第2話 移動
葬式は..これで何度目だっけ?
私両親死んでるから慣れてるつもりだったけど、やっぱ皆同じくらい泣くんだね。..誰でも同じ、私もそうかも。
「死因は不明。突然具合が悪くなり、病院へ運ばれると直ぐに心臓が止まった。持病も何も無い、健康体そのものだったのに..。」
「……」
医者なのか警察なのかわからないけど焼いてもいない死体の前で堂々と原因について話してる。..私も大概人の事言えないけど、デリカシー無いね。
「何処まで本物?」
皆こぞって泣いてる、仲良かった人もそうで無い人も。心から悲しい人はどのくらいだろう?
この世界が仮想現実で、私たちは人形の影を映した映像だって説があるけどだとしたら良く出来たものだよ。
「雄吾、雄吾っ...!」
「少なくともあれは本物だよね?」
親御さんまで偽物だったら、死ぬ事にすら意味は無くなる、悲し過ぎるよ。
「私もいつかああなるのかな..?」
「どうなると思ってる?」
「ひ..!」
背後からする冷たい声は低い音で背筋を凍らせた。同じクラスの高野岬だ。
「高野さん..」
「逝っちゃったわね、北井くん。
あんなに元気だったのに可愛そうよ」
長く伸ばした黒髪に蛇のような眼。常に何を考えているかよくわからず掴み所が無いが、今回はそれがより顕著に溢れ出ていた。
「何か知ってるの?」
「..何も。
逆に何を知っていると思う?
死なんて気まぐれなものよ、予測しなくても突然訪れる。誰にでも平等、権利なんて存在せずいきなりやってくるものなのよ。私には何もわからない」
煽りか含みか、それとも無知か。
いずれにせよ何かを持っている、何も知っていなくとも何か知っている。悲しみとは真逆の好奇心を、彼女は心の奥底で沸騰させているんだ。
「井の中の蛙..。
蛇睨みには勝てない、か..。」
ある意味一番信用出来るかも、自分の感情でここにいるから。
「雄吾、雄吾ぉっ..!」
「ちょっとやめなよ皐月。」
「離して!
なんで雄吾が死んでるの!?
ねぇ、なんでそんな所で寝てるの!」
棺桶を揺らして涙で顔を腫らす女、あれは確か北井の彼女、名前は..。
「渡邊 皐月」
「…心読めるのかなこの人..。」
親より声を上げて泣いてる、恋人が死ねば当然か。本来はあれが正しい姿なんだよね、私は捻くれてる。
「声を掛けてあげようか?
もっと泣くかもしれないわね、危険だからやめときましょう。」
蛇が毒を撒き散らそうと何やら画策してるけど、流石にあの状況に話しかけにいく人なんている訳..
「皐月ちゃん大丈夫だよ〜、ね〜?
元気出しなって、北井くん寝てるだけかもよ、バチって目開けるかもよ。」
「……」
いた、異例の問題児が。
「あれって慰めてるつもり?」
「そうみたい。」
悪気があるのか無いのか本気で良く分からない、無くはないと思うけど。
「アナタに何がわかるのっ!
恋人が死んだんだよ、どれだけ辛いかわかってるの!?」
本当に厄介なのはデリカシーの欠如では無く、その後の振る舞いだ。
「わからないよ?
だってワタシ死んでないもん。」
「……。」
ああいう事を平気で言うのだ、あの冷たい目で。いつも疑問だ、何であの子が私の事を親友だと思っているのか。
「大崎さん、あの子と仲良いの?」
「..代わってほしいよ、本当。」
この葬式で密かに感じた事、私は多分〝これでは終わらない〟気がしてる。
「あ、陽奈ちゃーん!
来てたんだぁ、って当然だよねー。」
「呼ぶな呼ぶな、私の事..!」
おっかねぇ女だわ。
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