せっかく死んだのに異世界転生選抜トーナメントがあるなんて聞いてないんですけど? 〜チートだらけのバトルを最弱スキル【空気が読める】で生き延びる〜

放睨風我

プロローグ

第01話 せっかく死んだのに異世界転生選抜トーナメントがあるなんて聞いてないんですけど?

俺は死んだ。


もらい事故だった。言い訳のしようもないほど、完全な。高校からの帰り道、青信号を渡っていた俺は信号無視のトラックに跳ねられたのだ。体力と運動神経にだけは自身がある俺だが、ぼんやりしていたのが良くなかった。


五十メートルくらい飛んだと思う。


人間は、めちゃくちゃな衝撃を受けるとぜんぜん痛くないらしい。俺は錐揉きりもみ回転で宙を飛びながら、なるほどなぁと感心する。身体のあちこちがバキバキになっていることはわかったが、まったくその感覚がなかった。


俺は「異世界転生」というものに憧れていた。


中学のころ幼馴染の影響で読み始めて以来、俺はいわゆる異世界転生系ラノベにハマっていたのだ。とびきり優秀なチートスキルをもらって、あたらしい人生を始める。何の苦労もしないままユニークな能力を身に着けて、あれ?俺なんかやっちゃいました?なんて言いながら、あちこちからチヤホヤされて。


楽しそうじゃないか。――少なくとも、俺の、この人生よりは楽しそうだ。


(……)


時間にして数秒だっただろうか。ふつうなら走馬灯を見るところだろうが、俺は何故か、死んだあとのについて思いを馳せながら――勢いよく地面に叩きつけられて、十七年の生涯を閉じた。


……おっと、自己紹介を忘れていた。


四十九院しじゅうくいん蒼太そうた


それが、たったいま派手に人生のリセマラをかました俺の名前だ。よろしくどうぞ。



◆◆◆◆◆



そこは、暗闇だった。


暗闇の中に、一筋の光が指している。俺はその眩しさに目を細めた。


「……」


他に何もないので仕方なく光を見つめていると、光の中から女の子が現れた。女の子と表現したのはあまりにその顔が幼かったからだ。幼い顔に似合わないスーツを着ていて、手には何やらクリップボードとペンを持っている。その子はてくてくと歩いて、俺の前で足を止めた。


女の子はばっと両手を開いて、満面の笑顔を浮かべる。


「おめでとうございま〜す♪ 四十九院しじゅうくいん蒼太そうたさま!」


俺はうんうんと頷く。


「ついに来たか……いよいよ俺の本当の人生が始まるな」

「私はミモザ。ここは【オルデュール】という世界です」

「うむ」


俺は腕組みをして、余裕をもってミモザと名乗る女の子の説明を聞いてやる。勇者たるもの、こういうのは最初の貫禄が大事だ。


「見事な即死でございました、蒼太さま」

「見事な即死」

「技術点がとても高く、審査員も満場一致で【オルデュール】行きが決定されました」

「死に方で!?」


さらば貫禄。俺は思わずツッコミを入れていた。

錐揉みしながら吹っ飛び、道路にぶつかって即死した俺が高評価を受けたらしい。どういう価値観だよ審査員、サイコパス集団じゃねえか。


いやいや、と俺は頭を振って気を取り直し、どうしても気になったことを聞いてみることにした。


「まぁいいや。で、俺はその……転生、とかしちゃう感じで?」


ミモザはきょとんとして首をかしげる。


「さぁ?」

「さぁ!?」


ほとんど泣きそうな声で叫ぶ俺を見て、ミモザはポリポリと頭を描く。


「えーっと……誤解があるとアレなんですけど、ここ【オルデュール】は生と死のはざまにある世界です。このあと異世界に転生できるかどうかは、何というか蒼太さま次第です」

「……どゆこと?」

「……戦う?」

「そりゃあそうですよ」


何故か突如ドヤ顔に切り替わったミモザは、ふん、と鼻息荒くペンを振り回して熱弁する。


「秒間どれだけの魂が死んでると思うんですか?そして、どれだけの魂が【次の人生】を望んでいると?……みんな転生なんてさせてたら、タマシイ大渋滞ですよ。大渋滞」

「いやいやだからって……え、何?俺、死んだあとに殺し合いさせられんの?バトルロワイヤル?」

「バトルロワイヤルではないですねぇ、トーナメント戦です。今回は……えーと、ひい、ふう、みい……十六名の方が参加されています」


ミモザはクリップボードに挟まれた書類をパラパラとめくって告げる。俺はもはや貫禄もクソもなく、バカみたいにぽかんと口を大きく開いていた。


「ほら、どこの世界も少子化で。生まれる魂も限りがあるんですよねぇ」

「は……はあ」

「生まれてくる赤ん坊が全員他の世界からの転生者だー!みたいなことになると、健全じゃないでしょ?何というか、世界にはフレッシュな風というか、新しい発想がないとだめなんですよね」


地方中小企業のオッサンみたいなことを言い出した。


「だからこそのトーナメントです。その命を終えてなお、生に執着を持つ魂を集めて――競わせる。そこで優勝した一人だけが異世界に転生できるという寸法なのです」

「異世界転生ラノベ百冊持ってる俺も知らない設定が!?」

「あー、それは記憶が消えちゃうからですね」

「はい?」

「【オルデュール】で行われるトーナメントの記憶は残りません。きれいさっぱり忘れて、うわあ、死んだと思ったら転生しちゃった!から物語はスタートするわけです。ま、戦って頂くことになるので、そこでの経験をリセットするための決まりごとですね」


またしてもドヤ顔を披露するミモザだが、俺は彼女のセリフにひっかかるところがあった。


「力を……与える?」


ああ、と、思い出したようにミモザは笑みを浮かべる。


「言ってませんでしたっけ。トーナメント戦では、死後に獲得したスキルを使用できます。チートでもなんでもオッケーということになってます」

「っっっしゃああああ!!!」


俺、突然の力強いガッツポーズ。ミモザはその勢いに若干引いているようだったが、気にせずその話題に食いついた。


「ミモザさん!」

「は、はい」と、俺からやや顔を遠ざけながら応えるミモザ。

「俺の希望スキルは……、ああー、えっと、迷うなぁ。ちょっと考えさせて?でもなぁ――」


突然のフィーバータイムにテンションが上がりつつも迷いまくっている俺は、身体をくねくねさせて脳内のラノベ図書館をフル稼働させる。

ところがミモザは、目をぱちくりさせて無慈悲な言葉を告げた。


「え?蒼太さま、もうスキル決定してますけど?」

「……は?」


俺は、再びぽかんと口を開けるしかない。ミモザはクリップボードの書類をめくり、うんうんと頷く。


「……やっぱり、すでに死後スキル付与済ですね。でもこれは……うわあ」

「うわあ!?うわあって何!そのセミのヌケガラ踏んじゃったみたいな顔やめて!?」

「うまく使って勝ち進んでください♪」

「は?ちょ、ちょっとまって俺に何のスキル付いてんの!?何も選んでないんですけど!!」


にっこりと微笑むミモザ。俺はその天使のほほえみから薄ら寒いものを感じる。


「いやぁ、私は蒼太さまの担当官になりますけど、所詮はトーナメントを円滑に進めるために雇われた事務員ですから……それはお伝えできません」

「そんなぁああ!?」


半泣きでミモザにすがりついていた俺は、ふと思い当たってピタリと止まる。

ドン引きして俺の頭をクリップボードでパシパシ叩いていたミモザは、何ですか?と目で問いかけてきた。


「ん?さっきの話だと、異世界転生してる人、みんなここでトーナメント戦やってるってことだよね?」

「ええまぁ、そうですね」

「農民とか悪役令嬢とかそういう人も?」

「いますね。ニーズも時代によって変わってるんで。最近の子は何ですかね……草食系って言うのかなぁ」

「どうやって令嬢がチート戦闘スキルに勝ってんだよ!」


まったくもって納得がいかん。


「別に戦闘で勝たなくてもいいですよ」

「トーナメントなのに?」

「相手にギブアップさせるか、説得して不戦勝にしてもらうってパターンがありますかねぇ」

「そういうのもアリなんだ……いや、それでも何かちょっと違和感あるわ俺」

「まぁ、この【オルデュール】で何が出来るかは想像力次第ですから。転生してる人、だいたいすごくユニークな発想してるでしょ?ありがちな能力だとしても、だいたい賢く使って道を切り開いて行ける人が勝ち進みますねぇ。ただの高校生が事故死、なんてありふれた設定じゃ一回戦負けが関の山です」

「俺の死に様ディスってんじゃねえ」

「ディスってませんよ♪ 凡庸な脳みそじゃあ、ポンと殺されてオシマイってことですよ」

「やっぱディスってんじゃ……ん?オシマイって、ここで死んだらどうなるんだ?」

「お忘れですか?ここ【オルデュール】は死と生の間にある世界で、あなたはいま死にかけてる状態にあります。優勝できたらめでたく転生、負けたらサヨーナラ、です。成仏してください」


ミモザはなむなむと両手を合わせて拝む。やめろ。なんかそれ、身体と心が軽くなるような気がするから。気持ちよく浮かんで、スッと消えちゃいそう。


そしてミモザは、あわあわと焦りだした俺の手をすっと離して距離を取る。あっ、それ地味に心に来るわ。半透明になった身体はすぐにもとに戻ったが、俺の心はちょっとショックを受けていた。


「さーて、必要事項の説明も終わりましたし……あらよっと」


ミモザはクリップボードにさらさらと何かを記入していたかと思うと、記入済の書類をペリッと剥がして俺の顔面に貼り付けた。


「うわっ!?」

「一回戦、いってらっしゃ~い♪」


ひらひらと手をふるミモザの姿が光に消えてゆき、そのまま俺の視界も真っ白に染まる。真っ白なまま、どこかから歓声が聞こえてきて――

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