いつも変わらない———そう言って君と指切りをした。

R.

第1話 - 初恋

「俺と、、、付き合ってください!」




それまで一度たりとも晴れ間を見せることがなかった梅雨空が明けて、少しずつ蝉の鳴き声が聞こえ始めてきた、7月のある日。




気づけばこれで7回目の告白になる——と、祥平は思った。




高校の入学式で一目惚れをし、

人生で初めて、

彼は恋に落ちるという感覚を知った。




以降、事あるごとに想いを伝えてきた彼だが、今回の告白を最後に、この片想いに終わりを告げようと考えていた。




そんな片想いの相手の名は、

由希(ゆき)という。




由希は、一般的な高校生でありながら読者モデルとして、しばしば若者向け雑誌に取り上げられるようなルックスであり、また人柄においても老若男女を問わず誰からも好かれるような明るくて素直な性格で、彼女のことが嫌いだという者は一人としていない。




一般的に、これだけ非の打ち所のない人間であれば、逆に嫉妬や憎悪といった負の感情を抱き、陰口を叩く輩が2、3人いても不自然ではない。




しかし、由希の場合はそういった類の批判に晒されることもなく、ただただ明るくて可愛い、学年の人気ランキングでも上位5本の指に入るような存在であった。




一方の祥平はというと、モテない男ではない。

高校に入学するまで恋人ができたことは無かったものの、中学では近畿大会ベスト4の野球部主将を務めるほどの優れた身体能力と、短髪で爽やかなルックスは下級生を中心に人気を博していた。




彼がなぜ同学年ではなく、下級生からの支持を集めていたかは定かではないが、吹奏楽部の女子を中心に、ファンクラブなる団体まで構成されていたほどである。

バレンタインデーには、伝えたいメッセージの意味を問わず、チョコレートを15個受け取った年もあった。




今まで恋心を寄せられることはあっても、自分から〝好き〟という感情すら抱いたことがなかった祥平にとって、目が合って1秒で恋に落ちた——由希との出逢いは衝撃であった。




祥平の言葉から5秒ほどの静寂があり、由希は何か悪いことをしたような暗い面持ちで口を開いた。




「...ごめんなさい。彼氏が...いるから...。」




知っていた———



祥平は無論、このことを知っている。

由希には高1の夏から付き合って、来週にも1年記念日を迎える彼氏がいることを。




祥平らが1年生の頃、オーストラリアのリートンという市街地から外れた村の高校へ「交換留学」という建て付けで、短期のホームステイプロジェクトが企画されていた。




祥平は、英語を勉強したいとか、海外に行ってみたいといった願望が特段強いわけではなかった。

しかし、両親がオーストラリアで出逢ったというエピソードを聞かされてから、

「自分のルーツは異国の地にあるのか」というどこか特別な想いを寄せていた。




そんな感情も相まってオーストラリアへの短期留学を決めたのだが、1学年320人から成る生徒数の中から、16人にしか参加権が与えられないという過酷な選考がスタートした。




希望者は約60名おり、すでに英語が堪能な者もおれば、語学習得に興味がない祥平のような者まで様々だった。




選考はおおよそ応募締切から1ヶ月程度で行われ、特に基礎学力だとか、性別だとかで選定されるものではなく、参加希望者は週に1度、担任の先生との個別面談を経て、基礎的なコミュニケーション能力に問題がないか、提携先の高校で世話を焼かないかなど人間性の部分で評価されるような内容であった。




選考の結果、

祥平は無事16名に名を連ねることができたこともあり胸を撫で下ろした。




しかしその中には彼が一目惚れし、




まだ一度も会話したことがなかった由希がいた。

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