第54話 駆ける黒風
闇を押し退けるような怒涛の勢いで、黒銀の鉄塊が疾走する。
「ふぉおおおおおおおおおおおお!!」
と、遺跡中へ雄々しい
俺はその背のリュックへ跨って、馬の尻に鞭を打つが如く、アンバーの後頭部へとげしげしと蹴りを入れていた。
「おらおらおら!! もっとだ! もっと飛ばせ!! まだ奴の姿が全く見えねぇぞ! さっさと追いつきやがれ! それともこの程度じゃまだ足りねぇってのか、このドMが!!」
ガキィンッ!!
と、大サービスとばかりに、俺は目前の兜の脳天目掛けて短剣の鞘を叩き付けてやった。
「んふぉおおおおう!?」
アンバーは身震いしつつも快楽を燃料として、ガシャンガシャンと床を蹴る速度を上げた。
日頃の鈍重さが嘘のようなフットワークである。
叫び声は多少うるさいが、乗り心地はなかなか悪くない。
こいつの性癖がこんな形で役に立つとは思わなかった。変態とハサミは使いようか。
アンバーの足が降ろされる度、ぐちゃりぐちゅりと異形の残骸を踏み潰す音と共に床が陥没していく。
なるべく遺跡に傷は付けたくはなかったが、この際構っていられるものか。
そもそも先行したエルニアが大暴れしたせいで、通り過ぎる床から壁から天井まで、既に大小様々な斬撃痕が刻まれているのだ。今更多少の穴が増えようが変わるまい。
この程度の被害で崩壊するような、やわな遺跡ではなかった事が救いだ。
行く手には再出現した異形どもが群がり始め、散発的な襲撃を受けている。
しかし今のアンバーの正面に立つなど、ただの自殺行為でしかない。
文字通り眼中になくそのまま突進し、襲い来る異形をトマトでも破裂させるかのように、あっさりと飛散させて行く様はなかなかに爽快だ。
まあ、その度に背中にいる俺へと血の雨がどばどばと降り注いで来る訳だが。
「……仮面にしといて大正解だったぜ」
「可愛いお顔が、汚い血でびっしゃびしゃになるのは勘弁だしねー。その点だけは同意しといてあげるわ」
フードを深くかぶり直して思わず呟く俺に反応し、平然と壁へと垂直に立ったままで走るフェーレスが頷いている。
「……なんだ、その愉快な移動法は」
「あー、これ? 先週ヴァイスきゅんの代わりに処刑したニンジャマスター? とか言う東方風のレンジャーがこんな動きしてたからさ。真似してみたらできちゃった」
「相変わらずふざけた器用さだな……っつーか、なんだそいつ。そんな面白そうな相手なら、俺も見に行きゃよかった」
「いやー? 動きは変わってたけど、ただの雑魚だったわよ。こんな感じで一瞬で終わったし」
俺と会話を和やかに交わしつつ、フェーレスは視線を前方へと向けた。
その先にいた異形が、飛び掛かろうとした刹那。
膝を曲げた姿勢のままで全身からぶしゅりと血を噴き出し、サイコロのような肉片となってばらけて行った。
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