第46話 仕切り直し
「フェーレスさんも言ってたでしょう? 貴女と同類だって」
「……え……?」
エルニアも視線を向けた先には、にやにやとしたフェーレス、呆れ顔のセレネ、肩を竦めるアンバーの姿がある。
「SSランクの皆さんは、ヴェリス叔父さんを除いて、性癖と人格の破綻した人ばかりです。情緒不安定なロリコンが一人増えようが、もう構いやしませんよ」
溜め息混じりに言う俺へ、返す言葉が出ないエルニア。
(しれっと自分を除外したわよあいつ。人格破綻者筆頭の癖に)
(最早流石と言う他にない面の皮ですわね)
それを他所に、こそこそと声を潜めているつもりの馬鹿二人の声が耳に届く。
俺が睨みを利かせると素知らぬ顔でそっぽを向いた。
幸い、呆気に取られている様子のエルニアには聞こえなかったようだ。
「だから言ったろうに。あんたの素性や中身がどうだろうが、こいつらは気にする玉じゃないってね」
グレイラがやれやれとばかりに首を振りながら、絶句しているエルニアへ声をかける。
「これだけ派手に部屋を汚しといて、勝手に死なれちゃいい迷惑だ。茶番は終いにして、さっさと試験でも何でもして話を進めちまいな。その後できっちり掃除して貰うからね」
「は、はぁ……」
完全に飽きが来ているグレイラが投げやりに言うのに対し、エルニアは気の抜けた返事をした。
「良いですかエルニアさん。この街では力が全て。今のを失態だと思うなら、それを帳消しにするだけの実力を示して下さい。そうすれば誰も文句は言いません」
新しいタオルを差し出しながらかけた俺の言葉に、はっとした表情で姿勢を正すエルニア。
「──ありがとうございます。挽回の機会を……頂けるのですね?」
受け取ったタオルで涙と血に塗れた顔を拭うと、エルニアは床に落ちた剣を拾い上げ、その顔に
よし。やる気を取り戻したのなら上等だ。
「はい。良いですね、フェーレスさん?」
俺は満足しながら頷くと、改めて試験官を指名した。
「りょーかい。あたしもその子のぶっ飛びっぷりは気に入っちゃったしね。それに、ロリコンだってんならヴァイスきゅんの取り合いにはならないだろうし」
フェーレスがくつくつと含み笑いを漏らしながら、部屋の中央へと歩き出す。
「ジャンルは違えど、尊い物を愛でる点では同好の士ってものよ。意地悪はなしで、ちゃーんと試してあげるわ」
ふん、自分は愛でるだけで終わらない癖に良く言うぜ。
「ほら、こっちおいでよ。広いとこで思いっきりやろうじゃない」
フェーレスは顔だけ振り返り、エルニアを
「……はい!」
エルニアも力強く頷き返し後を追う。
二人が対峙して準備運動をする間に、俺はフェーレスへと近付き小声で告げた。
「……分かってるな? 本気で潰すんじゃねぇぞ。あくまで最低限の力が有るかを見れりゃ良いんだ」
「はーいはい、大丈夫だって。真面目にやるからさ」
そういつものお気楽な声が返って来るが、目には本気の光が灯って見える。これなら心配ないか。
俺は二人から距離を取り、双方から等間隔の場所へ立つ。
二人の準備が整った頃合いを見て、真面目な声を発した。
「では試験内容を説明します。今からフェーレスさんが攻撃をしますので、それらを全て
「それだけで良いのですか? 試合ではなく?」
拍子抜けしたようなエルニアに、俺は補足するように返答する。
「ええ。今求めているのは、単体への技量ではなく、集団戦を制する突破力です。フェーレスさんには遺跡の現状を再現した動きをして貰いますので、それに対抗できれば合格とします」
そもそもこと対人戦において俺以外に敵なしのフェーレスが相手では、まともな試合にはなるまい。
最低でも俺の護衛が務まるだけの力があれば、俺の指揮の元で他の三人を動かす事ができる。それで十分だ。
「了解しました」
エルニアは噛み締めるように深く頷くと、剣を両手で握り、正面へと構えた。
途端に怜悧な刃の如く緊張感が場を凍て付かせる。
ついさっきまでぎゃぁぎゃぁ騒いでいた小娘とはまるで別人だ。
「フェーレス殿は、武器を持たれないのですか?」
見た目には丸腰なフェーレスを不思議に思ったのだろう。そう尋ねるのに、フェーレスはにまりと笑って見せる。
「まあ始まってからのお楽しみ。そんな事気にするよりも、集中集中~。あたしを舐めると死んじゃうよ?」
パンパンと手を叩くと、俺へと視線を送るフェーレス。
俺は頷き返し、エルニアの意識も戦闘モードに切り替わったのを確認する。
「それでは存分に貴女の力を振るって下さい。採用試験……始め!!」
俺が手を振り下ろすと同時に、構えすら取っていないフェーレスの右手首から先がゆらりと霞む。
対したエルニアの持つ剣先がぴくりと動き、次の瞬間、複数の金属音が部屋に鳴り響いた。
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