第20話

 その後。

 レオナルド達は、順序良く素材を回収。『菜の花高原』最深部のボス『土蜘蛛』に挑む。

 最深部のボスに関しては、一種のレイドバトル形式になっており。

 他プレイヤーと協力し倒す事で、帰還用のスポーンクリスタルを出現させられる。


 人も少ないこの時間帯。

 レオナルド達以外の他プレイヤーはいなかったが、弱体化したボスなので、戦闘に不慣れなサクラ達でも相手出来る程度。


 無事『土蜘蛛』を討伐し「お疲れ様です」とレオナルドに声かける、おかっぱの少女。

 彼女は、サクラが話題にしていた魂食いのプレイヤー・凪だった。

 眼鏡の鍛冶師の女性・ミカンは、VITを高めていないのか、戦闘終了後、直に息切れを起こす。


「はぁ、ひ、久しぶりに動いた~……」


 サクラが「ずっと引き籠っているからよー!」と余裕綽々な様子。

 彼女はレオナルドがあげた『サクラのフロート』の効力もあって十分に戦えたのだろう。

 クエスト終了まで肉体が疲労を感じなかったのは凄いと、レオナルドも驚く。


 新薬開発の情報を広めれば、悪目立ちを警戒するルイスも気楽になるのではないか。

 レオナルドは彼女達に尋ねる。


「ギルドとか知り合いに薬剤師っているか?」


 凪は申し訳なく「いえ」と首を横に振った。


「さっき教えて下さった『新薬』の事ですよね」


「ああ……出来れば広めて欲しいんだけど。無理そうか?」


 レオナルドのお願いに、ミカンが疑問を抱く。


「広めちゃっていいの? こういうのって先取りしたもん勝ちだよ??」


「俺のフレンドは神経質で目立つのが嫌いだからさ。皆に広まれば、余計な心配する必要なくなるだろ?」


「中々謎いね、アンタのフレンド」


 唸るミカンの傍らで、サクラも便乗してねだってくる。


「ねーねー! 薬剤師、ギルドに入れよーよ!! 毎日お菓子食べたーい!」


 以前は『役に立たないジョブ』と馬鹿にしていたのを掌返すサクラ。

 お菓子狙いが丸出しの彼女に呆れるミカン。

 凪の方は真剣に考え、自分なりの意見を述べた。


「バトルロイヤルの影響で薬剤師の人が増えた今が、確保するタイミングではないでしょうか」


「う~~~ん……ホノちんに連絡してみるけど、返事くるかねぇ」


 返事、と聞いてレオナルドは気づく。

 ログインしているなら、ミカンは「後で聞こう」と答える場面なのだ。

 不安に感じ、念の為にレオナルドが問いかける。


「ホノカの奴、ログインしてないのか?」


 サクラが真っ先に彼の疑問に反応して、噛みつくように教えてきた。


「ホノカちゃんは修行中なの! カサブランカを倒す為に強くなってる最中!!」


「修行? だったら逆にログインするんじゃねえのか??」


現実リアルで修行中! そんくらい分かりなさいよ!!」


 フン!と怒りを表情に出すサクラ。

 強くなろうと修行するのは悪い事じゃない。

 素直に、努力したくなる事があるのかとレオナルドはホノカを羨ましく思っていた。

 だが、ミカンと凪の表情は重い。


「ギルドマスターが一か月ログインしなければギルド解散になってしまうんですが……」


「流石にそれまでにはログインするっしょ」


 スポーンクリスタルが消滅するカウントダウンが表示され、慌ててレオナルドは彼女らに別れを告げた。


「今日はありがとうな! またどっかで」


 凪が「こちらこそ」と頭を下げ、サクラは「じゃーね!」と手を振って、ミカンも無言ながらレオナルドを見送ってくれた。

 スポーンクリスタルで転移しながら、レオナルドは思う。


(やっぱり、俺の立場だと追求しにくいっていうか……なんだかなぁ)


 レオナルドが思う『新薬』問題は解決しそうだが、肝心のサクラに加え、ホノカの不穏要素は残ったまま。

 しかし、無関係な自分がしてやれる事は、あるだろうかとレオナルドは悩み続けた。





 無事、帰還を果たしたレオナルドは木の逆刃鎌を作って貰う為、緊急で茜に依頼をした。

 珍しい時間帯に彼がログインしていたので、彼女も意外な反応をする。

 それでも、前回と同じ素材とスキルで逆刃鎌を作製し、色はレオナルドの衣装に合わせ、少し明るめの青で塗装してくれた。


「ふーん、マルチで素材集めねえ」


「ルイスがこの時間なら人が少ないだろうって」


 茜は青く塗装した逆刃鎌に、白で模様描きながら唸る。


「確かに、今の時間は人少ないけど……PKに合わなかったかい?」


「え、あ……まあ、それもあって壊れちまったんです」


 面目ない気持ちで返事するレオナルド。

 しかし、茜は特別驚いた様子なく「ああ、そう」と当たり前のような態度だった。

 料金を払いながら、不思議に思ったレオナルドは尋ねる。


「PKってこの時間帯が多いんですか?」


「まぁね。不登校のガキンチョとか引き籠りが、憂さ晴らしにPKしてくんの」


「あー……」


 サクラもそうだが、レオナルドにPKを仕掛けた騎射の少年も、茜が挙げる一例のどちらかに当てはまりそうな気がした。

 茜は複雑な顔つきで助言をくれる。


「あたしは午前三時・四時くらいに行くけど。年取ると早起きになっちまうんだよねぇ」


「はやっ!?」


「あたしの感覚だと一番人少ない時間帯」


「うーん、成程……」


 一つ気になった点も、茜に質問してみるレオナルド。


「ちなみに仮面ってつけた方がいいですか?」


「身バレが嫌ならした方がいいけど……PK上等って構えだから、気を付けな」


 PKは嫌だが、逆刃鎌の事を考えるとやはりしておいた方が良さそうだと、レオナルドは判断した。

レオナルドは、再度PK集団と遭遇する可能性を考慮して、癖あるマルチエリアから向かう。


 次に足を運んだのは『春出水はるでみずの乱』と呼ばれる水辺が多いエリア。


「そーいや、ここで新しいスキル使えるんじゃねえか?」


 レベルアップで獲得したスキル詳細を確認するレオナルド。



[ソウルシールド]

 状態異常耐性・環境対応する特殊なシールド。パーティにも適応可能。

 使用し続けるとMP消費。



「攻略サイトとかで確か……あ、やっぱり! これ使うと水ん中入れるんだよ」


 情報を確認して、レオナルドは早速『ソウルシールド』を発動。体から武器まで青白い発光に包まれた。

 通常、水中に入ると呼吸ゲージが出現。息切れでゲームオーバーがある。

 武器によっては、水で錆びや腐食状態になってしまう。

 しかし、『ソウルシールド』で保護すれば、呼吸も錆びも心配する事なく潜れる。


 水中に入ると貝や海藻等の素材だけではない、妖怪たちの姿もあった。

 レオナルドは『ソウルターゲット』で水圧や水流を押しのけ、敵を倒す。

 それでもMP消費が馬鹿にならない。


「やっぱ、俺一人じゃキツイ!」


 『魔力水』が底尽きる前に、レオナルドは海面に浮上する。水中の探索・採取を諦めた。





 中級エリア『ネモフィラ弥生山』。

 高い木々など障害物が一切ないエリア。

 一面が青の花・ネモフィラで埋め尽くされた光景を逆刃鎌で浮上し、見下ろすレオナルド。

 美しい情景に気を取られると、彼の背後から怒声が響き渡った。


「オイ! なに人より速度出してやがんだ、オメェ!!」


 派手な装飾を施したコートを着用し、これまた派手な紫髪のショートヘアの荒い口調の男性魔法使いが、箒の柄に立ち乗りしていた。表現は悪いが暴走族そのものである。


(なんだ、コイツ!?)


 レオナルドは、思わず『ソウルターゲット』を用いて暴走族から距離を取ろうとした。

 箒に無数の魔法陣を展開させると、どういう原理か不明だが急加速する暴走族。

 レオナルドが身軽かつ『ソウルターゲット』で最高速度を出してるにも関わらず、暴走族が徐々に距離を詰める。

 だが、暴走族の魔法使いの方も驚愕していた。


「はぁ!? オメー『』かよ!!? なにアホみてぇに飛んでんだよ、『農家』の癖して!」


「農家ぁ???」


 墓守系は草刈り専門ジョブ=『農家』と嘲笑されているのだが、専門用語の意味が分からないレオナルドは素っ頓狂な声で聞き返す。

 相変わらず暴走族は、問答無用で怒声を上げる。


「ここは俺のシマだぞ! 勝手に荒らしてんじゃねぇ、農家風情が!!」


「ああ、もう!」


 まともに素材が取れないうえ、これ以上巻き込まれるのは勘弁。レオナルドは、潔くクエスト離脱した。





 上級エリア『山桜の街道』。

 白煉瓦で舗装整備された西洋の商店街を桜並木が包み込む。

 ただし、既に廃れた廃墟の街で、NPCの姿は無い。長い商店街だけが行動範囲エリア。


 喫茶店のテーブル席やティーセット、雑貨屋にはインテリア雑貨など。

 廃墟に残された代物を、実質無料タダで入手できるサービスエリアだ。

 運営の謎のこだわりなのか、デザインも良く、これ目当てに訪れるプレイヤーも少なくない。


 レオナルドが『ソウルサーチ』で妖怪も誰も居ない事を確認。一安心して、素材集めに専念した。

 先ほどと打って変わって、ゆっくり探索する余裕すらある。

 素材以外にも何か持っていこうかと、レオナルドは見まわった。


「食器……これ食べる時に使えんのかな」


 喫茶店から幾つか食器やテーブルを拝借。

 ルイスが『ワンダーラビット』という店名にしているので、うさぎ好きだろう。

 そう思ってレオナルドは、うさぎを中心に雑貨を選んでみる。


 ふと、レオナルドが目についたのは、薬屋っぽい看板を掲げた場所。

 中に入ると、薬品棚や薬の素材保管庫らしい場所はあるが、何一つ残っていない。


「ん~~……お、あった」


 レオナルドが発見したのは、暖炉の灰。

 燃え残った紙片の断片。慎重に採取しなければ崩れそうなほど脆い紙きれ。

 無事に回収すると、特殊アイテムの詳細が表示された。



[春のイベントレシピ(1):なんでもない日のケーキ]

 ある錬金術師アルケミストが残した特殊な新薬。

 薬剤師系のプレイヤーがINT判定に成功すると解読可能。



「へえ、探せば他にもありそう―――」


 レオナルドは何か視線を感じて振り返る。念の為『ソウルサーチ』を発動するが、魂らしい反応はない。

 気のせいか?

 この街にも相当長居しているので、一旦引き上げようとレオナルドは最深部のボスへ向かう。

 時間を確認すると、正午過ぎになっていた。


「やっぱり、今日中に全部まわれねぇよなー……朝めっちゃ早い時間に行くって奴、ルイスに話してみるか」

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