第43話 異議
手の平をかざして場を制止したフェーレスは、次いで人差し指を俺にびしりと突き付けてきた。
「しばらく慎重に動くって言ってた割には、とんとん話を進め過ぎじゃない? まだ実力の程を見せて貰ってもいないのに」
その言葉にグレイラが片眉を吊り上げる。
「聞き捨てならないね。私の目を疑うってのかい?」
「そこまでは言わないけどさ。実際現場で背中を預け合うのはあたし達なんだし、まずは直に見ておきたいじゃない?」
珍しくフェーレスがまともな事を……!
「私も賛成ですわ~。何しろヴェリス様の代役と言う栄えあるポジションをお任せするのですから。それに足る力を示して頂かなくては」
セレネもフェーレスの隣に並んで同意を示した。
「ふむ。お二人の言にも一理ありますな。エルニア殿、腕試しへ応じて頂く事はできましょうや?」
二人の意見を受けたアンバーもそちらへ傾いていく。
「はい。戦への心構えは常に整っています。請われるならば、今、ここでも」
SSランク3名の圧を受けて緊張感を取り戻したのか、出血の止まったエルニアが剣の鞘を軽く握って見せた。
「ふん。ま、そう言い出す可能性も考慮してこの広い部屋を選んだんだがね。やるなら好きにしな」
「さっすがギルド長。わかってるね~」
グレイラはどうでもよさげに言い捨てるが、フェーレスは喜色満面だ。
まあ、確かにフェーレスの言っている事は正論ではある。しかし……
「よっし! ではではあたしが直々にお相手しちゃおっかな~」
勢い込んで片方の手の平に拳を打ち付けるフェーレスを見て、俺の胸に一抹の不安が
いつも怠惰なこいつが妙にやる気を出しているのが解せない。
「……フェーレスさん、何でそんなに張り切ってるんですか?」
俺はエルニアに向けて踏み出そうとするフェーレスへ問いかけた。
「ん~? だって可愛い可愛いヴァイスきゅんの安全に関わる人選よ? 慎重にいかないとさぁ」
にやにやと笑みを向けて来るフェーレスへ、俺はにっこりと返しながら追加の言葉を放つ。
「……本音は?」
「ここで落選させとけば、しばらくはまた人材探しで時間食うっしょ! そしたらまだまだヴァイスきゅんで遊べ……あ」
調子良く言葉を並べていた途中で、俺のじとりとした視線に気付くフェーレス。
「しまった、ハメたわね! 極上の笑顔につい釣られちゃったじゃない!」
「そんな事だろうと思った!! このろくでなし選手権お姉さん部門優勝候補!!」
「何それ、褒めてんの? けなしてんの?」
「どう聞けば褒めてるように聞こえるんですか!!」
クソが! とても敬語じゃ罵倒し切れねぇ!
「あ、あの、何がどういう事なんでしょう……?」
「
俺とフェーレスの応酬を見て、おろおろしているエルニアを宥めるアンバーの姿が横目に映った。
「そう、あんたもあんたよ! あたしのヴァイスきゅんにがっつり色目使っちゃってさぁ!」
フェーレスの矛先がそのエルニアへも向かう。
「えぇ!?」
突然槍玉に挙げられたエルニアが困惑した声をあげる。
「フェーレスさん、何て言いがかりを! あと僕は誰の物でもない!」
「ええ、そうですとも。ヴァイス様はパーティ全体の共有物でしてよ。独占は許しませんわ」
俺が制しようとするも、片手で押し退けエルニアに詰め寄るフェーレス。後ろからセレネの戯言が聞こえるが無視した。
「いーや! あたしには分かる! この小娘の心が手に取るようにね!」
自分と5歳も離れていないだろうに小娘呼ばわりか。
呆れ果てた俺を尻目に、次にフェーレスが放った言葉はとんでもない爆弾だった。
「あんたさぁ……この子に惚れたっしょ?」
「はぁ!?」
俺はエルニアよりも先に叫んでしまった。
「フェーレス! ……さん! 流石に失礼が過ぎます!
思わず地で怒鳴り付けそうになるのを堪え、二人の間に割り入ってフェーレスを睨み付ける。
せっかく見付かった貴重な戦力を、こんな下らない事で逃がしてたまるかってんだ!
「ふーん、アレ見ても戯言なんて言えるかしら~?」
その視線を物ともせずに、余裕しゃくしゃくのフェーレスが俺の後ろを指し示す。
釣られてそちらを見やると、口を引き結んだままに顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えているエルニアの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます