勇者は「最強」の定義を考える。

くるとん

第一章 序章

001 勇者、誕生する。

恐怖のモンスターが跳梁跋扈ちょうりょうばっこするこの世界。人々は最凶の敵テラーによって追い詰められていた。


「とうとう生まれたぞ!」


村人の拍手喝采に迎えられ、赤ちゃんのお披露目がされる。母親の手に大切に抱かれている男の子。その右腕には、王冠のようなあざがある。


「素晴らしい!これほどくっきりとした王冠は初めてだ!」


「これは最強の勇者誕生かもしれん。」


そう。このあざは、勇者の証だ。この世界がテラーの侵攻を許している大きな理由に、長年にわたる勇者の不在がある。過去1000年近くを振り返っても、異常事態だった。本来ならば30年程度の周期で腕にあざのある者が生まれ、その者には勇者としての力が備わる。勇者は冒険を続け、テラーを弱体化させる。そんな歴史が繰り返されてきた。


「とうとう我々がテラーを倒す日が訪れるかもしれんぞ!」


村人たちの喜びは計り知れないものがある。テラーは非常に強力な敵で、過去1000年にわたって悪の世界に君臨している。そのあまりの力ゆえ、過去の勇者は弱体化させることを主な目的としてきたのだった。


しかし、ここ50年に及ぶ勇者の不在により、テラーは本来の力を取り戻してしまったのだ。これがこの世界に恐怖と混乱をもたらすことになっている。


「王様!バナナの村で勇者が生まれたとの報告がありました。」


連絡所から飛び出した国防軍の総参謀は、喜びのあまり礼儀も忘れて、王様の寝所に飛び込む。


「何事じゃ!朝から騒々しいぞ!」


王様は目をゆっくりと見開く。


「今、なんと申した?」


「ですから、勇者が、勇者が誕生したのです!」


王様も総参謀も立場を忘れての狂喜乱舞であった。現国王のジャスティス2世は、勇者だった男である。理由は皆目見当もつかないが、20歳を迎えるころに、右腕にあったはずの王冠が消えてしまった。これがこの国の悪夢の始まりだった。


「すぐに馬車を用意せよ!すぐに謁見に向かう。」


この国では、国王よりも勇者の方が上の立場にある。もっとも儀礼的なものであり、政治的権力などは国王が一元的に有している。


「やっとじゃ、やっとこの国にも平和が訪れるのじゃ!」


王都ではすぐにお祝いの飾りつけが始まった。国中の人たちの耳に吉報が伝えられるまで、時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る