第41話 顔合わせ
会議室のドアをノックすると、返事も待たずにドアを開けたグレイラは先陣を切って中に入って行った。
「待たせたね。依頼人を連れて来たよ」
そう部屋の奥へと声をかけるグレイラに続き、俺達も会議室へと入る。
ギルド本部で最も広い会議室であるここは、余程の大事や式典でもない限りはほとんど使用されない。
その為普段はテーブルや椅子は脇へと片付けられており、ちょっとした体育館程はあるだだっ広い空間が広がっている。
掃除こそされてはいるが、なんとも殺風景な場所だ。
そんな味気ない空間の片隅に、ちょこんと一人の人物が椅子に腰かけているのが見えた。
「何だい、そんな端っこで小さくなって。ほらこっちにおいで。挨拶するんだよ」
グレイラが呼び付けると、その人物はすっと立ち上がり、きびきびとした動きでこちらへ向かって来た。
遠目に見ても実力の程を窺わせる身の運びである。武器を抜いていなくとも隙が見当たらない。
徐々に近付くにつれ、その容姿がはっきり見て取れるようになる。
若い女だ。
間違いなく美貌と断言しても良い。
透明感のある青い瞳で前を真っ直ぐに見据え、口元をしっかりと引き締めたその表情は、仄かな緊張と共に凛とした空気を
フェーレスよりも白みがかった、プラチナブロンドとでも呼べるきらきらとした長い金髪を高い位置に結い、それを揺らしながら颯爽と歩む姿はなんと絵になる事か。
新調したばかりと見える革鎧と脛当てを纏い、腰には使い込まれた鞘に収まった長剣を差していた。
「──お初にお目にかかります、SSランクの皆様」
俺達の前にやってきた女剣士は、胸に手を当てて深々と一礼して見せた。
「我が名はエルー……あ、いえ、エルニアと申します」
女剣士は言葉を途中で飲み込み、咄嗟に言い直す。
早速にも嘘が付けないタイプだと自ら露呈した。偽名である事は明らかだ。
まあ、訳ありの者が多いこの街では珍しくもないが。
「かの御高名な冒険者ヴェリス殿のパーティとお会いでき、誠に光栄に存じます。そちらの立派な鎧姿の方がヴェリス殿でしょうか?」
アンバーを見ながら尋ねて来るエルニア。
「いいえ、とんでもない。拙僧は勇者殿の一従者に過ぎぬ、アンバーレイトスと申す者。アンバーで結構にて、以後お見知りおきを」
「それは失礼致しました、アンバー殿」
手を振って否定するアンバーへ軽く頭を下げると、エルニアは次にフェーレスとセレネへ目をやった。
「それではそちらの方々のどちらかなのですか? ヴェリス殿が女性だと伺った事はありませんが……」
「あー違う違う。あんな人間辞めた奴と一緒にしないでくれる?」
「あの神像にも等しい至高の筋肉をお持ちの御方と混同されるなど、畏れ多いにも程がありますわ」
「そ、そうですか」
それぞれが悪口と誉め言葉を口にするのに面食らった様子のエルニア。
「はて……それではヴェリス殿はいらっしゃらないのですか? お会い出来る事を楽しみにしていたのですが」
残念そうに、長いまつ毛を軽く伏せている。
む、グレイラめ。俺の代わりに前衛を任せるという点を説明していないのか。
「……はい。ヴェリス叔父さんは今忙しいので、甥の僕が名代として来ました」
俺が一歩踏み出してそう答えると、エルニアは僅かにびくりと震えて目を丸くした。
どうやらアンバーが陰になって、俺の姿が見えていなかったらしい。
「な、な……」
何故か俺を凝視したまま固まるエルニア。
ああ、子供がSSランクパーティに混ざっているのを奇妙に思ったのか。
「詳しいお話はこれからしますが、お姉さんに頼みたいのはとある遺跡の探索への同行、及び僕の護衛です。宜しくお願いしますね!」
こういう時は第一印象が肝要だ。俺は好感触を得るべくはきはきと話し、最後に飛びっきりの笑顔を振る舞った。
その直後。
ブシャアアアア!
と、エルニアは大量の鼻血を噴き出しながら引っくり返って行った。
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