ベロニカ

アリエッティ

第1話 目覚め

 夢を見る、よく同じ夢を。

沢山の制服を着た男女、高校生が横たわっている。踏み締めて血まみれの死体の上に、私が立っている。


空は青空、私はそれを見上げる。

空は鏡のように私の顔を反射するけどその表情が自分でわかる前にいつも決まって目が覚める。


「……まだダメか..。」

今回も同じ事、その線は絶対超えない


「なんか、寝るの嫌だな..」

普通の人のリラックスが私にとっては大きな苦痛に変わってしまっている。

「..行くか」

制服は嫌いだけど、行くしかない。

私も夢と同じ高校生

惰性でも、無理矢理行かされる。


「行ってきます..。」

扉の鍵を閉めて、いつものつまらない街並みを歩く。その先に待つのはそれより退屈な場所なのに。


「鍵、何の為に持っているんだろ..」

母親は随分と前からいない。

小学校低学年のときに突然発狂して、そのまま家を出た。今はどこで何をしているのかも全然わからない。

同様の形で中学二年生のときに父親も何処かへ消えた。それから私はずっと一人だけど、この夢を見始めたのは両親がいなくなってから。


「不幸な前触れ..これ以上ある?」

今は一人で暮らしいて、親戚の援助を受けながら生活している。だけど常に思っている、その人もいつか消えてしまうんじゃないかって。

「消えるなら、学校の奴にしてよ..」

特段嫌いな訳じゃない、だけど身近が消えるならそっちの方がいい。私自身の物理的な距離感の問題。


「おっはよー陽奈〜!」

学校へと続く並木道を歩いていると酷く活発な声が鼓膜に突き刺さる

同じクラスの同級生 冴島 瑠夏だ。


「…何、朝から元気ですね..。」


「ちょっと何、その他人行儀感?

いきなりツンデレモードですかっ!」


「デレてないよね、一回も。

いきなり来たのはそっちでしょ?」


「もードライ〜!かなしい〜っ!」

「……」

相手は仲の良い設定らしい。私はそうでもないけれど、在り方がフィクションならば放っておいて勝手にやらせておけばいい、そう思っている。

「今日の一時限目何だっけ..?」

「も〜聞いてない〜っ!」


教室に着いて、チャイムが鳴れば

担任教師の出席確認が始まる。


園田高等学校 2-B組 出席簿


出席番号

1 相島 耕助 14 海塚 勝利

2 安形 良明 15 工藤 啓介

3 飯島 克也 16 近道 一真

4 伊勢 真司 17 冴島 瑠夏

5 井上 恭香 18 逆木 大和

6 上島 瑞稀 19 酒味 商事

7 笛吹 和樹 20 篠宮 玄馬

8 遠藤 卓流 21 須藤 愛理

9 榎木 祐仁 22 隅田 麗奈

10 大崎 陽奈 23 瀬戸 清

11 置倉 省吾 24 相田 幸之助

12 桶崎 美栗 25 高野 岬

13 尾後 淳  26 武波 正義


「27番 北井 雄吾!

..北井休みか、珍しいな。」

野球部の皆勤賞が休来てない、遂に休みたくなったみたい。正直殆ど話した事ないから関係は無いけど。クラス約40人、私は殆ど話した事無い。だけど全然思い入れが無いとも言えない。


「ホントは顔も見たくない..。」

夢の中に出てくる死体の山は、皆クラスの連中なんだ。誰が見せてるかは分からないけど、悪趣味過ぎる。


「北井くんが休むの初めてだね〜。

風邪でも引いたのかな〜?」

「……知らない。」

趣味で終われば、まだ良かったと思う

その日からおかしくなった。

いや、前から毎日はおかしくて、それに気が付かず生きていただけだ。


その日、北井は結局来なかった。

というより〝その日から〟学校に来る事は無くなった。


先生が朝の会の後、血相をかいて教室に戻って来た。

「北井が死んだ..!」

扉を開けてただそう言って固まってた


「えっ..?」

周りは当然泣いてたよ、野球の友達は特に顔を腫らしていた。私も悲しくない訳では無いけど、接点が余り無いからどういう顔をすればいいかわからなかった。それより不思議なのは..


「北井くんかわいそうだね〜。」

「.....」

冴島 瑠夏が平然としていた事だ。

悲しむ素振りも無く、静かな瞳でただ慌てる担任教師を見つめていた。


「..あなた、結構冷たいわね。」

「ん〜、そうかな〜?」

この先何度この目を見る事になるのか考えると恐怖を感じた。死よりも深い悲しみが、待ち構えているのだろうか

「夢に出そうだわ。」

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