第8話 悪役令嬢の恩返し
勢いよく飛び出たわりに目線を泳がせて、両手をせわしなく胸に寄せたりと、悪役令嬢の永流らしからぬ焦れた態度を取っていた。
そうか……そうだよな。
助けた相手にどんな言葉と態度を見せるのか、楽しみなのは顔に出さず、俺はあえてそっけなく聞く。
「何?」
「あ……あっ」
お嬢様は人にお礼を言うのが苦手か?
いいさ。
ほら?
素直に言えよ。
助けてくれて、ありが――――。
「あ〜ぁ! ホントに最低!! 無理矢理女子のケータイを奪うなんてありえない。どこまで品格の無い人なの?」
え?
今、何を言われてるのかわらかねぇ。
最低? 無理矢理女子のケータイを奪う? 品格の無い人…………やべぇ、ホントに最低だな俺。
永流はまくし立てる。
「私のスマホをクラスのさらしモノにして、ありえない! アナタは野蛮な猿以下よ!」
マジかよコイツ?
あの窮地に手を差し伸べたのに俺を攻め立てて、バカにしやがった?
俺はそこまでお前に嫌われることをしたのか?
「二度と私に近づかないで!」
心砕かれる言葉だ。
「このニセ、オバマ!」
一言うるせぇ!
そう言うと永流は駆け出し、俺の肩へダッシュでぶつかり去っていった。
肩を突き飛ばされた俺はフィギアスケーターのように高速でスピン。
「アレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレレ!!?」
本当にバカだよな。
カッコよく割って入って救いだそうなんて、自分を正当化する言い訳だ。
本心はお嬢様を助けて取り入ろうとしたんだから。
お嬢様の永流を庇えばアイツが、ドブネズミの俺を救ってくれるって考えちまった。
好きだったヤツのことを考えているようで、自分のことしか考えてなかったんだな。
俺は期待しちまった。
アイツと同じ世界で生きられるって……。
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学校から自転車で十分走った近くのコンビニが俺のバイト先だ。
学校での一件もあってメンタルが落ちていたからか、その後、バイト先でのパフォーマンスは思うように上がらなかった。
客が買った商品を袋に入れ忘れたり、レジを打ち間違えて五百円の物を五万円で精算したり。
壁に貼り付けた誤打レシートが十回続くと、店長は顔をマントヒヒみたいに画面を真っ赤にして怒鳴っていた。
店長にスゲェ怒られた。
なんだか今日は学校でもバイトでも怒られる日だな。
ツイてねぇ……あ〜! もう働くの嫌になる。
バイト辞めようかな。
強引に解説をねじ込むと、格安スマホは基本的にクレジットカードのみでないと通話会社と契約できない。
未成年の俺がクレジットカードなんて大層な物、作れる訳もなく親から料金を払ってもらってる訳でもない。
MVNOの中には銀行口座からの引き落としで契約できたり、会社独自のポイントを購入して支払う方式がある。
プリペイド式に近い物だ。
俺はバイトの金でポイントを買って支払をしている。
休憩時間になり店の在庫置き場で手のひらに収まる箱のフタを開けて、細長い物を取り出し口に加えた。
未成年の俺がタバコを吸ってるって?
違うぜ、ポッキーだよ。
菓子を食いながらスマホを取り出すと、メールが一通。
クラスの奴らとはアドレスの交換をしてないから、学校の連中からメッセージはないはず。
親からメールだな。
早速、メールを開くとそこには登録した親の名前は無く、知らないアドレスがあった。
メールの内容は簡素だ。
『ありがとう』
とだけ届いていた。
端的にもほどがある。
だが、感謝の言葉に思い当たる節はあった。
そう、これはお嬢様の永流からのメッセージ。
アイツ、俺のメルアドまだ登録してたのか。
クラスに俺と同類と思われたくないから、きっと消去したと思いこんでたけど。
クラスメイトにメルアドが知られると、ドメインが大手キャリアじゃないので格安スマホだとバレる。
だから永流はクラスでショートメッセージやSNSのメッセージ機能で、誤魔化していた。
わざわざ登録してた昔のメルアドで感謝を述べるなんて、驚くと同時に嬉しくもある。
永流の心には、まだ俺がいたんだ。
ガキの時に交わした秘密の会話が蘇るようだ。
小さい天使だったアイツが帰って来た。
そう思いたい。
少しはアイツの心にかけられたSIMロックを、解除できたのかな?
…………し、しまった!
黄昏に浸り過ぎて思わず、くさい言葉を生みだしちまった!
これ家に帰って枕に顔をうずめて悶えるやつだ‼
大統領っ! オレを爆撃してくれぇぇぇえええ‼
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