夜景に臨みながら

 ※ ※ ※


 星をまばらに散りばめたような、金沢市内の夜景が目の前に広がっている。黒く左右に伸びている線は、浅野川か。遙か西の彼方には山並みの稜線が見える。


 温かい風が吹き抜けてきた。


 心地良さに身を包まれながら、藍子は展望台の端へと進んでいく。


 人が二人立っているのが見える。晃と、綾汰だ。


「やっほ」


 藍子は手を振った。


 振り返してきたのは、晃だけ。綾汰は目を逸らして、ずれた眼鏡の位置を直しただけで、特に挨拶も返してこない。


「こーら、一言くらい返してよね」


 近寄った藍子は、綾汰の頭を、拳骨でコツンと叩く。


「痛っ、何するんだよ」

「馬鹿弟に一発お仕置き」

「お仕置きされるようなこと、何もしてないぞ」

「あのねえ、これまでの数々の狼藉を、たった一発でチャラにしてあげよう、って言ってるんだよ。そこは、お姉ちゃんの優しさに感謝感激雨あられしてほしいなあ」

「こっちだって、藍子さんにはいっぱい迷惑こうむってるんだけど」

「なるほど。じゃあ、お互い様か」


 コロコロと楽しげに藍子は笑ってから、頭を差し出した。


「はい、どーぞ」

「え? 何、どういうつもり?」

「私も綾汰に迷惑かけてたんだったら、今の一発は、余分な一発でしょ。だから、叩かせてあげるの。はい」

「叩けるわけないだろ……バカ」


 綾汰はふてくされたように、あさっての方向を向いてしまった。


 その間に、晃はヤレヤレと頭を振りながら、二人から離れた。距離を置いて待っている辰巳のところへと寄っていき、そこで成り行きを見守る。


「ねえ、綾汰。私達ってさ、変な関係だよね」

「変って、どこらへんが」

「姉と弟だけど全く血が繋がってないし、片方は友禅作家で片方は修行中だし、その友禅にしても作風も作り方も全然違うし、ほんとチグハグ」

「世の中には、もっと変な兄弟姉妹、いくらでもいるだろ」

「うん、そうだね。だったら、なおさら変だよね。私達、こんな風にギクシャクした感じになるはずないのに、どこかで歯車が狂ってるな、って」

「藍子さんは、何だと思う?」


 綾汰はいまだ顔を背けたまま、藍子に訪ねてきた。

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