第68話 提議
「どーよ、ヴァイスきゅん。あたしの見立て、ばっちりじゃない?」
「まぁそうだな」
薄汚い腰の剣が全てを台無しにしている点を除けばだが。
俺が端的に返す間に、エルニアはフェーレスの前へと移動して食って掛かった。
「フェーレスさん!! 服の貸し出しはありがたいのですが、この露出はあんまりでしょう!?」
エルニアが恨みがましい目を向けるが、フェーレスの面の皮はそんな事では破れない。
「おはよーエルにゃん。騒がない騒がない、似合ってるってば。ヴァイスきゅんのお墨付きも出たじゃない?」
「そ、それは嬉しいですが、話が別です! こういった服は着慣れていないので、裸よりも恥ずかしいんですよ!」
即座に言い返すエルニアの言葉に、フェーレスは噴き出した。
「ぷーくすくす。ニーソまでばっちり履いといてよく言うわ~。実はこういうの興味あるんでしょ?」
「ぇぅ……そ、それは、人並みにはありますが……実際に着るのは
指摘されて一瞬エルニアの気勢が緩んだところへ、きらりと目を光らせるフェーレス。
「んっふっふ。それなら余計にほっとけないわね。あたしがお洒落ってもんを叩き込んであげる」
フェーレスは破顔しながらエルニアの肩を叩く。
「いやー、アンバーもセレネも、いっつも一張羅で代わり映えしなかったからさぁ。着せ替えし甲斐のある可愛い子が加入してくれて、お姉さん嬉しいわ~」
「き、着せ替えなんてとんでもない! それより、もっと普通の服はないんですか!?」
エルニアは問うも、脳内で試着をさせ始めたフェーレスは全く聞く耳を持たない。
「次はあーしてこーして……あ~、でもまずは処理しないとか。エルにゃん手入れサボりすぎ。減点1」
「何の!? 何で今減点されたんですか私!! ちょっと、こっち向いて下さいってば!!」
いきり立つエルニアを宥めようと、俺は軽い調子で声をかけた。
「一応言っとくが、それでもフェーレスのチョイスにしちゃあ、控えめな方だぞ」
「これでですか!?」
ともすれば中身が見えそうな丈のスカートの端を抑えつつ、困惑するエルニア。
ふむ。確か下着も破れたと言っていたが、あの中はどうなっているのか。ノーブラということは、まさか下もか?
俺がそんな些細な事を思いながら食事を再開する横で、
「お洒落着姿で照れてるようじゃ、冒険者なんかやっていけないわよ。見られてなんぼの仕事なんだから」
やれやれとばかりにフェーレスが先輩風を吹かすのに対し、
「それにも限度があるでしょう!?」
そうエルニアは反抗した。
双方の意見はもっともだ。
冒険者は仕事が大きくなる程注目を浴びる。Sランク以上ともなれば、舐められない為にも多少の見栄えは必要だ。
ただエルニアの言うように、フェーレスの派手さは行き過ぎではある。
まあ着衣に関しては各自のセンスの問題だ。大抵水掛け論にしかならないが。
「……ふぁ……朝から騒々しいですわね……」
フェーレスとエルニアがやり合っているところへ、起き抜けのセレネがあくびを手で隠しつつ、のそのそと現れた。
どうやらこの喧噪で嫌々目を覚ましたらしい。寝癖もそのままでだらしがないにも程があるが、今日に限っては良いタイミングだ。
セレネに気を取られて二人の言い合いが途切れた合間に、俺は声を上げた。
「揃ったか。しょうもねぇ口論はそこまでにして、さっさと席に着きな。今後の方針を話すぞ」
セレネがふらつきながら着席すると、フェーレスもエルニアをかわしてそれに続く。
エルニアはまだ言い足りなさそうだったが、俺達4人の視線を受ける事で大人しく従った。
全員で食卓を囲み、食事を始めるのを確認し、俺は現状をエルニアとも共有するべく話し始めた。
リッチとの対決の果てに、この姿になってしまった事。それを秘密にしていた理由。
原因に錬金術が絡んでいるらしき事。
そしてその手がかりを得る為に遺跡を探索する必要がある事等だ。
それらを聞くエルニアは、吟遊詩人の英雄譚を聞く少女のように、一喜一憂な反応を見せた。
「……本当に、かのヴェリス殿なのですね」
聞き終えてから、ようやくにして吐き出した感想がそれだった。
「言われても信じられないわよね~。あたしらもそうだったし」
チーズを好みの大きさに切り分けていたフェーレスが軽く応じる。
「美少年になったのはいいけど、代わりに処刑を押し付けられてめんどいったらないのよね」
「勇者殿の庇護を忘れ、好き放題を始める輩が増えているのは事実。真にもって度し難し」
アンバーが兜の隙間へ運んでいたスプーンを止めて憤然と頷いた。
「ひとまずの問題がそれだ」
俺は言いながらデザートのリンゴを手に取った。
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