんな見えすいた罠に引っかかる俺じゃないけどな。


 どうせ、ここで俺がエロい要求をしようものなら、今ここで録音している音声を、後々編集して、それを材料に脅すに違いない。


 「んじゃあ、さっきそこで見かけたマク◯ナルドでビック◯ックを奢ってくれ」


 本当はお礼なんていらないんだが、恩を押し付けられたと言って、ここまで俺を連れてくる奴だからな…きっと、俺がお礼を受け取るまで帰してはくれないだろう。


 「え? そんな事でいいの? エチチな事は?」


 コイツ…痴女なのか?


 赤髪の女性に関しては、深く考えようとすると頭が痛くなるので、痴女だと思っておこう。


 「……うん、分かった」


 「宜しく」


 黒髪ショートの女性は、何か考えるように眼を閉じ…携帯を取り出し触っていると、赤髪の女性が耳元で何かを呟くと、頷いたかのように見えた。


 「頼んだ」


 頼んだ? まさかと思うが、ここまで運んでもらうわけじゃないよな…?


 「じゃあ、届くまでお姉さん達とゆっくりお話でもしよ?」


 そう言った赤髪の女性の顔は、ニヤニヤと殴りたくなる顔をしていた。

 

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