第39話 仮面舞踏会
もう、それしかないだろう。サイラスの事になれば絶対、ミネア様は協力してくれるはずだ。けど……あれを呼ぶ。かなり勇気がいる。ぼっこぼこにされるかも……いや、体は一緒だからそれはない、かな?
悶々としていると、ゼノスが言った。
「戦女神をお前の体に降ろすんだよな? でも、あれをやると、憑依から解放された時、お前、丸一日昏睡するだろ? 今はまずいんじゃないのか? 今夜各国から賓客を招いた舞踏会が開かれるだろ? 主役がぶったおれたなんて大騒ぎになると思うが……」
え? あ……。着飾った自分の体を見下ろし、
「忘れてたか?」
ゼノスの台詞にえへへと苦笑い。はい、すっかり忘れてました。
「ね、その舞踏会なんだけど、僕達も参加できるの?」
ロイが口を挟んだ。あ、それな。
「ルーファスが協力するとか言ってるけど、どうする?」
詳細を説明すると、ゼノスの眉間に皺が寄る。
「内緒で潜り込めってか?」
「ばれたら、冗談ぴょーん! って言って逃げればいいって、ルーファスが」
「……やることなすこと全てがふざけてるな、あのくそじじい」
ゼノスがそう吐き捨てた。
爺さんからくそじじいに変わってやんの……。まぁ、気持ちは分かるが。
聖光騎士団が参加している舞踏会に、
「僕はごちそうが食べれればそれでいいんで、大人しくしてるよ?」
ロイは期待に満ち満ちた目だ。
「ルーファスに頼んでみる。で、参加するしないは個人の自由で」
「はーい」
元気よくロイが答える。
まぁ、ごちそうにがっつくだけなら、さほど問題はないかもな。そんな風にも思う。
エレミアを除いて。
ほんっとあいつ、どうにかしてくれ!
舞踏会は盛大に行われた。
魔法での飾り付けって本当に凄い。つい、見入ってしまう。光が空中に浮いて、実に幻想的で美しい光景だ。装飾も料理も気合い入りまくりである。
ロイが来たがるわけだ。
暗殺者時代にいろんな夜会に出席したけれど、そのどれよりも凄かった。まぁ、なんてったって、暁の塔は魔道界の頂点に君臨する。そして五大魔道士は、一国の王に匹敵するだけの権力を持ってるわけだから、あたりまえかもしれない。
しかし……。
仮面を付けた紳士淑女達を目にして顔が引きつってしまう。
ルーファスの奴、本当にやりやがった。
いや、確かに私が頼んだんだけどな。一体どうやったんだよ? これ。ふざけまくりのルーファスでも、一応五大魔道士の一人だから意見が通ったのか?
まぁ、聖女のお披露目なんで、私は仮面を付けることは出来ないし、挨拶に来た人達は挨拶の直前で仮面を取るけど、それ以外は仮面、仮面、仮面だ。
これだと、顔が覚えられないじゃん。覚えなくて良いのか?
「聖女様、ご機嫌麗しゅう」
どこぞのお貴族様がそう言って挨拶する。はいはい、分かった分かった。とりあえずにこにこしてりゃーいいんだな? こっちの方が偉いんで、良きに計らえって感じで、何もしなくていいらしい。ははは! 楽だな!
「聖女様、今宵は我が愚息の為に、かような仮面舞踏会を開いて下さり、まことにありがとうございます」
そう言って挨拶をしたのは赤い騎士団服の男で、うん、聖光騎士団の奴だ。顔が引きつりそうになってしまう。
仮面を取った顔はナイスミドルで、真っ当そうに見えるけど、本性はわからん。んでもって金の装飾があるから、団長クラスだな。続いて名前と地位を聞いて総団長だと分かる。うわお、聖光騎士団の中でいっちゃん偉い奴。
で、そーいうのがこうやって頭をさげる、と……。
おいおい、聖女ってどこまで偉いんだ? あ、そうか。私は普通の聖女じゃなくて、予言の書の中の
聖光騎士団総団長が笑いながら言った。
「私の息子は半身に酷い火傷をおっていましてな。今宵の夜会は、仮面舞踏会などと洒落た趣向にしていただき、本当に感謝しております」
ふっと視線を横にずらすと、ああ、成る程と思う。
息子らしい人物は仮面をつけたままだが、確かにケロイド状の火傷が首元にあるのが分かる。相当酷そうだ。もしかして、ルーファスはこいつの為という理由をつけたのか? それで意見が通った?
しかし、火傷の跡、ねぇ……。ルーファスなら一発で治せそうだけどな? あいつは稀代の癒やし手だぞ? あいつの治療を受けるために、いろんな国から多くの人間がやってくるってのに……。
そう思って挨拶が終わった後、会場にいるルーファスを探し回って、ちょいとつつけば、
「ああ、治せん」
そんな返答でびっくりした。治せない?
「なんで?」
ルーファスがわっさわさの髭を撫でながら言う。まさに木の精霊。
「オリビエのあれは魔道実験の失敗による火傷じゃから、治癒魔法を受け付けない。というか、実験によって得た驚異的な再生能力が、あの形に修復してしまうから、もう、どうしようもないというか……」
私は目をむいた。
「魔道実験の失敗? そんな事やったのか?」
「わしらじゃないぞ?」
ルーファスが釘を刺した。
「わかってるよ。聖光騎士団の連中が、だろ?」
「ああ、裏でかなりいろんな事をやっておるようじゃよ。暁の塔では非人道的な魔術は厳しく規制されているが、ああいったところまでは目が届かない。聖光騎士団内部はほぼ無法地帯になっているようじゃな」
「放置って事か?」
「表沙汰にならない事件では、こっちとしてもどうしようもない。ただ……オリビエの場合は自ら志願したというから、たとえ事実を明るみにしたところで、罰することは出来んじゃろうな」
「志願って、金が欲しかったとか?」
「聖光騎士団総団長の息子じゃぞ?」
違うか。確かに身なりは良かったからなぁ。地位も金もあって、なんで実験台に志願?
「噂では力を欲したようじゃ」
ルーファスがそう答える。
「力を?」
「左様。総団長の息子としてふさわしい力を、ということらしいな。わしには理解できんが、そういうこともあろうな」
「肩身が狭かったとか?」
暗殺者集団の中ではそういうこともある。力の無い者はゴミ屑扱いされたから。死ぬと分かっていて、否、いらないから死ねという命令で仕事をさせられる場合もある。
ルーファスは首を捻った。
「オリビエは父親と違って異能の力を持ってはいなかったが、戦闘訓練を受けた実力者じゃったよ。あのままでも十分、騎士団員としてやっていけたじゃろうに、何故命の危険を冒してまで、実験体になどなったのか……。リアンとの結婚も間近だったというのに、お陰で破談……」
「リアンと結婚!」
ビックリしすぎて声が裏返った。リアンはサイラスに執心しているように見えたけど? あれ、間違い? えええ?
「いや、でも、あれ? リアンはサイラスが……」
「ああ、サイラスに似ておったな」
ルーファスがからからと笑う。はい?
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