第5話 最終試験
あれから1週間が経ち、待ちに待った最終試験の日がやってきた。
試験があるなんて言われた時は驚いたけど、最強なおっさんのもとで修行してきたおれたちなら、きっと受かると自信を持って今日まで調整してきた。
「軍事基地に入るのって初めて。なんか緊張しちゃうね」
「そうだね。それにしてもでっけぇ建物だよな……」
王国軍ロマーニ支部。ここ、ロマーニの街にある軍事基地は、支部の中でもかなり規模が大きいと聞く。王都ほどではないんだろうけど、街がこれだけ大きくて栄えてたら、そりゃそうか。
事前におっさんから貰っていた通行許可証を入口にいる兵士に見せてから、大きな門の脇にある勝手口から入れてもらった。
「エレナ、ナナ」
入ってすぐに正面から女性が歩み寄ってきた。
「あ、社長、おはようございます」
ナナはそう言って笑顔でその人に近づいた。
黄色っぽい髪に、サラサラそうなロングヘア。この人がうちの会社の社長だ。アラケスのおっさんの娘で、名はヒスリー・ホーマットという。
実はおっさんは会社の創設者ではあるが、社長ではない。社長業は元々自分の奥さんにしてもらっていたみたいだけど、今は娘のヒスリーさんが後を継いでいる。
ちなみに25歳と、かなり若い社長だ。
「社長見ててね。私、絶対受かるから」
おれには意地が悪いのに、社長にはめっちゃ懐いてるナナ。女同士ならではの仲ってやつなのか?
「頑張るのよ。でも、今日の試験は相当過酷なものを用意してるから。生半可な努力じゃ返り討ちにされるからね」
そんなこと言われたらプレッシャーになるし、ますます試験の内容が気になるんだけど。
とりあえず
「おうお前ら、待ってたぜ」
アラケスのおっさんが先に来ていた。
何やらスキンヘッドの怖そうなおいちゃん兵士と話しているみたいだ。その背景には、大勢の兵士たちが格闘訓練をしているのが見える。
「紹介しよう。この人は、このロマーニ支部で指揮官を務めるドルトスさんだ。昔のおれの教官でもある」
「よろしく」
身体がそんなに大きいわけじゃないけど、貫禄って言うのかな? 何か強そうな、間違いなく数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう、そんなオーラを感じる。
おれとなっちゃんは向こうから求めてきた握手に応じた。
「それじゃあお前ら、身体温めとけ。10分後にスタートするぞ」
到着したばかりなのに、話をどんどん進めていくおっさん。
「ちょっと待って、試験の内容とか聞かされてないんだけど」
「それは開始直前に伝える。とにかくお前たちの戦闘力を見る試験だ」
全然教えてくれない。
とりあえずこの10分で軽く走ってストレッチ、それからなっちゃんと組手を行っていると、あっという間に時間が経った。
おっさんに呼ばれて演習場の真ん中に行くと同時に、ドルトス指揮官も自分のところの兵士を召集していた。
───それも、ゾロゾロと何十人も。
この光景を見て、大体試験内容を理解してしまった。大勢の軍の兵士とおれたち2人は、自然と向かい合っていて、場は既に戦う雰囲気に包まれていた。
「いいか2人とも。今日はロマーニ支部の皆さんとは合同演習という形で協力してもらっている。ただ実際、ウチの社内的にはエレナ、ナナ、お前たちの最終試験ということで、力を試させてもらう」
目の前の奴らがその相手になるってわけね。軍とやり合うのは初めてだけど、相当強いんだろうな。
「試験に合格する為には、ただ一つ。ここにいる100人の兵士を全員ぶちのめせ」
──わかっていたけど、敢えて言われると思わず笑いが出てしまう。
しかもこの人たち、100人もいたのかよ。おれたちたった2人で
だけどおれたちは普通じゃない。いや、普通にならないようにここで壁を乗り越えないといけない。
そんな時、おっさんが歩み寄ってきておれたちに白い歯を見せて笑顔でこう言った。
「心配すんな。お前らの強さは稽古をつけたおれが一番知ってっからよ。ロマーニ兵なんざさっさと倒して、
今のおっさんのセリフが敵に火をつけたようで、急に正面の100人が殺気だったような気がした。
「
先頭にいた男が睨みを効かせて嫌みを言ってきた。
おれもイラッときたけど、なっちゃんの方が殺気立っていた。
冷酷な表情で、黒革で出来た薄手の戦闘用グローブを装着したなっちゃんは、冷ややかな目つきで相手を睨み、左拳を突き出して親指を下に向けた。
「舐めんじゃないわよ。アンタら全員、屈服させるわよ」
いつも天真爛漫ななっちゃんがキレている。
おれも戦闘用の革手袋を装着し、準備完了だ。
そして、なっちゃんの近くに寄って初動をどうするかについて小声で伝えたけど、なっちゃんも同じ考えだったみたいだ。
同じ師のもとで修行したから不思議とそうなってしまうんだろうか。
「準備はいいな。それでは、王国軍ロマーニ支部対、自警団フィストの合同訓練…………始めぇ!!」
ドルトス指揮官の掛け声でおれたちは駆け出した。
「───っ!?」
テンション上げて倒していこうと思った矢先だが、相手は動かずに、さっき挑発してきた先頭の1人だけが歩いて前に出てきた。
「どういうことだよ。やる気ないんすか?」
おれが問いかけた。
「いや、気に食わねぇんだわ。ガキ2人に大人が寄ってたかって相手するっていうシステムがよ。おれ1人で充分だ。かかってこい」
手招きする男に対し、なっちゃんは無言で近づいていく。
「まずはお前からか、小むす──!!」
叫びながら殴りかかってきた男の顎に風のように速く、綺麗なパンチをヒットさせた。
男は白目を剥いて、そのまま前のめりに倒れていった。あまりのしなやかさに、まるで何もしていないのに相手を鎮めてしまったかのような錯覚を起こしてしまいそうだった。
「エレナ、相手の出方は関係ないわ。こっちのペースで畳み掛けるよ」
「了解」
なっちゃんの実力を見て兵士たちは唖然としているが、おれたちはお構いなしに距離を詰めていった。
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