第14話 仲直りのきっかけ


 香莉から逃げるようにして、何より今日会ったばかりの男に泣き顔を見られた恥ずかしさから愛莉は逃げる為に家を飛び出した。


 そのまま行く当てがない愛莉は家の近くにある公園に来ていた。辺りは暗く、誰もいない。そんな公園の真ん中に設置された木のベンチに愛莉は一人座り泣いていた。公園の街灯が愛莉を照らす。


「…………」


 心が乱れて上手く言葉が出てこない。

 ただ一つ言えるのは、香莉と仲直りしたいだった。


「……ぅう、かおりごめんね」


 自分に言い聞かせるようにして愛莉が呟く。


 今さら後悔しても仕方がないことはわかっている。それでもやっぱりなんであんなにムキになってしまったのだと思うと反省していた。香莉の幸せを願って言った言葉が逆に香莉を傷つけてしまった。あろうことかいつもなら冷静に聞いてあげられるはずの香莉の意見を今日は否定し続けてしまった。その結果として香莉がさらに怒った。それに負けじと愛莉自身も熱くなった結果がこれだ。


「あぁ~私バカしたな……」


 顔を上げて星が綺麗に輝く夜空に向かって呟いた。

 今日は雲一つなく、月も綺麗に輝いている。

 なのに愛莉の心の中は雲だらけで気分が落ち込んでいた。


「ふふっ、私達今日は正反対だね」


 返事がない変わりに夜空は綺麗な光を愛莉に見せてくれた。


 そしてある事に気付く。

 慌てていた為に家の鍵もスマートフォンもない。

 これではオートロックを解除する事はおろか、部屋の玄関すら開けられないし優莉にも香莉にも連絡が出来ない。


「あぁ……今日は本当に運がない……今からどうしよ……」


 その場で散々迷ってみたが、家に帰れるチャンスがあるとすれば優莉と香莉が寝るまでの間に家に帰りインタホーンを鳴らすしかない。だけど優莉ならともかく今は香莉とは気まず過ぎて話しかけにくいしお願いもしづらい状況である。


 香莉にバレずに何とか家に帰る方法がないかを模索するが、マンションのセキュリティーの高さが一番の問題となり全ての選択肢が潰された。


「キャァ!?」


 突然頬に触れた冷たい物体が触れた為に、条件反射として愛莉の口から可愛らしい声がでた。

 何事かと思い後ろを振り向けば、ある意味会いたくない男が缶のコーラを手に持って後ろに立っていた。


「バカか、お前。香莉めっちゃ落ち込んでいたぞ。今からでも間に合う、家に帰れ。それに優莉もかなり心配していたぞ」


「う、うるさいわよ!」


 愛莉はしぶしぶコーラを受け取りながらすぐに反論する。

 だけど照麻から見た愛莉はやっぱり元気がなかった。


「だろうな。俺にも妹がいるんだけどさ、兄妹の縁ってそんなに簡単に崩れるものかな」


「何が言いたいの? 後さりげなく隣に座るな!」


 身体と身体が密着しそうになったことで、愛莉が慌てて距離を開けて座り直す。


「別に。ただそう思っただけだ。後これ」


 照麻は財布から千円札を一枚取り出して愛莉に渡す。


「これでお菓子でも買って。それから香莉に謝れ。そうすればきっと仲直りできる」


「そんなの――」


「できるよ。もし出来なかったら俺が明日香莉に頭を下げて愛莉を許してもらえるように頼んでやるよ」


 そう言って照麻は立ち上がり鞄を持って立ち去っていた。

 夜の暗闇が照麻の姿をどんどん見えなくしていく。

 愛莉はそんな照麻の背中を黙って見送った。


「アイツ……なんで私の為に……」


 愛莉は受け取ったコーラをその場で飲み、気持ちを落ち着かせる。

 そして千円を片手にコンビニへ寄って家に帰る事にした。

 その時の愛莉の表情はちょっとだけ嬉しそうだった。

 理由はともあれこれで香莉と仲直り出来ると思ったからだ。

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