第9話 電脳都市《コイルの町》

 「ところでこれからどうする?」


「そうね。顔もわれちゃってるぽいし、これから用心した方がいいわね」


「それは、問題ないですわ」


 俺とサファイアが悩んでいるとヴァイオレットがシレッと言ってきたので思わずぽかんとした。


「どういうことだ」


「私の能力は補助系魔法を生業としてますの。そして、その中に認識阻害のまほうがありますの」


「認識阻害、それで俺達と認識されないわけか?」


「そういうことです。ただし私達のような精霊やレベルの高い人には見破られる可能性があります。ですから、くれぐれも油断なきように」


「分かった。それにしても補助系魔法が得意ってことは攻撃魔法は苦手なのか?」


「そんなことはありません。猪突猛進で攻撃しかない単細胞なサファイアとは違い、私は万能型です」


 ヴァイオレットはサファイアを挑発するように胸を張っている。


「・・・・・・あんたね~!!さっきから黙って聞いてれば、人のことを単細胞って、たまには良いところを見つけて褒めようとは思わないわけ」


「そうだぞ、ヴァイオレット」


「響也、言ってやて」


「ああ、たしかにサファイアは単細胞で知ったかぶりをするバカだけどそれでも天真爛漫で一緒にいると・・・・・・」


 俺が語っているとヴァイオレットに肩を叩かれ指を指す方を見ると


「ふん~だ!響也も私のことをバカだと思ってたんだ」


 サファイアが指で地面の砂を弄りながらいじけていた。


「ち、違うんだ。あれは誉めてるつもりで」


「あれのどこが、・・・・・・ハァ~、もういいわよ。サッサと行くわよ」


 サファイアが頬を膨らませてヅカヅカと歩いていった。


 ・・・・・・あ、かわいい。ヴァイオレットの言ってたことがちょっと分かった。からがいがあるかも・・・・・・


「響也、サファイアのことはちゃんと見といてください」


「どういうことだ?」


「いずれ分かりますわ」


「お、おい!」


 ヴァイオレットもいってしまった。彼女の言ったことが気になりながらも二人の後を追いかけるのだった。







 それからしばらく歩くと、大きな街道にでた。


「ちょっとお待ちなさい。認識阻害の魔法をかけときます」


「ああ、たのむ」


「任されましたわ」


 ヴァイオレットが手をかざすと俺達を闇の炎がコーティングした。


「これで、私たち以外には別人にみえてるはずですわ。試しに街道を歩いてみましょうか」


「本当に大丈夫か?」


「ちょっとは信用してくださいまし!」


 内心不安だったがヴァイオレットの言うとおりにして街道にでた。


 街道はさすがに人々が多くて目線が気になってしょうがなかった。


「堂々としてください。そんなにキョロキョロされますとかえって目立ちますよ。ちょっとはサファイアを見習いなさい」


 そういうサファイアはというと先にある甘味処の前で手を振っていた。


「響也~、ちょっと休憩しない?」


 サファイアは善哉を見ながらよだれを垂らしてがまんできない様子だった。


「・・・・・・あれはただの能天気かもしれませんが、決して悪いことだけではありませんよ?」


「それもそうだな」


 サファイアのいる甘味処に向かった。




「いらっしゃいませ~」


 奥から優しそうな婆さんが出てきた。


「なんになさいますか?」


「そうだな~、ヴァイオレットも善哉でいいか?」


「お任せしますわ」


「じゃぁ、善哉を三つ」


「少々お待ちください」


 そう言うと奥に引っ込んでいった。


 善哉を待ってる間、今後のことについて話しているとサファイアが壁を見つめていた。


「サファイア、ちゃんと話を聞けって?」


「そうですわよ。いくら単細胞のあなたでもちゃんと聞いといてくれないとこちらが困りますもの」


「・・・・・・一言余計よ。それにちゃんと聞いてるわよ。それよりもこれ」


 そう言ってサファイアが指差したところに手配書が貼られていた。


「え~と、何々。手配書、剣響也、このものは城で伝説の聖剣を盗み王と家臣を暗殺しようとした疑いあり。懸賞金は金貨1000枚」


「あらーサファイアと違って響也はまともだと思ってたけど大胆なことしますのね」


「こんなことはしてないぞ。だいたいサファイアだって自分の意志・・・・・・で・・・・・・」


「・・・・・・響也、ヴァイオレットにからかわれてるだけよ」


 そう言われてヴァイオレットの方を見ると微笑の中に妖艶なオーラが見えるような気がした。そうこうしてるとおくから


「善哉お待ちどう」


 サファイアが手配書を見てるのに気がついたのか


「それは城の兵士が張ったものだけどこのご時世に王様を暗殺しようとしたなんて世も末だね~。ま、善哉でも食べて気分転換してくださいな。ごゆっくりと」


 そう言うと奥に引っ込んでいた。


「それもそうだな。さっさと善哉食べようぜ」


「それもそうね」


「今度は響也にもちょっかいかけていきますわ。サファイアと一緒でフフフ、フフフ、フフ」


「・・・・・・お手柔らかに頼むよ」


 その時殺気を感じて振り向くと全身黒のフードをかぶってる人がいた。


「響也、さっさと食べないともらっちゃうわよ」


「食べるよ」


 もう一度見るといなかった。


 さっきのは何だったんだ。もしかしてもう俺達の追っ手がきたのか。姿は認識されてないはずだけど強い使い手には聞かないってヴァイオレットが言ってたし用心に越したことはないか。


 俺達は善哉を食べて外にでたところで迷ったがさっき感じたことを二人に話すことにした。




 数分後、


「なるほどね。それは用心した方がいいかもね」


「あまり気にしない方がいいですわよ」


「何よ!警戒しな方がいいってわけ!?」


と、サファイアが憤慨してると


「ちょっと言葉足らずでしたわね。単細胞なサファイアにもわかりやすく言いますと、あまり警戒しすぎるとせっかくの幻術がきかないかもしれないし手配書がでまわってるところをみますとどこに刺客やら兵士がいるとも限りませんし堂々としてたほうがいいんです。お分かりかしら。サ・ファ・イ・ア!!」


 サファイアは涙目になりながらも


「何で私にだけ言うのよ。響也にも言いなさいよ」


 名指しされた俺は申し訳なさそうな顔で


「悪いサファイア。それぐらいのことは気づいてた」


 サファイアはガックリして


「ふ~んだ。響也なんて、響也なんて知らない。ヴァイオレットと仲良くしてたらいいのよ。この鈍感男!!」


 サファイアはズカズカと歩き出してはチラッと何度も振り返っていた。


 ヴァイオレットが耳元で「ああいうサファイアも可愛いでしょう?」


「そうだな。可愛いな」


「本人に言ったらきっと喜びますわよ。それにあの子は周りには猫をかぶってますから気を許してる証拠ですわよ?」


「アハハ、ヴァイオレットも冗談言うんだな」


「・・・・・・冗談ではないんですけども」


「なんか言ったか?」


「何でもありませんわ。それよりもサファイアを追いかけますよ。これ以上放っておくとあの寂しがりやは拗ねるでしょうからね」


 俺とヴァイオレットは寂しそうにこちらを何度も見ているサファイアを追いかけるのだった。







 数時間後、


「見えてきましたわ。あれがコイルの町ですわ」


「これが・・・・・・圧巻だわ」


 サファイアがあきれかえている。


「サファイアは来たことないのか?」


「初めてよ。噂では聞いてたけど・・・・・・」


「ここは電脳都市、あらゆるものが電気という力で動いてますわ」


「電気ってことはヴァイオレット、ここにいる精霊はもしかして・・・・・・」


「雷の精霊がいますわ」


と、その時だった。


「おまえ達そこで止まれ!!」


「何だ!?」


 その声に気づくと電脳都市の守衛に囲まれていた。


「おまえ達は響也一行だな?」


「何の事ですか?」


「とぼけても無駄だ。私達に幻術は効かない。党首がお呼びだ。一緒に来てもらおうか。・・・・・・ちなみに断れば城に報告するぞ」


「どうやら従うしかないですわね」


「ハァ~、しょうがないわね。ここで無駄な騒ぎをおこしたくないし」


 俺は二人の言うことを聞いて


「分かった。党首に会うよ」


「ならばついてこい」


 俺たちはこれからどうなるんだろうとさい先不安になるのだった。

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