第7話 救出任務
メンズファッション誌で見るようなスラリと背の高い男子。
髪は茶髪で毛先をこれでもかってくらい、ピロピロと遊ばせてやがる。
男子でありながら眩しほどの美白肌。
アゴも眉毛も尖り、それでいて目は人懐っこい犬のようにキラキラしていた。
上級生の女子がわざわざ上の階から降りて見物に来る、学年でも上位レベルのイケメン。
正直、嫌いなタイプの野郎だ。
こっそりヤツのカバンへ唾を吐きたい。
そのイケメンが永流へ余計な救いの手を差し伸べる。
「ちょっと貸して? 俺が見てあげる」
「いいっ! いいから!」
「大丈夫。変なことするわけじゃないよ」
こういう時、顔の良い奴は
ムカつく。
イケメンは尚もお嬢様へ詰め寄る。
「設定を確認するだけだから」
「あぁ、あの……その……」
他の人の善意がまさか悪行。
余計なお世話とはこのことか。
スマホの設定を見れば受信してる基地局や、契約してる通信事業者の情報がまる解りだ。
格安スマホを使ってるのがバレるのも時間の問題。
だがこれはこれで良い薬かもしれない。
あの高飛車で高慢な悪役令嬢が、虐げる俺以上に蔑まされるわけだ。
いいきみだ……。
ザマぁぁああああぁみろぉぉぉおおおっ!!
卒業までの三年を、ドブネズミみたいな学園生活で生きていけぇぇええ!
永流が俺と同じカーストの底まで落ちれば、またガキだった頃の二人に戻れる。
あの時のスパイ役の俺が囚われた、お嬢様役のアイツを救い出す。
楽しい時間を過ごしたあの日に……。
――――オレが必ず助けてやるから待ってろよ――――。
脳裏にこだまする声。
んだよ。十歳のガキだった俺がハッパをかけてきやがった。
ちくしょう!
昔、アイツと約束したからな。
助けりゃいいんだろ?
無垢だった囚われのお嬢様を救ってやるよ。
俺は教室へ踏み込むと、デカイ図体で小バエの間に無理くり割って入り、手を伸ばす。
そして怯える永流のスマホを力づくで出奪った。
グループの注目は令嬢の永流から俺に集まる。
奪い取ったスマホを高らかに挙げると、教室中に聞こえる声で喋る。
「へぇ~やっぱ、大手キャリアケータイは電波がよく入るぜ。格安スマホを使ってる俺には高嶺の花だな。料金がバカみたいに高いだけあってバカみたいに高級感あるよな。本当にバカみたいだな。あ〜ぁ、俺も大手キャリアスマホが欲しいぜ」
すると後ろから制服の肩を捕まれ密集地帯から無理矢理引きずり出されると、永流のスマホをむしり取った上に、頬を強烈な圧と痛みが襲ってくる。
イケメンが俺の顔を力の限り拳で殴り付けた。
それを見た女子達は短い悲鳴をそれぞれ上げて驚く。
吹き飛ばされた俺は周りの机を、ボーリングのピンのように倒して行き床へ転がる。
「痛ってぇ……」
起き上がり殴り付けたイケメン野郎へ目を移すと、殺気だった軽蔑の
「汚い手で彼女のスマホに触るな。このニセ黒人!」
クソッ! 半分は本物の黒人なんだよ。
イケメンは奪い取った永流のスマホを手厚く彼女へ返した。
次に浴びせられた視線と言葉は、
「マジでサイテ〜」「カーストの底辺が」「格安スマホふぜいが、飯嶋さんのスマホに触れやがって」「絶対、変な病気持ってるよ」
殴られた上によってたかって差別する罵声をかけやがる。
これだからパリピは嫌いなんだよ。
助けに入った俺を永流はどんな表情で見ているのか知る為、視線を向けて様子を見ようとしたが、こっちに睨みを利かせる女子の集団が門を閉じるように、永流の机を塞ぐ。
息をするのも辛いほど空気が悪くなり、よろけながら立ち上がり痛みで歪んだ顔を片手で抑えながら、自分の机からカバンを取って教室を出た。
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その後、騒ぎを聞きつけた教師が俺とイケメンを職員室に呼びつけ説教する。
が、まるで学園ドラマの最終回のようにイケメンを養護する女子が職員室へ押し寄せ、一斉に俺が永流のスマホを奪ったことを教師へ話た。
結局、烈火のごとく俺は教師に怒られ、イケメンは涼しい顔で職員室を出ると女子に囲まれながら教室へ戻って行った。
これだからイケメンはぁぁああがぁぁぁあああ〜!!!
教師の一方的な説教が終わり職員室を出ると、曲り角から顔半分を覗かせるヤツがいる。
人目をはばかるそいつは、わざわざ勢いを付けて壁から飛び出し立ち塞がった。
お嬢様の飯嶋・永流だ。
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