第04話 ソウタ vs <神殺し>ユート #3

大きな歓声が響く。


《二発目ェェェェッッッ!闘技場に存在する生命をことごとく刈り取るように!まぁ我々までは届かないんですが!ご覧のように【神をも殺す剣ラグナロク・オメガ】が圧倒的な……お?おおおおッッッ!?》


巻き上げられた瓦礫と粉塵が地面に落ち切ったとき。

そこにある光景を目にして実況が口にした疑問符は、すぐ、観客たちの驚きの声に掻き消された。


《む……無傷ッ!!!対するソウタ、逃げ場のない全範囲必殺の攻撃をしゃがんで……いや、地面に張り付いて回避しているゥゥッッッ!!!》

「あっぶね……」


俺は……地面にべったりと腹這いになって、ユートの横薙ぎの攻撃を躱していた。


広い攻撃範囲を誇る【神をも殺す剣ラグナロク・オメガ】は、先程の攻撃では闘技場の床を割っていた。また同じように地を割るほど低い攻撃が飛んできていたら、俺の身体は一瞬で蒸発していただろう。だが何故か俺には、こうすれば回避できることが直感的にのだった。


【空気が読める】スキル。


すなわち――相手の行動を先読みするスキル。……そういうことなのか?


「――くっ……そ、猫かテメェは!」


渾身の一撃を躱されたユートは悔しさを隠し切れない声色で叫ぶ。


俺は「地面にべったり」状態から瞬時にクラウチングスタート姿勢へと切り替えると、地面を蹴り、再びユートに向かって駆け出した。


「死んどけ!!」


ユートは大剣を再び構えて俺を迎え撃とうとするが、遅い。


俺の身体は既に大剣の間合いへと飛び込んでいた。


「よっ」

「くそっ、来んじゃねぇ!」


遠距離攻撃が可能なユートと、近付くことでしか勝ち目のない俺。この非対称な関係性で俺が強引に距離を詰めれば――当然、相手ユートは距離を取ろうとする。そして距離を取りながら「とりあえず振れば攻撃が出る」剣を闇雲に振り下ろすであろうことも、容易にことができた。


――このかたちは知っている。


引きめん


剣道部の助っ人として試合に出たときに、元全中準優勝という相手校の主将に散々食らわされたやつだ。

そしてこの戦いには、勝敗の決着を除いて一切のルールがない。すなわち、剣道では反則とされる動きも許される。


(だから――)


慌てて後ろに下がったことで重心が不安定になったユートに、俺は足払い……というか、最高速度のままスライディングをかます。


「――おらっ!」

「うっ――お!?」


……気ッ持ちいい。俺がどれだけ、剣道の試合中にをやりたかったか。


案の定、ユートはバランスを崩して転倒する。その腕に手を伸ばして、俺は【神をも殺す剣ラグナロク・オメガ】の柄を握る。そのまま腹に蹴りを入れると、ユートは「ぐっ」と呻いて大剣から手を離した。


ユートの手から離れた瞬間、手の中の大剣はとその重さを増す。


仰向けに転ぶユートに馬乗りになって、俺は【神をも殺す剣ラグナロク・オメガ】を突き付けた。


「――剣を武器にするんなら、剣術スキルも付けてもらうんだったな。……で、何だっけ?今のうちに降参しろ、だったかな」

「ひぃ……や、やめ……!」

「いや……マジ重いから、早いとこ頼むわ」


脅しでも何でもなく、俺の腕は大剣の重さを支えきれずにプルプルと震え始める。いや、これは無理でしょ。たぶん持ち主だと重さを無視して扱えるとか、そういう特性のある武器だったんだろうな。武器を奪ってカッコよく反撃と思ってたけど、持ってるだけで腕の筋肉りそう。


「あ……あ……」


俺に組み伏せられて剣を突きつけられたユートは――本気で怯えているように見えた。


さっきまでの自信に満ちた表情は消え失せ、顔を真っ青にして、必死に剣の切っ先から逃れようともがいている。だが俺は、柔道部だったかレスリング部だったか忘れたが、マウントポジションをキープするテクニックを習得済である。むやみに暴れたところで逃れられるはずもない。


ユートは徐々に近付いてくる【神をも殺す剣ラグナロク・オメガ】から目を逸らすように瞼を閉じて、ついに、声の限りに叫んだ。


「わ、わ、わかったから!ギブアップ……降参だ……降参ッ!」


俺は安堵の息を吐き、クソ重い大剣をと地面に放り投げる。


――実況の声が、闘技場に響いた。


《これは――番狂わせッッッ!第一回戦を制したのは――【空気が読める】男、ソウタァァァァァ!》


大歓声の中、どうせ届かないと理解しつつも、俺は不満を口にする。


「……二つ名っぽい感じで言うの止めない?」

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