第11話
格闘家の少女も小雪と同じく、以前と服装が変わっていて、黒のタンクトップに炎が描かれたワイドパンツを履いている。
ラフな格好だが、格闘家にも関わらず、縛ってもない黒のロングヘアーは邪魔ではないのだろうか。
彼女はジロジロと僕らを観察している。レオナルドが「どうした?」と思ず尋ねた。
「お前ら、ソロでボス倒せんのか??」
レオナルドが顔をしかめて答える。
「ソロ? 一人で倒すとか無理に決まってんだろ。あとルイスは参加しねぇよ」
「だったら無理だな。参加したって一人も倒せねぇよ。こっちも初心者が来られたら萎えるんだよ。強い奴同士でやり合いたいってのに……」
彼女の言い分は理解できる。
弱者相手に圧倒しても意味はない。強さを示すには、強者相手でなければならない。
ムサシと同じ部類の人間だろう。
だが現実問題、残りの弱者のユーザーを切り捨てる風潮が、ゲーム業界にはよろしくない。
強者と弱者。どちらが比率として多いか問われれば――弱者だ。
弱者の居場所がなくなり、強者だけが蹂躙する風潮が広まってしまうと、衰退が始まる。
即ち、ゲームのサービス終了。
変に話を炊きたてるのは良くない。
僕は咄嗟に割り込んで、レオナルドの代わりに彼女への誤魔化しを行う。
「すみません。レオナルドはギルド貢献の為に参加するんです。大目に見て下さいませんか」
「ケッ! ギルドかよ……面倒くせーな」
所属ギルドを問い詰められるかと身構えたが、格闘家の少女は疑う素振りなく。
むしろ、助言をしてくれる。
「知らねーだろうから教えてやるけど、最近サービス終わったVRMMOがある。そっからコッチに人が流れ込んでるんだよ。『マギシズ』の運営もそれ狙って中途半端な時期からサービス開始したんだろうな」
妙に話題が挙がっていると僕も違和感はあったが、そういう理由があったのか。
なら、今回のバトルロイヤル。相当の魔境状態だ。
多くの初心者は、熟練プレイヤーの点数稼ぎにしかならない。
「イベントを盛り上げる為だろーが、ギルド貢献度とか糞仕様だよ。ホント。貢献度にうるせーギルドだったら、ウチのギルドに来いよ」
レオナルドが気まずそうに「ありがとう」と礼を告げる。
少女は他にも苛立ちを抱えているようで、ズケズケとクエスト受付に向かっていった。
一先ず、僕らはイベント受付でレオナルドだけ参加手続きを行う。
「お。ポイントで武器とか貰えるのか」
受付を終え、レオナルドはバトルロイヤルのルール確認、獲得ポイントで貰えるアイテムや武器の一覧を眺めていた。
イベント限定の衣装や武器もあり、これ目当てに参加するプレイヤーも居るだろう。
唸りつつレオナルドが注目したのは――
「五人倒せればいいか……?」
参加プレイヤーを一人倒して100ポイント。
彼が狙っているのは、500ポイントで交換可能な薬剤師系の武器――洒落た革製の旅行鞄。
僕の為よりか、最低目標だろう。
大鎌は5000ポイント……初心者のレオナルドが目指せる無難な目標だと分かる。
「ルイス、鞄欲しいか?」
「そうだね。一旦、店に戻ろうか」
周囲に聞かれては不味いので、店内に転移してから僕はレオナルドに伝えた。
「まず、断言してしまうと君が生き残るのも難しいね。現状、最低限の参加賞が貰えるくらいだ」
「結構はっきり言うな……」
「実力差は圧倒的さ。格闘家の彼女もそうだけど、ムサシのようなVR常連者が犇めいている訳だ。普通じゃ勝てない。普通ならね」
僕はメニュー画面を開き、再度バトルロイヤルのルールを表示した。
<第一回 春季バトルロイヤル>
・制限時間30分。倒したプレイヤーの数で順位を決定します。
・プレイヤー1人倒すごとにイベントポイント100を獲得。イベントポイントで限定アイテム・装備品と交換しましょう!
・参加賞は5000マニーとJPジョブポイント5000獲得。
・ギルド加入者には、参加賞で貢献度1000ポイント。上位100名には順位に合った貢献度を獲得。
シンプルかつ単純なルールだ。多く倒した者が優勝。
そして、イベントを盛り上げる為に、限定アイテム等や貢献度を餌にプレイヤーを参加させようとしている。
だが……
「今回のルールを悪用する輩が必ず現れる。そこを狙うのさ、レオナルド」
◆
~フレンドチャット~
※最新のメッセージ100件まで表示します。
<レオナルド>
[空中攻撃しないで浮き続ける事ってできんの?]
<ムサシ>
【武器を動かし続ければ5秒持つ】
<ムサシ>
【回転でもしてろ】
<レオナルド>
[ペン回しみたいに?]
<レオナルド>
[今度やってみる]
<レオナルド>
[聞きたいんだけどさ、何でムサシは強くなろうとしてんの?]
<ムサシ>
【忘れた】
<レオナルド>
[そっか]
<レオナルド>
[そろそろ寝るわ]
<レオナルド>
[おやすみ]
◆
各々が準備期間に入っているのを察し、運営が一日限定の特別クエストを設けた。
経験値獲得クエスト。
制限時間内に妖怪『座敷わらし』を倒していくだけの内容。
『座敷わらし』はフィールドの物陰に現れ、物音や囁き声を頼りに探し出す。
倒せば倒すほど『座敷わらし』の現れる量と速度が増加。
大量討伐に成功すれば膨大な経験値が得られる……のだが、肝心の『座敷わらし』を捕捉するのに多くのプレイヤーが苦戦を強いられているようだ。
だが、レオナルド――墓守系のジョブが新たに獲得したスキルがあれば、余裕だった。
[ソウルサーチ]
周囲の魂を索敵する。効果はパーティ全員に適応される。
使用し続けるとMP消費。
隠れ潜んでいる妖怪以外にも、姿を眩ます盗賊系のスキル『隠れ蓑』で透明化したプレイヤーも捕捉できる。遠距離や不意打ち系のジョブ対策は万全だ。
僕はレオナルドのMPを絶やさないよう『魔力水』で、こまめに回復を行い。
レオナルドは『ソウルサーチ』と『ソウルターゲット』を組み合わせ、広範囲攻撃で『座敷わらし』を狩り尽くし、僕は彼が倒し損ねた『座敷わらし』を片付ける。
他にもレオナルドのスタイルが変わった。
カサブランカの指摘を意識したのか、『ソウルターゲット』の切り返しを鎌を手前に振るのではなく、大鎌を片手で回転させる。
回転するのは手前ではなく、レオナルドの背後。
お陰で視界が開け、『ソウルターゲット』の軌道が描きやすくなったと分かる。
何より、回転し続ける事で宙に留まる時間も延長していた。
「ルイス。さっきのどうだよ? 早く飛べるようになっただろ」
「うん、いい感じ。あとは回避の特訓かな。丁度、次のボスが空中回避の耐久戦だよ」
「じゃあ……どーすっかな。ステータス」
「ちょっと待ってね」
僕らは集会所のテーブル席に腰かけ、話し合う。
墓守・魂食いのスキル・ステータス情報は、大分更新されている。
『ソウルターゲット』の発見でMP消費系のジョブだと判明したのを期に、INT極振りで作り直した攻略班や動画実況者から得た内容をまとめた。
まず、レオナルドがレベルアップで獲得した新たなスキルは、これだ。
[ソウルオペレーション]
大鎌を魂で浮遊操作する。
『ソウルオペレーション』は武器を手で振るわず、浮遊操作し遠距離の敵に攻撃する。問題点は、プレイヤーは武器なし状態になり、浮遊操作に意識が奪われがちになる事。
さて。
情報を整理して気づいた事が幾つかある。最も意外なのは―――
「『ソウルターゲット』は案外難しいんだね。君がすぐに慣れたから、簡易仕様になっていると思ってたよ」
多くのプレイヤーが『ソウルターゲット』を使用すると猫背になる。
鎌の重さで重心がずれたり、鎌を一旦地面に置いてもスキー初心者みたいなくの字足状態やバランスを取れずに体が斜めったり……
レオナルドは、他プレイヤーの動画を視聴して「スケボやってたからかな」と心当たりをぼやく。
「『ソウルターゲット』以外にも、この『ソウルオペレーション』の操作が難しいのが不人気な理由なのかな」
「おお、これスゲーじゃん」
レオナルドが感激しているのは大鎌を操作する『ソウルオペレーション』関連の動画だ。
INT極振りしたプレイヤーが『ソウルオペレーション』にスキルレベルが存在する旨を説明し、レベルMAX状態で五本の大鎌を装備し、浮遊させるモーションを映している。
しかし、一本手元に残しても、残り四本の大鎌を上手く操作しなければ意味がない。
加えて『ソウルオペレーション』の武器装備に関するデメリットがあった。
レベルMAX状態の『ソウルオペレーション』の説明文は以下の通り。
[ソウルオペレーション Lv.MAX]
大鎌を魂で浮遊操作する。更に、大鎌の装備数を増やす。(最大5)
デメリット:装備数分、自身の最大HP半減。
あくまでHPが半減するだけ。スタミナには影響は及ばないらしい。
だが、複数の武器操作に加え、相応の回避能力が必須。――やはり僕が予測した通り、プレイヤースキルが試されるジョブだ。
僕は浮遊する大鎌の動き等を観察し、バトルロイヤルの対策を練った。
「レオナルド。一番厄介なのは遠距離型と盗賊系のジョブだ。君の『ソウルサーチ』で敵の位置を捕捉すれば、問題ないけど。常に捕捉し続ける必要がある」
「そうだよな。アイテムって幾つ持ち込めんの?」
「アイテム数制限ないよ。スタックは通常通り99まで。三十分の制限時間を考慮すると消費アイテムは必要不可欠だからね」
ただ――『ソウルターゲット』を使う余裕がない。
『ソウルサーチ』との併用使用し、『魔力水』でMP回復し続けても、十五分どころか十分持つか怪しい。
そして、僕らが狙うギルドの愚策が行われるのは序盤中盤の峠を乗り越えた終盤。
序盤中盤は『ソウルサーチ』のMP消費だけで抑えたい。
「君のバランス感覚を信用しよう。まず『ソウルオペレーション』をレベル3にして、大鎌を三本装備可能にする。大鎌の一本は君の後頭部を保護するのに使う。無理に動かさなくていい」
警戒するべきは、銃や弓のヘッドショットだ。
いくら『ソウルサーチ』があっても、レオナルドが即座に反応できる訳がない。
まずは、そこの保護。
「もう一本は攻撃兼牽制用。回転と旋回を組み合わせて、広範囲攻撃して、近距離型を遠ざける。フィールドに木々があれば、それを切り倒して、高所に陣取る弓兵や銃使いの妨害になる」
「じゃあ、最後の一本は手元に残す奴?」
「うん。手元の一本は『ソウルオペレーション』で浮遊させて――君が乗るんだ」
「乗るゥ!? 魔法使いの箒みたいにかぁ?」
素っ頓狂な声を上げたレオナルドは、一体どうするのかと困惑している。
僕は、それを微笑ましく眺め教えた。
「動画を見て、安定しそうな乗り方を思いついたんだ。やってみないと分からないから、後で鍛冶師のところに―――」
その時だった。
折角、気分良く盛り上がっていたところに、耳障りな少女の声が割り込んできた。
「いたー! この嘘つき!!」
僕らにムスッとした腹立たしい表情をするうざったい少女は、本当に初対面の魔法使いだった。
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