第6話 衝撃

 迂闊だった..。

後の惨劇の予測など出来ない筈なのに何故か強くそう思っていた。

起きる事はわからない、だけど明確に言える。〝帰るべきでは無かった〟と


「榎木さん..!」「..陽奈ちゃん。」

家に帰って直ぐに連絡があった

急いで教室まで飛んで来たけど、そこはもう既に教室と呼べる場所では無くしっかりとした〝現場〟だった。

「生きてる人は..!?」

「何名かいる、唯一意識のあった笛吹くんは病院に運ばれた。震えきって、安全と言える状態では決して無かったからね」

残る生存者も同じく病院に運ばれたが目を覚ます保証は無い。昏睡とはまた違う、意識が途切れた抜け殻のような状態にいるようだ。

「それよりも、笛吹くんが気になる事を言っていてね。焦りながら犯人の名前を教えてくれた」


「犯人の、名前..?」

「そうだよ

〝ベロニカの仕業だ〟って。」


「ベロニカ..。」

確かクラスメイトが言っていた、噂話の一つ。紫髪の女で人の恐怖に巣喰い支配する。通常ならば鼻で笑い信用しないが、笛吹がそんな事を冗談で口走る筈が無い。ましてやこんな危機的な状況では、思い付く事すら有り得ない

「榎木さん。

笛吹君を守って下さい、絶対に」


「..ああ、当然そのつもりだよ。」

話を聞きたい、そう思った。

迷信を真っ向から信じる訳では決して無いが、不可解な事柄を正当な見解で考察出来るほどの度量も無かった。

「止めないと。

何かが起きているなら、絶対に..!」

危機的な状況への懸念に加え、陽奈には僅かに思惑があった。現在と匹敵する過去の不可解な出来事、両親の失踪についての疑念を晴らすという事。

「色々知らないといけないな..」


「なにを〜?」「うわっ!」

口を挟むのは無神経の具現化、いつの間に付いてきたの。


「驚かさないでくれる?」


「色々知らないといけないの〜?

ならワタシの事も教えてあげるよ!」

〝別にいいよ〟って言っても無意味、いつも彼女は一方的、そんな奴よ。


「刑事さん知ってる?

ワタシのお姉ちゃんの事。」

「..君のお姉さん?

いや、済まない。知らないな」


「だよね〜、言っただけじゃ。

..文字にしてみればわかるかな〜?」

おもむろにチョークを握り黒板に文字を書く。白い粉がボードに乗り、書き終える頃になると、榎木さんの顔は酷く青冷め戦慄していた。


「少女不変死事件..!」

「ワタシのお姉ちゃんの事件だよ。」

彼女は笑顔でそう言ったが、直ぐに分かった。それが〝造り笑顔〟だと。

「君は被害者の妹さんなのか?」

「そうだよ。

犯人はまだ捕まってない、未解決なの

..まさかと思うけど、それが神隠しとか迷信の仕業だって言わないよね?」


「…力不足で、済まない..。」

「……」

冴島瑠夏はいつも笑ってた。

良くも悪くも、楽しそうに明るく振る舞い見るもの総てを己の歓びに変換していた。しかしそれは、深く大きく空いた穴を必死に埋める作業に過ぎなかった。身近なモノを失ったとき既に、彼女は砕け、壊れていたのだ。


「ワタシあのときわかったんだぁ。

どんな人でもいつか死ぬんだ〜って、だから悲しまなくていいんだ〜って」

人が口角を上げたとき

悦びの前触れに決まっていると思っていた。だけど目の前で上がる口元は、凄惨な破壊衝動が体内を破壊し体外に漏れ出す前兆を期していた。

「..あれは、泣いてるのか?」

「違う、笑ってるよ

涙を流して、感情が溢れてる。」


「あははっ!

あはははは..あははははははっ..!」

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