第22話 やられたらやり返す
俺は二人をごろりと蹴り転がすと、フェーレスの背中が上に来るように態勢を整えた。
「まずはお前からマッサージの礼をしてやる。たっぷりとな!」
言いながら、小瓶の中身をフェーレスの小麦色の肌へとぶちまける。
「──ひゃああああん!!」
ただそれだけで、フェーレスは背筋を反らして情けない声を上げた。
「おいおい、まだ何もしてねぇぞ。そんな調子でどうする」
にやつきながら薄手のゴム手袋をはめると、ロープの隙間越しにその背中へ指を添わせ、背骨の上をすすっと撫でる。
「くぅんっ……!」
普段飄々としたフェーレスが、その端正な顔を羞恥に歪めて悶える様を見て、俺の
「くっくっく。おら、我慢すんな。力を抜け。嫌って程揉み
言葉で煽りながらも、指先はあくまで優しく丁寧に、オイルを満遍なく伸ばしながら撫でる範囲を広げていく。
「ふっ……んんん……!」
鼻にかかった声を漏らし、懸命に耐えるフェーレスだが、俺の指が動く度にびくびくと背中を震えさせている。
「ふふん、どうした? これはただのマッサージだぞ。誤解されるような声出してんじゃねぇよ」
「……こんの、調子乗って……ふぁああん!?」
フェーレスは何事か反論しようとするも、肩甲骨の内側をくるりと円を描くように刺激しただけで悲鳴に変わった。
「あっ! ちょっ、それやばいって!」
「ああん? 何がどうやばいんだ?」
俺はとぼけた振りをしつつ手を止めない。強過ぎず、弱過ぎず、一定のリズムでオイルを塗り込んでいく。
「あっ、あっ、ダメダメダメ! やばいやばい、やばいってば!」
その後も「やばい」を連呼しつつ必死に何かを堪えるフェーレス。
しばしの間生殺しを続けた後、頃合いを見て俺は触れていた指を一度離した。
「ふぇ……?」
突然解放されたフェーレスが、不思議そうにしながら一呼吸付こうとした瞬間。
「十分温まったな。そろそろ本番と行くか」
俺は口元を歪ませながら両手の五指を開き、手の平全体をフェーレスの背中へべたりと吸い付かせた。
「あぅ──」
そしてフェーレスが海老反りになるのも構わず、絶妙な力加減でもって腰回りを揉み込みながら手を縦横に滑らせる。
「あ……あ……くぅ……ふっ……!」
今まで敢えて加えなかった緩急を受け、最早言葉にならない声を途切れ途切れに発するだけとなったフェーレス。その顔は蕩けに蕩け切っている。
「ふぅぅっ……んぁ──!!」
やがて昇り詰めたのか、手足をピンと突っ張って大きく痙攣した。
「……フェ、フェーレス、さん……?」
目の前でその痴態をまざまざと見せ付けられたセレネも、
「よーく見とけよ。次はてめぇの番だ。楽しみにしてやがれ」
俺はセレネへ一瞥をくれると、未だ痙攣を続けるフェーレスへのマッサージを続行した。
「ひゃっ! ちょ、待って! 今はマジでダメだって!」
ぐったりとしていたフェーレスが異変に気付き、こちらへ首を曲げて抗議を寄越す。
「遠慮すんな。とことんまで付き合ってやるからよ。そのだらしねぇ面をもっとセレネに見せて、や! り! な!」
「あっ! あっ! ああああ~!!」
俺が手を押し込むリズムに合わせ、フェーレスの鳴き声が廊下に響き渡った。
小一時間程は経っただろうか。
完全に気をやり、虚ろな目をして無反応になったフェーレスから手を離すと、俺はセレネに笑いかけた。
「待たせて悪かったなセレネ。詫びと言っちゃなんだが、フェーレスよりもっと気合入れて愉しませてやるからよ」
「あ……あ……」
セレネは唇を震わせこちらを見詰めている。
その表情は既に不安よりも期待が勝っており、涎を垂らさんばかりに緩んでいた。
「そんな顔すんなよ。余計に張り切っちまうだろうが」
俺はフェーレスとセレネの態勢を入れ替えると、再び小瓶を手に取って口の端を吊り上げた。
その後、セレネを散々焦らしに焦らして出来上がった所をそのまま放置してやる事で、俺のささやかな復讐は成就した。
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