インターミッション v2
第11話 インターミッション: 遅延
「――いやぁ、二回戦も突破しちゃうなんて♪」
「しちゃって悪いかよ」
俺は闘技場の観客席、その最前列に陣取っていた。
ミモザの語った「次からは観戦してもらう」という言葉の通り。ゴロウとの戦闘を終えた俺はあの暗い空間ではなく、闘技者向けに用意されたと思わしき、この観客席に案内されたのだった。
ミモザは上機嫌で俺の周りをぴょこぴょこと踊るように跳ねまわる。
「意外や意外。蒼太さまの【空気が読める】、当たりスキルだったのでは?」
当たりスキル、ね。
ただ
「……俺は、お前がセミの抜け殻踏んだような顔してたこと忘れてないからな」
「
ミモザは両手の人差し指をほっぺたに当て、輝くような笑顔を作って見せた。あまりの白々しさに俺は突っ込みを入れる気にもならない。
――と、隣に立った誰かが俺に声をかける。
「やあ」
見上げるとそこには、ゴロウ・イワサキ――つまり、俺のさっきの対戦相手が立っていた。
「――っ!」
俺は椅子から飛び上がって身構える。こいつ、既にトーナメントで敗退しているはずなのに、まだ――?
それを見てゴロウは苦笑した。
「そんなに警戒しないでよ……僕はもう負けたんだから」
「……試合の腹いせに場外乱闘、とか」
「しないよ」
ゴロウは俺の隣の席に腰を下ろす。
「そんなことしても無駄だろうしね」
ちら、とゴロウがミモザを見上げると、彼女は「うむうむ」と頷いた。
「ええ。ゴロウ・イワサキ様は確かに敗退しました。場外で何が行われようと試合の結果は覆りませんし、そもそも、他の闘技者に試合以外で危害を加えることも許されておりません」
「なるほどね……。試合に負けていきなり消えたりしないのも、そういうもんなのか?」
「はい。ベストエイトに残った方は、言わば殿堂入り扱い。他の闘技者のバトルを観戦する様子自体も見て楽し――おっと、重要な情報なのです。だから、たとえ敗退したとしてもトーナメントが終了するまでその処置を遅延されているのです」
……処置。
まるでモノを相手にしたようなその言い草に、俺は顔を
だが、ミモザに突っかかっても
俺はため息をついて警戒を解き、ゴロウの隣に座る。
「……で、俺に何の用?えーと……ゴロウ、さん?」
「ゴロウでいいよ――ちょっと、話がしたくてね」
「話?」
「まずは自己紹介かな」
ゴロウは手を差し出した。
「
「……
「すごい名前だ」
「どうせここでは【ソウタ】だけど」
と、俺は保留したままだった疑問を思い出して、ミモザに向き直る。
「――なぁ」
「はい?」
「俺とゴロウだけ名前そのままっぽいんだけど、何で?他のやつは……神とか令嬢とか。人間やめちゃったやつまで居るじゃん」
俺は、闘技者の一人(一匹?)である金色のドラゴンの姿を思い浮かべながらそう尋ねた。
ミモザはどう答えるべきか迷うように、ちょっと口を尖らせた。
「んー……【生まれ変わり】と【やり直し】は、似て非なるものですからねぇ」
「……つまり?」と、俺。
「これまでの自分を捨て去って、新しい世界で違う人生を生きたい。これが【生まれ変わり】。それに対して、そのままの自分で世界だけをリセットして、もう一度挑戦したい。次はうまくやってみせる。これが【やり直し】。やり直しを望む人は、生前の自分自身の名前で転生を望むパターンが多いのです」
なるほど、と呟いて、ゴロウは照れくさそうに呟いた。
「僕は――子供の頃から、植物に囲まれて過ごしたかったんだ。色んな国から植物を集めて、ゆっくり暮らしたい。その願いが叶うんなら、確かに僕はゴロウのままで転生したいね」
「見事なまでに【やり直し】パターンですねぇ♪」
「生きてる時は、そうしなかった?」俺は尋ねる。
「うちの小さい弟や妹がいたから、そうもいかなくて」
「……一人っ子の俺には、わからない感覚だ」
「はは……それで、異世界で理想の暮らしができるって言うから、つい、ね」
ゴロウはポリポリと頭を掻く。
『転生教師のボタニカルライフ 〜チート級の植物操作スキルを駆使して、田舎でのんびり植物園運営〜』……だったか。
ゴロウの横顔を見ながら、俺は一人で納得する。それで、あんなスローライフ系ラノベみたいなタイトル(?)になっていたわけだ。
(俺は……)
――俺は、どうなのか?すべてを捨て去って【生まれ変わる】のではなく、俺は、俺自身のまま【やり直したい】と願ったから、まだ【ソウタ】で存在しているのだろうか。
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