取り敢えず。
鈴木カプチーノ
第1話 たいやを焼いてみた
"たいや"の焼き方を調べてみた。すると面白い方法が出てきたので取り敢えず実行することにしてみた。
「ねぇ!みぃちゃ!!!」
「んー?どしたんね」
私、田崎みゆは今台所に立っている。無論裸エプロン…ではなく普通に服を着て、包丁を構えて、まな板の上に乗った赤みがかった魚を見据えている。
「そのおさかなさんなーに?」
隣でぴょこぴょこ台所を覗き込んでいるのは私の妹、田崎まな。今年で小学1年生になった私の可愛らしい妹である。普通に可愛い。我ながらシスコンだなぁとしみじみ思う。普通にまなに構いたいが今日だけは、今日だけはこの魚と相対さなければならないのだ。許せ、まな。
「このおさかなさんの名前はね」
ごくり。まなが生唾を飲む音が聞こえる。さすが小学1年生、この結果発表の感覚は新鮮なのか。
「みぃちゃ…?」
散々溜めて散々溜めて、3分くらい経過した後に私は一旦深呼吸をしてまなの目を見た。じっと見つめてまた1分ほど。そして1分ほど経って私は言葉を発する。
「真鯛」
「まだい!?」
そう、まな板の上に乗ったこの魚の名前は真鯛。紛れもない真鯛。どこからどうみても真鯛。真鯛なのだこれは。タイの中でも最高級。25年は生きているであろうかなりのサイズ感の真鯛。
「尾から頭にかけてこの刺身包丁でうろこを剥いでくよ」
たいやの焼き方を調べると頭に出てくるのは真鯛の塩焼きの作り方。そう、たいやを焼くというのはタイヤではなく鯛や、なんてね。
「みぃちゃみぃちゃ」
「おん?」
「まな、なにかお手伝いする事ある?」
「んじゃ塩を持ってきて欲しいな」
「うん!分かった!!」
うろこを剥ぎ下ろした私は真鯛を水で洗いながら菜箸を用意する。今から内臓を捻り出すのであまりまなには見せたくないのだ。というのも。
魚を捌く際にネックとなってくるのは内臓の処理。普通は魚の腹部に包丁をぶち込んでから穿り出したりとかするんだけど。鯛の塩焼きだけは別。目出鯛ってことばあるじゃない?鯛は縁起物としても機能するのよ。そんな鯛の腹を裂こうものなら切腹を連想させて運気が下がるわけ。そのため、内臓を処理するには鯛の口から箸をぶち込み内臓をほじくりだす方法になる。
「とまぁこのように」
「みぃちゃお塩とってきた!」
「ありがとまな」
ちょうど下処理が終わったタイミングでマナが戻ってきたのは私のマジックでもある。ワザと遠いところに塩を置いていたので下処理は見せずに終了。
そしてまなが持ってきてくれた天然の粗塩を目一杯高い位置から真鯛に振りかけていく。ここがポイント。高い位置から降りかかることで魚にムラなく塩を馴染ませることが出来るのだ。
「よし!まな!あとは待機!」
「うん!じゃああそぼ!」
「んなやりますかチャンバラ」
「まなはまだ天の型しか出来ないからみぃちゃ手加減してよー?」
「もちろん、流石に本気とか出さないよ!」
田崎家では常に佩刀を義務付けられている。田崎流繰刀術天の型とは、常に上段に構えて頭上から脚先まで高速で刀を振り下ろし衝く型。田崎家では2歳からこの型を仕込まれるのである。
「鵬刀(ほうとう)の一閃を奉る」
「鶴刀(かくとう)の一閃を奉る」
天の型はこの二種類から成る。私が得意としてるのは防御の型、鶴刀。そしてまなが得意としているのは攻撃の型、鵬刀の型。そして始まる前には一振りを相手に献上するという意味も込めて型の名乗りを上げるのだ。
「「今ここに二羽の刀、成る!!!」」
先手はまなの一刀。踏み込んだ右脚が木製の中を軋ませながらまなは上半身を翻し私へ基本の型、上段浴びせ切りを打ち込もうとしてくる。が、私もそんなに甘くない。
「カッ!」
刀を左手に持ち替え、まなの方へ前転するかの如く前のめりになり背中でまなの腕を後ろへ受け流しバク転。
スパン。
「テェイッ!」
「いたっ」
「長生きした分コンマ1ミリだけ、私の方が上かな」
受け流されて体勢を崩したまなの頭に一本。一応言っておくけど私たちが持ってる刀は普通に緩衝剤で出来たスポンジ刀です。
「みぃちゃ…!もう一本!!!」
「ケッ!こわっぱが!」
打ち合うこと30分、大人気なく7戦全勝を上げた私はまなの頭をポンポンしてからまた真鯛に向き直る。真鯛さん、あんたのこと忘れてないよ。
「今からこの真鯛焼いてくね」
しかしそのまま焼くのはタブー。そのまま焼いてしまうとヒレが焦げてくるので、化粧塩と一緒に背びれ尾びれにも塩をきちんと振りかけて。そしてアルミホイルで真鯛を包んでフライパンへポイ。火はもちろん弱火。低火力でじっくりコトコト焼いていくのです。いぇい。
「みぃちゃ…!良い匂いしてきた…!!」
「鯛や、これが真鯛の塩焼きや…!」
そして。完成。「真鯛の塩焼き」。
美味い鯛の焼き方は意外と拘りどころがあるのです。
「んじゃいただきましょ!」
「うん!まなもたべる!!!」
「「いただきます!」」
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます