虹色の世界

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はじめに

 父の臨終の際の顔は、私が今までに見たこともない会心の笑顔でした。享年八十六歳。母と娘たち夫婦と孫たちに見守られての旅立ちでした。四日後、葬儀のために衣服を整えようとした時、父の体全体が大きく様変わりしているのに驚きました。私はその姿を見て、父が『虹色の世界』に、歓喜に包まれて溶け込んだことを確信したのです。

 私は、大学を卒業後、小学校の教員として教育に携わっていました。四十代後半から重い更((注)年(1))期障害に陥り、更年期症状として挙げられる二十項目のうち、十八項目を体験してきています。症状が次々現れる中、四年目頃にウイルスが腸に入る大病を患いました。やっとの思いで窮地を脱した私は、生き抜き、今ここに存在することへの無上の感謝の念を抱いたのです。その時、歓喜の中で無意識の世界に溶け込んでいったのでした。

そこは、すべてが『虹色の世界』でした。自分で作り出している意識の世界とは、まったく異なる次元に存在していたのです。宇宙のリズムと同調し、他者の意識とも緊密に結びついていました。時間は存在していませんでした。

虹色に彩られた無意識の世界への旅は、私に大きな視点の変化をもたらしました。一瞬一瞬の時空の形成の中に無限の軌道があり、どこまでいっても、個は個として存在し続ける生命の永遠性を確信しました。また、意識世界は、すべて自分自身の一念によって形成され、自分を取り巻く環境はすべて自分自身の投影であったのです。

教育の関わり手としての半生、無意識への旅を経験して気づかされた現実世界の在りよう、そして厳然たる父の成仏相。

私は思うのです。今、語るべきことは、今語ろうと。

注1【更年期障害】 更年期とは、閉経をはさんだ前後十年間ぐらいの時期を指します。閉経が近づくと卵巣の働きが低下し、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの量が急激に減少します。それに伴って身体に出てくるさまざまな症状を総称して更年期症状とよびます。また、日常生活に支障をきたすほどの強い症状が出る場合を「更年期障害」といいます。

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