第20話 開幕
「誰だお前、ここで何をしている」
やばい。見つかってしまった。どうする、暴れるか……?
大男はおれの腕を引っ張って、部屋の中に乱暴に連れ込んだ。
「兄貴、下のオフィスのやつが聞き耳立ていました」
兄貴分、つまり今は変装したオリフィスさんなわけだけど、どっしり座ってそれっぽさを演出していた。
「なんだそいつは」
「部屋の外で聞き耳立ててました。どうします? 消しますか?」
消すって殺すってことかな……。
そんな物騒なことする人たちなの? 不動産屋でしょ、この人たち。
「一応ウチの従業員だ。 例の娘と一緒に監禁してヤキ入れとけ」
「わかりました」
ちょっと待って、監禁とか嫌なんだけど。こんなやつら、何されるかわかったもんじゃない。
……ん? 今、『例の娘と』って言った?
「立て、こっちに来い」
大男ともう1人の部下みたいなのに引っ張られながらエレベーターに連れ込まれた。
これってオリフィスさん、ナイスすぎるんじゃないか? なんだかんだでリンちゃんのところに行けるってことでしょ?
……オリフィスの兄貴、尊敬しますぜ。
────10階。エレベーターのドアが開くと、そこにはオリフィスさんが姿を真似していた兄貴分の男が立っていた。
「え、兄貴。どうしてここに? ……あれ、ここ10階だよな」
なんちゅうタイミングの悪さだよ。本物出てきちゃったらバレちゃうでしょ。
「ああ? お前こそ何してんだ。ってか誰だそいつ?」
「え、いや、これはさっき兄貴が監禁しておけと……」
「ああ? お前何言ってんの?」
大男は異変に気づいた様子で、慌てて部下にさっきの部屋に行くように指示を出した。
指示を受けた部下はそのままエレベーターで、再度下の階に降りていった。完全にバレたな、こりゃ。
「兄貴、進入者です。6階に兄貴に変装したやつが紛れています。……となると、お前もグルなのか? あぁ?」
大男はおれの胸ぐらを掴んで持ち上げた。なんちゅう力だよ。やばい、とりあえず命乞いしてみるか。
「ち、違います! 私は関係ありません! ちょっと出来心で部屋を覗いてしまっただけなんです! 許してください!」
変装している架空の社員になりきって必死に言い訳してみた。
「まぁ待てや。とりあえず話を聞こうか。降ろせ」
「へい、すいません」
降ろすというより、落とすように手を離され、地面に尻もちをついたおれ。痛ってぇな。
「とりあえず君さ、名前と所属部署を教えてくれないかな?」
廊下に転がってるおれに、兄貴分がしゃがんで問いかけてくる。
そんなこと聞かれても、事前に打ち合わせしてないから名前も部署もないんだけど。
「エ、エレナ・アリグナクです。まだ入ったばっかりで所属部署はありません」
「エレナ・アリグナク君ね。はいはいありがとね。おい、下に連絡して確かめてこい」
「わかりました」
兄貴分の一声で大男は近くの部屋に入っていった。電話して調べるってわけね。詰んだわ。
「まぁ一応調べるけど恐らく社員じゃないだろ? 何が目的なんだ、お前は」
ここまでされたら、もう誤魔化しきれないな……正直に話そう。
と、そう思っていた時に、おれにかけられていたオリフィスさんの力が解けていった。オリフィスの方も慌ただしくなってきたんだろうな。
「おいおい、驚いたな。夢でも見ているようだ。どんな手品なんだそれは」
「フリチンで街を3週したらあんたも使えるようになるよ」
兄貴分は声を上げて笑った。おれはゆっくりと立ち上がった。
「とりあえずさっき拉致ってきた女の子の場所を教えてくんない?」
「やっぱりそれが目的か。あの娘はあの土地を手に入れる為の人質だ。土地を譲るなら返してやってもいいぞ」
「それは無理だろうね。ってことでこれ以上話しても無駄だから、力ずくで行かせて貰うよ」
おれはポケットから戦闘用のグローブを取り出し、装着した。
「おいおい、昨今の王国軍はお前みたいなガキを戦闘に駆り出すのか」
敵も指の関節を鳴らしたり、軽いストレッチをしたりと、やる気みたいだ。
「ああ、この軍服ね、王国軍と色が違うんだ。せっかくだから覚えていってくれ。この黒い軍服は軍じゃなくて……」
おれは前方に駆け出して敵の顔面に飛び蹴りを放った。
「最強自警団、フィストのもんだ!!」
敵はおれの蹴りを腕でガードした。
「いい蹴りだ……お前、ただのガキじゃねぇな」
おれは飛んできた右ストレートをかわし、敵の腹に短いパンチを2発入れる。
怯まない敵はパンチをくらいながら右脚で垂直におれの顔面を蹴り上げた。
……無駄がない洗練された攻撃だ。この人、強いぞ。
と、そんな時、さっきの大男が戻ってきた。
「兄貴! エレナ・アリグナクなんて社員、うちにはいないようでした! ……ん? こいつは誰ですか?」
「さっきお前が連れてきたやつだ。変装して例の小娘を取り戻しに来たんだとよ。鬱陶しいから消しとけ」
「へい!」
兄貴分は階段を登って去っていった。今度はこいつが相手か。
それに、まだこのフロアのどこにリンちゃんがいるかわかってない。さっさと倒して他が来る前に脱出しないと、めんどくさいことになりそうだな。
「とりあえずお前、さっき殴られたのマジでイラついてるから。容赦しないよ」
大男は大きく笑った。ガキの戯言と思って完全に舐められてるんだろうな。まぁ、相変わらずそっちのが都合がいいけどね。
すると、大男は笑いながら手招きをしてきた。
「ハッハ、威勢がいいなガキ。存分にかかって
おれは大男の顔面に拳をめり込ませた。
拳が届く距離じゃなかったけど、さっそく精霊の加護を解放し、超高速移動で相手との距離を詰めたんだ。
雷を纏った状態は、体が軽くて心地がいい。
「喧嘩によーいドンはねぇぞ、油断すんな」
倒れた大男にそう言い放ったけど、今の一撃で意識を失っていた。
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