僕のフレンドの周りが鬱陶しい
ヨロヌ
第一章 春エリア
第1話
人がVRMMOを始める切っ掛けは様々ある。
僕の場合は、クラスの流行に乗り遅れない為だった。
つい最近まで家庭用VRゲームは一般には馴染みなかったというのに、ゲーム機器の格安化とバーチャルリアリティのクオリティが高まり、若者をはじめ、脳の活性化を促すことから高齢者のユーザーも増えた。
『マギア・シーズン・オンライン』
魔法と四季をテーマにした異世界を舞台に、不気味なモンスターと戦う典型的なストーリーを背景にした新たなVRMMOは、僕の高校で話題になっていた。
クラスで仲間外れ扱いされる訳にもいかず。ゲームに関しては「中間テストの成績が良かったら親が買ってくれるんだ」と皆に答えておいたが、触れないままは良くない。
中間テストが終わり、梅雨が始まった頃。『マギア・シーズン・オンライン』はサービスを開始した。
機器本体の設定を終え、ヘッドギアを装着。ゲームにログインする。
電脳世界へダイブした先は、ゲーム世界ではなく無機質なホログラムが無数に漂う空間。
機械音声の案内が響き、僕の前に半透明のパネルが浮かぶ。
<マギア・シーズン・オンラインの世界へようこそ!>
<最初にプレイヤーネームを設定してください>
キーボードパネルがフッと登場するが、僕の声も認識してくれるはず。
考えつく名前を言う。
「アーサー」
<既に使用されています。別のプレイヤーネームを設定してください>
「ビリー」
<既に使用されています。別のプレイヤーネームを設定してください>
「チャールズ」
<既に使用されています。別のプレイヤーネームを設定してください>
「エドワード」
<既に使用されています。別のプレイヤーネームを設定してください>
無難な外国人名を挙げるが、重複ばかりだ。
日本人名は飾り気ない。
かと言って、呼びにくい、馴染みない名前も覚えずらい。どこかで聞いた事あるような名前がいい。
「ルイス」
<プレイヤーネーム:ルイス でよろしいでしょうか?
※プレイヤーネームは変更できません!※>
ようやくか。
僕は選択肢の『はい』を押し、性別は迷わず『男』を押す。
次は、アバター……プレイヤーキャラの容姿。時間を費やして拘る人が多いけど、僕は興味ない。
ランダム設定で適当に作って貰うと、銀髪赤眼、体は細身の青年になった。
随分特徴的で派手だが、髪色は赤を筆頭にピンクや紫まで取り揃えてある。
漫画やアニメキャラに似せる人も居るから、問題ないかと決定ボタンを押した。
そして、職業・ジョブ。
<近距離>
剣士、盾兵、格闘家
<遠距離>
弓兵、銃使い、魔法使い
<特殊>
盗賊、墓守、武士
<生産>
刺繡師、鍛冶師、薬剤師
ふむ……そうだな。
そもそも僕は、VRMMOもといMMOが初めてだ。
戦闘に自信なんて皆無だ。近距離は止めよう。
とくに盾兵は駄目だ。確かヘイト管理を重役とし、立ち回り次第じゃ仲間を壊滅しかねないと聞く。
遠距離も止めよう。リアルの射的能力と感覚が求められるからだ。
特殊系は……盗賊はナイフ、墓守はサイズ(大鎌)、武士はカタナが武器か。
武士が特殊なのは、近距離戦が得意。斬撃で遠距離攻撃可能。
ただし、カタナの攻撃方法が癖強いようだ。
残る生産系。
武器は、刺繡師はシザーズ(大鋏)、鍛冶師はハンマー、薬剤師は……バスケット。
バスケット。茶摘みで背負う籠と称した方が分かりやすいだろう。
武器のインパクトだけは一人前な薬剤師。職業説明を確認する。
<薬剤師>
回復・能力強化の薬を作成し、味方をサポートするぞ!
他のジョブよりアイテムをたくさん持てる。ステータスは体力が一番優秀!!
成程。完全サポート特化のようだ。
これなら問題なさそうかな。『薬剤師』に決定すると、早速ステータスが表示される。
その中に、特徴的な注意事項が表示された。
※『薬剤師』はMPを持ちません!
※『薬剤師』は所有するアイテム数が武器の攻撃力に加算されます!
武器の攻撃力。
バスケットの中にアイテムを収納している設定→バスケットの重さで威力が上昇→アイテムの所持数で武器の重さも変動?
MPがない=戦闘で使用する特殊能力はない。
アイテム使用特化、ダンジョンで拾ったアイテムの保管担当、最低限の自衛が可能。
あとは薬作成の仕様次第かな。
ステータスポイントに+100加算され、好きに割り振っていいと表示がされた。
物の作成ならDEXが定石。
しかし、僕の仮説通り、アイテム所持数で武器の重さに変動があるならSTRにも入れたい。
ポイントは後から設定出来るらしいので、一先ず何にも入れず、保留にした。
<それではチュートリアルを開始します>
周囲が森に変化し、舗装された平坦な一本道が続く場所となった。
僕の前に『マギア・シーズン・オンライン』のマスコットキャラ『しき』が登場する。
『しき』は少女の姿をしたフェアリーだ。
「ようこそ! 魔法と四季の世界へ!! 私の名前は『しき』。これから貴方に冒険の基礎を教えるヨン!」
奇妙な語尾を持つ彼女の指示通り進めていく。
モンスターに連続攻撃を続けると、自動的にコンボフィニッシュが発動。強力な一撃と共に、コンボは一旦途切れる。
敵を倒しドロップする宝石は、ゲーム内の硬貨・マニー。
宝石の色で数値が決められており、緑は1マニー、赤は10マニー、青は100マニー、黄が1000マニー。最も高価な10000マニーは白。
アイテムは宝箱でドロップする。宝箱の外見で中身のレア度が判別可能。
木製はコモン、銅はレア、銀はSレア、金はSSレア。極稀に虹色のプラチナがあるとか。
更に『しき』からアイテムの説明をされる。
「アイテムのスタック数は最大99個ヨン! それ以上同じアイテムを拾う事は出来なくなるから気をつけて欲しいヨン!! あ、装備武器や防具、装飾品はスタック出来ないから注意するヨン!」
スタック可能なのは薬品系、矢や銃弾などの消耗品だ。
チュートリアルで幾つかアイテムを拾っていくと、少しながら武器(籠)に重さがある。
武器を背負って歩く、走る。
まだ量が少ない為、実感が湧かないけども、重さが増すごとに移動速度が低下しそうだ。
「そうだったヨン。貴方は薬剤師だったヨン。薬剤師は消費アイテムを連続で使う事ができるヨン! 他のジョブはアイテムを使うとクールタイムが発生するけど、薬剤師はそういうの無いヨン!!」
『しき』は悩ましい表情を浮かべた。
「ぶっちゃけ薬剤師の強みはそれだけヨン……攻撃やサポートみたいな能力はないし、ジョブポイントで獲得できるスキルもMP消費するものは使う事が出来ないヨン。スキル買う時はMP消費するものか確認するヨン」
裏を返せばMP消費する必要ないスキルがあるようだ。
気を取り直して『しき』は、調合に関するチュートリアルを開始する。
「素材はあげるから、色々調合してみるヨン!」
調合できる薬は
<回復薬>
体力が少し回復する。
<増強ドリンク>
一定時間、STRを強化する。
<延長剤>
強化の持続時間が延長する。
の三つ。
薬の調合に必要なのはハーブのような薬草系と水、貝殻やモンスターの角。
一つ完成させるのに数十秒ほどかかったが、DEXをあげれば調合スピードが速くなると『しき』がアドバイスをくれる。
三種類全ての調合を終え、アイテムの使い方をレクチャーされた後。
少し場所が移動し、森の開けたところにモンスターが三体出現していた。『しき』が言う。
「そろそろレベルが上がりそうヨン! モンスターを倒してレベルアップするヨン!!」
チュートリアルでレベルが上がってしまうのか。
僕はステータスを開いて、ゲームシステムとは別の、撮影機能を立ち上げた。
SNSと連携しているMMOは近頃多い。VRMMOも同じでゲーム内で撮影したものをSNSに乗せる事が可能だ。
僕の場合はSNS用ではなく、ステータスの数値を記録する為だけど。
「早くモンスターを倒すヨン!」
自棄に急かしてくる『しき』は無視。撮影したものを保存し、改めてモンスターを倒す。
レベルアップの効果音と共に、自動でステータスが表示された。
「レベルアップするとステータスポイントが3貰えるヨン! 早速、ポイントを入れてみるヨン!!」
ステータスの伸び具合を簡単に説明すると
「ポイントを入れるヨン!」
体力はともかく、
「ポイントを入れるヨン!」
それと気になるのは
事前に専門用語を流し見したけど、INTは魔法攻撃に分類されているらしい。
MPがない(世界観設定上では魔力を持たない)薬剤師には無縁。
「ポイントを入れるヨン!」
INTの数値=MPの数値ではないなら、このゲームではINTは魔法攻撃だけではない。
INTは『Intelligence』。知能、知性、諜報……情報の解析能力。
賢さ? なら、薬剤師の知能を上げる事は、調合に関わってくる能力値が故に上昇するのだろうか。
「ポイントを入れるヨン!」
………
「ポイントを入れないと先に進めませんか」
僕が渋々尋ねる。
やれやれな厭きれ顔する『しき』が答えた。
「ま、まぁ……ポイントは後でも入れられるヨン。割り振ったステータスポイントは途中で減らしたり増やしたり変えられないから注意するヨン!」
「それ先に説明した方が良いですよ」
「ヨン……そ、そういうこともあるから、初期設定からチュートリアルの間だけリセットできるヨン!」
「そうでしたか」
「ポイント振って、色々試してみるヨン?」
「結構です」
「ヨン……」
さて、チュートリアルも終わるかな。
『しき』が改めて、プレイヤー全員に配布されるプレゼントを紹介した。
・5000マニー
・
・レア武器上限解放チケット×3
・Sレア武器上限解放チケット×1
・SSレア武器上限解放チケット×1
「きっと冒険の役に立てる筈ヨン! 上手く使って欲しいヨン!!」
最後にゲームの世界観・バックストーリーが『しき』から語られる。
「平和だった世界に、さっき貴方が倒したモンスター……『妖怪』が現れるようになったヨン。世界に『妖怪』が現れるようになった原因がある筈ヨン。それを解明して欲しいヨン!」
周囲の森が消え、一体が光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます