第11話 葬儀
この国では火葬が主流だった。
各国でも珍しく、今回の葬儀もまたその予定だった。
だが、できなかった。
遺体を回収しに行った兵士達曰く、
焼け落ちた村から遺体は発見されなかった。
大勢の死体が忽然と姿を消したのだ。
剣士の死体も例外ではなかった。
その為、葬儀は死体がない状態で行われた。
形ばかりの葬儀は、神父によって執り行われた。
「全く……」
神父は眉間に皴を寄せながら、天に向かって、
朗々と聖書の一節を読み上げる。
「主よ。我らを創り育む神よ。今御身の元に魂が旅立たれました。
主よ。御身の寵愛と慈愛をもって、魂に安らぎを齎し給え」
敬虔な信仰こそが亡者の無念を晴らす。
その信仰を胸に、俺は空を見上げた。
しかし、旅立つ魂は一向に見えないままだった。
* * *
「今日は足を運んで頂き、有難う御座います」
「これも仕事ですので」
葬儀を終え、俺と魔法使いは神父に挨拶しに行った。
神父は鬱陶しげに、俺達の言葉を一蹴した。
「何ですか?」
「……いえ」
眼鏡を拭きながら、応対する神父。
「そういえば、例の魔女の件ですが」
「!」
魔女と聞いただけで、心臓の鼓動が速くなる。
「殲滅部隊を向かわせたので、ご安心を」
「……は?」
顔を上げれば、神経質そうな眼差しと目が合った。
「殲滅部隊?」
「ええ、三万程」
「三万!?」
「少々、多いかもしれませんが。これも世界の為」
国王に取り次いで、軍の人員を駆り出したらしい。
「何故国王陛下が?」
「貴方方は知らなかったのでしょうが」
神父の顔に優越感が浮かんだ。
「最近、各国で魔女や魔獣による被害が多発しているのですよ」
「な……」
「国王陛下や周辺諸国の首脳もこの件に頭を悩ませており――」
「何故、教えて頂けなかったのですか」
「聞かれなかったもので」
いけしゃあしゃあと言ってのける神父。
「今も情報が錯綜していますが、中には国を滅ぼされたという噂も」
「国を?」
「ええ」
神父はなんてことのないように答えた。
「ですので、これは世界の存続に関わるのです。その為――」
「聖女様ですか」
ポツリと、俺は呟いた。
「教会がそこまで魔女に拘る理由」
「……」
「それは聖女様と魔女が同じ容姿を持っているからではありませんか?」
「だとしたら、なんだと言うのですか」
図星だったのだろう。
苛立ちを隠しきれない様子で、神父は俺を睨みつけた。
「聞けば、貴方方、魔女に手も足も出なかったそうじゃありませんか」
神父は馬鹿にしたように、嘲笑った。
「最弱な勇者様の出る幕などありません。この件もこちらで処理しますので」
「! 神父様、流石に言葉が過ぎるんじゃないですか!」
「私は事実を述べたまでです」
魔法使いと神父が言い争う中、俺は神父の言葉を反芻していた。
『だとしたら、なんだと言うのですか』
正論だ。
世界を脅かす存在が魔女だとしたら、葬り去るのが道理。
何より、魔女は剣士を無残にも殺した、仇である。
この手で討ちたい。
そう考えるのが、普通だった。
なのに、
――魔女が殺される。
考えただけで、吐きそうだった。
世界を脅かす敵で、仇で、魔獣を従える存在で、
出会って間もない、言葉すら交わしていない相手を、
なんで俺はこんなに気にするんだ?
聖女様に似ているからか?
それとも、
――あんな顔を見たせいか?
俺は何がそんなに嫌なんだ?
「伝令! 伝令!」
思考の袋小路に入った途端、それを引き裂くように、
声が聞こえた。
「神父様、魔女殲滅部隊からご報告です!!」
「なんですか、急に。首でも取りましたか?」
「それが」
伝令役は傷だらけの状態で、振り絞るように言った。
「三万の軍勢が魔女と衝突し――、全滅、いたしました……」
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