【悲報】転落しても追放されずに済んだが、パーティメンバーがヤベー奴ばかりだと気付いた件

スズヤ ケイ

第一部 監獄都市 アドベース編

序章 いつも通りの仕事のはずだった

第1話 いつも通りの仕事のはずだった

 暗く長い、石造りの大回廊を進む。



 どこからか微かに風鳴りがする。


 換気孔があるのだろう。地下にしては空気が淀んでいなかった。


 腐敗臭は漂っているが、この程度を我慢できなければこの仕事は務まらない。

 酸素の心配が無いだけましな方だ。


 歩いているのは、神殿めいた立派な作りの遺跡である。


 保存状態はかなり良く、崩落した場所は見受けられない。


 お陰で足元を気にせずに済んでいるが、魔術の光で照らされた範囲以外は漆黒に塗り潰され、道の先は全く見通せない。


 灯りに照らされた壁には、精緻な壁画が延々と描かれていた。


 しかし、それらをじっくりと見ている程の余裕は無い。


 明かりに引き寄せられるかのように、続々と闇の中から異形が飛び掛かって来るからだ。


 その全てを、間合いに入った瞬間に俺は手にした大剣で両断していく。


 血煙を振り撒きながら崩れる異形の向こうから、間を置かずに後続の群れが現れる。


 俺は即座に腰溜めに構え直し、横薙ぎの一閃で余さず水平に断ち割った。


 軽く大剣を一振りして刀身に付いた体液を振り払うと、次の獲物へと目を向ける。


 既に何体斬ったのかは覚えていない。


 この遺跡の入り口を開いた時点で、数えるのも馬鹿らしくなる程の異形がひしめいていたのだ。


 一口に異形と言ったが、他に形容する言葉が見つからない。

 今まで見た事も無い怪物ばかりだったからだ。


 一つとして同じ姿の者はいない……とは言い切れないか。

 細かく観察する間も無く次々と襲われ、さっさと斬り捨てたのだから。


 この瞬間にも、大きく跳躍して向かって来た巨躯を、下から掬い上げるようにしてぶった斬った所だ。


 左右に別れながら床に墜落したその外観をざっと説明するなら、頭を巨大な蛙に取り替えた人食い鬼オーガの巨体に、至る所から様々な動物の頭や手足が生えているといった斬新なデザインだ。


 そのパーツの中には、人間であろうと思われる部位も含まれている。


 俗に言う、合成獣キメラの一種という認識で良いだろう。


「まったく、良い趣味してるじゃねぇか。人体実験してるって話もガセじゃなさそうだな」


 新たに飛び出してきた複数の異形をまとめて斬り飛ばしながら、俺はのんびりとそう口にした。


 犠牲者は気の毒だとは思うが、ほふる事には何の感慨もいだかない。向かって来るなら倒すだけだ。


 命を奪う罪悪感など、とうに忘れている。そうでなければさっさと廃業していただろう。


「どんだけやらかしてんのって話よ。あんたがいなきゃ、この数は突破すんの無理でしょ」


 そう言い返してきたのは、俺の後ろで左右の警戒をしているレンジャーのフェーレスだ。


 彼女はレンジャーらしく軽装……を通り越してほぼビキニのような皮鎧を着ており、街ですれ違った男全員が二度見する程の肉感的な身体を、惜しげもなく晒している。


 露出癖さえ目を瞑れば有能で、探索と対人戦闘のプロだが、敵は全て俺が瞬殺しているせいで手持無沙汰な様子だ。


 大量の番犬がうろついている場所に罠を仕掛けるはずもなく、今の所彼女の出番はほとんど無い。


 振り向くと、金色に光る眼だけは油断なく辺りを窺っているが、同じく黄金の前髪をつまらなそうに指でくるくるといじっている所だった。


「流石はヴェリス様、と言った所ですわね。これならわたくしの出る幕は無さそうですし、存分に貴方の上腕二頭筋の躍動に見惚れていられるというもの」


 そのすぐ後ろから声を投げて来るのは、魔術師のセレネだ。


 周囲を照らす光源の魔術を展開しているのが彼女だった。


 フェーレスとは真逆に黒いローブで全身を包み、顔と手以外の肌を一切見せていない。一見すれば黒髪の清純派美女である。


 ただし極度の筋肉フェチで、俺の肉体美に惚れたと言って、無理矢理パーティに入って来た筋金入りの変態だ。


 今もむき出しの俺の腕を、その黒い瞳でうっとりと見詰めている。


 難儀な性癖だが、それを補って余りある強大な魔力を持つ。


 並の魔術師ならば周囲10mも照らせば良い方だが、幅30mは有るだろう大回廊の左右の壁、そして天井までをも、たった一つの光源で煌々と照らし出しているのだ。


 お陰で大量の異形共の奇襲を受けずに、悠々と対処する事が出来ている。


 もちろん、俺の剣の腕があってこそではあるが。


「さもありなん。この程度の者達で、勇者殿の歩みを止められましょうか」


 中衛の二人の頭越しに、最後尾を歩く巨人から声が届く。


 その背丈は常人の1,5倍程はあり、全身を黒銀の板金鎧で覆っている。


 どう見ても騎士然とした恰好だが、実際は神官である。


「犠牲者への弔いは拙僧が承ります。勇者殿は思うように進まれますよう」


 一礼しながら聞こえてくる声は、フルフェイスの兜のせいでくぐもっている。


 その声に、俺は片手を上げて応えて見せた。


 こいつは戦の神を信奉しており、勇者の道行きを助けるのが教義に適うとして、俺の従者を名乗っている。


 名はアンバーレイトス。通称アンバーだ。


 見た目通りの怪力を誇り、通り過ぎた左右の通路から再出現する異形どもを、手にした巨大なメイスで無造作に叩き潰している。


 安心して殿しんがりに置ける頼れる奴だ。


「実際に見て納得ねー。こりゃあたしらにお鉢が回って来る訳だわ。Aランク以下じゃ入り口で全滅じゃないの?」

「情報収集はSランクのパーティがしたようですけれど、それでも被害は大きかったと聞きましたわ」

「元々いたのか、標的が後から増やしたかはわからんが、並の戦士じゃ手こずるだろうな」


 間断なくわらわらと沸いて出る異形を、話の片手間に斬り伏せながら俺達は進む。


「あんたが相手すると全部雑魚に見えるんだけど。割とやばめ?」

「まあ、俺にとっちゃ確かに雑魚だが。そうだな……でかいし速さもそこそこある。A寄りのBランクってとこか。3匹もいれば村一つくらいは壊滅させるだろ」

「それはそれは。門は閉じて正解でしたわね」


 入り口の群れを掃討した後、外に出る奴がないように再び塞いでおいたのだ。


 帰りはセレネに帰還の術を行使して貰えば良い。


「世界征服が目的、とか言ってばら撒かれたら面倒だったわね。あ、いや、そっちの方があたしらの名を更に売るには派手で良かった?」

「不謹慎ですぞ、フェーレス殿」


 アンバーに窘められ、フェーレスがひょいと肩を竦めて見せた。



 近隣の村々から人をさらっていると言う、邪悪な魔術師の討伐。

 それが今回俺達4人が請け負った依頼だ。



 ああ、自己紹介がまだだったか。


 俺の名はヴェリス。職業は戦士。SSランクの冒険者をしている。

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