第5話 生徒会議
夢を見てる。
相も変わらず悪趣味な夢、でも最近少しだけ先が見えるようになった。
血みどろは変わらない
死体の山も変わらない。
だけどその先
私が暫くそれを見つめた後に、重なった山の内の二、三人が起き上がって身体を引きずりながら向かってくる。
顔はノイズがかかってて見分けられないけど、歩き出して手を延ばしたとき目が覚める。どちらにしても悪い夢。
「……場所をわきまえず。」
教室で居眠りしてても見るのかい、休ましてくれねぇな。
「ヨダレ垂れてるよ?」
「..うるさい。」
一時間目は、歴史の先生が気を遣って自習にしてくれた。あんまり関わりたくなかっただけかもしれないけど、教師っていうのはそういうものだ。
「みんな、ちょっといいかな?」
「……。」
でしゃばりが教卓の前に立ってる。
あそこに立つのはロクでもない奴ばっかりなんだよ。
「何が始まるんだろうね〜。」
ワクワクしてるバカひとり、良い事な訳ないでしょ。
「最近起きてる事、皆で話し合いたいんだ。..その、おかしな出来事について、話したくないと思うけど」
学級委員長の笛吹和樹
メガネ真面目のいわゆる優等生だけど髪は何故か茶色い、頑なに地毛だって言い張ってたけど。
「私、もう思い出したくないよ。
目の前で友達が死んだんだよ?」
渡邊の友だち、あの人よく出てくるな
「矢島さん。
辛いのはよく分かる、だけどこれからもそれが続くかも知れない。だとすれば早い内に皆んなで話して改善に繋げたいんだ、わかってくれるね?」
あの人矢島って言うんだ。
後半出席確認いつも寝てるから名前把握出来てないな、別にいいんだけど。
「話すってもよぉ、何すんだよ!
弔いの言葉ノベますってかぁ?」
「…でたよ。」
伊勢真司、通称〝イセシン〟
クラスに一人はいる典型的なヤンキーだけど、要は厄介者だよね。
「伊勢くん!
不謹慎な事を言うのはやめてくれ、本当に悲しんでいる人がいるんだ。」
「何吠えてんだよ、委員長?
同情しなきゃ悪モンかよ、よく知らねぇのに泣いてる奴の方が偽善者だろ」
「……」
声の大きな奴が勝つ、嫌なルールが未だ社会の縮図には残ってる。あんな奴が少しでも良い事すると褒められるのはどうかしてるよね。
「わたしあの人きらーい。」
「私もそうだよ、珍しく合うね」
嫌いな感覚が合うと仲良くなれるらしい、それはごめんしたいね。
「嫌ならば聞かなくていいよ」
「けっ、誰が聞くかよ。」
水と油だけど上手く水が流したね、純度が汚れに勝った瞬間を見た。
「まず北井くんだけど、特に仲が良かったのは..篠宮くんと飯島くん」
同じ野球部の友達で、いつも一緒に居た印象あるなぁ。葬式の時も棺桶の前で泣いてたし、暑苦しい人達。
「北井くんの様子はどうだった?
おかしな事とか、亡くなった当日の朝いつもと違かったところとか。」
「..あいつは、元気だったよ。
前の日の夜も連絡取り合ってたし」
「俺も同じ、普通に過ごしてた。
風邪とかも引いてなかったし」
ハタから見ても健康だったもんなぁ、持病も無いって誰かが言ってたし。
「連絡っていうのはどういう内容?」
「部活の事とか、普通の事。」
「とにかく日常だったよ、おかしな事は何も無い..なのに何で。」
委員長は肩に軽く触れて、申し訳なさそうに協力に感謝してた。正直、北井や渡邊が死んだ理由なんて、生徒の誰も知らないと思う。
「てかさー、帰っていい?」
と思っていたら案の定、協力をしたくないという奴も現れてくる。
「今日わたしバイトなのよ、早く帰らなきゃあさ。」
井上恭香、クラスの一軍ってやつに属する目立つ女。〝女版イセシン〟みたいなやつだね、伊勢ほど嫌われてないけど。理由は..
「人が死んだらそりゃ悲しいけどさ、辛気臭いのはイヤなんだよね。さっさと帰らせてよ、委員長。」
美人で一応人の心があるから、あと無駄にエロい。
「い、いや..その..。」
委員長もこのザマよ、中々のやり手。
「何、困らせちゃった?
..ワタシは何も知らないよ、あんまり二人と話した事も無いし。ね、いいでしょ、もう行くよ?」
荷物を纏めて席を立つ、それと同時に腕にしがみ付く女が一人。
「私も何も知りませーん♪」
上島瑞稀、出席番号と席が近いってだけで一軍面してるじゃじゃのお馬さん
「行こ、キョーカ♪」
「何処に?
わたしバイト行くんだけど。」
朝から入れてるって授業受ける気ないじゃん。何で誰も疑問に思わんの?
「もしかしたら..本当かもしれない」
「何か知ってるのかい?」
急に何、と思ったらあの子か。
教室の隅で声上げるからなんだと思ったら、桶崎美栗。
ちょっと変わり者なんだよね、ていうかあの子出席番号私の二つ後ろだよねあそこ自分の席じゃないじゃん。
「12番が30番代の席座ってる..」
「私、聞いちゃったんだよね。
警察の人と、先生が話してるトコ」
「先生と警察が?」
私ら以外に残って聞いてた猛者がいたとは、ただの変わり者じゃないわね。
「ええ..おかしな話をしてた。
ベロニカの噂」
「ベロニカ?」
「なにそれ〜、美味しそう。」
「人々の心に巣食い、恐怖や狂気を体現させる紫髪の女。」
目を合わせると支配される、そういった逸話もあるとされる。そんな話を教師と刑事がしていれば、いよいよ世界はおかしくなったと見るべきだ。
「バカバカしい、なんなんだソレ?」
「疲れ過ぎよその大人。
聞いてソンした、わたしは行くわ」
まだ残ってたんだバイト女。
正体お前じゃないのか、朝からバイト
「私も帰ろうかな。」
「えー帰るの〜?
陽奈ちゃんいないとつまんない、一緒に帰る〜!」
来るなよ、何でお前のモチベーションに私がなってんだ。こっちのモチベは下がる一方だってのさ。
「ごめん委員長、私も帰る。
..なんか、気分悪くて」
「大丈夫かい?
気を付けて帰って、君にも何が起こるか分からないから。」
「..有難う。」
優しいな、珍しく普通に良い人だ。
..良心に久し振りに触れた、暖かいわ
「ありがとー。
お大事にするね、あと頑張ってー。」
「君は平気だろう?
どう見ても元気じゃないか!」
「そんな事ないよー?
頭痛い、もう割れてるんだよ〜。」
「……お大事に。」
少し優し過ぎるな、何かで損するよ。
「こんな早くに帰るの初めてだな」
「だねー。」
「何でついてくるのよ。」
この日思った、人生は選択の連続だって。その選択を謝ると総て、台無しになってしまうんだって心から。
PM 4:00 教室内
「笛吹..和樹くんだね?」
「あ、あ..」
上擦った声で怯える眼鏡の青年が、上手く話せず口だけを動かしている。
「..駄目か、当然だよな。
こんな有様じゃあ無理もない」
窓際に尻をつき、教室の隅で震える様はそのままはっきりと何らかへの恐怖を体現していた。
「榎木刑事!」
「松村か。
どうだ、教室の様子は?」
鑑識の松村圭造が状況を説明する。
「見た通り酷い有様ですが、死者の数が多すぎる。およそクラスの生徒の半数、生きている数の方が少ない。」
教室内は赤く血みどろに染まり、教室には机の代わりに生徒の死体の山。
生き残った僅かな生徒の大半は気を失い、唯一意識の有る笛吹和樹は声を震わせ何かに怯えている。
「何でこんな事になった?」
「..あいつだよ..。」
「あいつ?
何か知っているのか」
震える声をなんとか形にしながら、おそるおそる笛吹が口を開く。
「あの女..ベロニカがやったんだ..!」
「...ベロニカ。」
意外な憶測が、形として現れた。
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