第15話 兄妹でも油断大敵でもやっぱり仲良し


 照麻は家の玄関の前に来ていた。扉を開ければ家に入れるのだが、右手に持った鍵が動かない。右手に力を入れて鍵を右に回せばそれで開くのだがそれが中々出来ないのだ。照麻は一人暮らしの為本来であれば部屋の電気が消えていなければならないのだが、何故か覗き穴からは部屋の中の電気が漏れていた。そして左手を使いポケットから取り出したスマートフォンを確認すると、由香からのメッセージと着信が五件と三件溜まっていた。

 急に心臓の鼓動が高くなる。この先に可愛い妹がいると思うと。そして今夜は恐らくこの時間まで照麻の帰りを待っていた事を考えると泊まる気なのだろう。つまり夜二人きりになると言う事だ。そのため逃げ道はもうない。こうなった以上覚悟を決めて右手に力を入れて鍵を静かに開けた。


 そのまま音が鳴らないように気配を消して、ソー…………ッと中に入る。

 靴を脱ぎ、慎重に中へと入っていく。

 忍者が敵の城に忍び込むようにして。


「あれ、いない? 助かったー」


 とても小さい声でリビングに由香がいない事を確認して安堵していると突然後ろに人の気配を感じた。


 そして聞こえてくる足音。


 ――ドクン、ドクン、ドクン


 高鳴る心臓。


 照麻は自分に言い聞かせる。


 大丈夫だ。


「あっ、お兄様お帰り――」


 命はなんとかなる。後は気合いだ!


 そう自分に言い聞かせて、持っていた鞄をソファーに向かって投げ捨てパッと振り返りながらジャンピング土下座へと移行する。


「すみませんでしたーーーー!!! 友達と話していたら連絡に気付きませんでした!」


 そして顔をあげて許しを請う。

 タイミングが最悪だった。

 お風呂上りで白いタオル一枚の由香。

 タオルは由香の大きな胸を隠し、両足の太ももを数センチ隠す程度の大きさしかなかった。

 成長期の為に胸が日々成長し少し前であれば防御力として十分機能していたタオルも今では装備品としては頼りなくなっていた。

 照麻が顔をあげたことで、由香が慌てて右手でタオルをあげて上半身を隠す。そのせいでただでさえ短いタオルが上にあがり隠れていたお尻がヒョイと顔を出すようにして下半身が露出される。今度は慌ててタオルを下に引っ張っる由香だったが照麻の目はハッキリと見てしまった。それも正面から、まだ誰にも穢された事がない神秘を。


 由香は下着を付けておらず、照麻が連絡すらせず帰って来ないもんだからと大変無防備状態となっていた。それに兄妹なのだからとあまり恥じずタオル一枚でも隠す所を隠していれば問題ないと思っていた。それが運の尽きとなった。


「――ぁ――ゥ!」


 照麻の視線が下半身で一瞬止まった。

 その事実に気付いた由香はお風呂上りの茹タコのように全身を真っ赤にして涙目になる。


 重なる視線。

 由香の身体から甘い香りがする。

 だけどそれはただ甘くて優しい香りではなく、危険と隣り合わせの香りでもあった。


「ち、違うんだ由香!」


 照麻は全身が硬直しながらも必死になって否定する。

 由香の細くて綺麗な両足が生まれたての小鹿野ようにブルブルと震えだす。


「お兄様のエッチ!!!!!」


 由香はそのまま左足を軸にして右足を勢いよく振り上げる。

 動いてくる足。

 その為に一歩前へと踏み込んだ由香。

 直後、照麻の視界の先では再びある光景が見えてしまった。がそれと同時に。


 ――ドゴッ!!


「がはっ!?」


 由香の右足が照麻の顎を直撃しそのまま振り上げられた。

 魔術で強化された右足の威力は強く綺麗な角度で入るだけでなくfase一の基本的な身体能力向上系統の魔術だけでもかなり強かった。

 そのまま照麻は後方に半回転し、背中から床に落ちた。

 

「どこを見ているんですか!? ぅう……」


 照麻は起き上がる前に痛みに堪えながら謝罪する。


「すみません……でした」


 由香はそのまま自分の部屋へと入っていく。

 照麻の家は一人暮らしではあるが、両親が気を利かせて由香が泊りに来た時の為にリビングとは別に二部屋ある物件を借りてくれている。その為二人同じ家に居てもプライベートはしっかりとある。


 照麻は帰りが遅くなるだけでなく由香を怒らせてしまったと反省する。

 そして今すぐ謝るのではなく、お互いの心が少し落ち着いたタイミングで謝る事にした。


「それにしても由香の奴また色々と成長したんだな」


 と本人聞かれたら今度こそ命がなくなるかもしれない煩悩を口にして照麻はお風呂に入った。そのまま着替え、歯磨きを終わらせて先程ソファーに投げ捨てすっかり忘れていた鞄を手に持ち自室へと戻る。


「あれ、由香?」


 ベッドの上に由香がいた。


「もぉ! 遅いですよ、お兄様!」


「ごめん。それとさっきのことなんだけど……本当にゴメン」


 頭を下げてしっかりと謝った。


「嫌です。あれは絶対に許しません!」


「ですよね……」


「とりあえずまずは鞄を直してください、お話しはそれからです!」


 照麻は許さないと宣言する由香の顔を見て、申し訳ないと思った。

 そのままカバンを机の横にかけて直す。


「なにしてるんですか?」


「え?」


 突然の事に戸惑う照麻。


「女の子が誘っているんですよ? 早くこっちに来てください」


「う、うん」


 そのまま照麻はベッドの端に腰を下ろす。


「違います。こっちです」


 照麻の身体が由香の方に引き寄せられた。


「今日は一緒に寝てください。そしたら今日の事は全部水に流してあげます」


 そう言って照麻の身体毎由香はお布団の中へと入っていく。

 照麻は由香の顔を見つめる。


「さっきは羞恥心が強くいきなりあんなことをしてすみませんでした。でも好きだからこそ恥ずかしかったってのが一番の理由です。私の事嫌いになりましたか?」


 顔と顔を近づけ不安なのかさり気なく照麻の左腕を掴みながら上目遣いで由香が言う。


「んなわけないだろ」


 すると由香の表情に笑みが戻った。


「そう言って頂けるととても嬉しいです。なら今日は甘えさせてください」


 そう言ってずっと我慢していたのか、由香の瞼が閉じられた。

 照麻に身体を密着させて寝た由香の胸が左腕に直に当たる。上半身は薄い生地で肌着一枚で下着を付けていない由香。だけど由香は気にしていないのか気持ちよさそうにして「大好きです、おにいぃさぁまー、えへへ~むにゅゅ~」と幸せそうな声で寝言を言い始めた。


 試しにだらしなく緩んだ由香の頬っぺたを右手の人差し指でツンツンしてみるととても柔らかかった。甘えん坊の子供って感じがしてとても可愛いと照麻は感じた。


「ったく、無防備過ぎるだろ。もう少し男に警戒心持つんだぞ由香。おやすみ」


 愛莉に帰り道偉そうな事を言ったが、仲の良い兄妹ってこんな感じで何かあってもお互いがちゃんとすぐに謝ればすぐに仲直りできると照麻は思っている。

 だからきっと愛莉と香莉に限っても例外ではないと思う。

 そんな事を思いながら照麻は目を閉じた。


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