2.じかく


眠れない‥

何で目を閉じると相沢の笑顔が浮かぶんだよ。



あいつはブスと言われているらしいが

‥‥‥‥可愛くないか?



ん?は?可愛い?相沢が?

いや‥‥可愛いな。



待て、よく考えろ。可愛いか?

‥‥やっぱり可愛いな。



駄目だ‥全く眠れる気がしない。


相沢の笑顔が頭にこびりついて離れない。






完全に寝不足だ。

全然眠れずにかなり早く学校に来てしまった。

重い足取りで教室へと向かう

教室に入ってあたりを見渡したが、相沢は‥いないか。

って何探してんだよ俺‥


「はぁ‥」


気分転換に窓から外を見ると、校庭の隅の花壇で水やりをしている女の子が目に入った。

それは昨夜から現在まで、ずっと俺の頭の中にいる女の子‥相沢


相変わらずのボサボサの長い黒髪が風に揺れている。横顔しか見えないが眠たそうな目が少し緩んでいるような気がした。


花壇には色とりどりの花が咲き、朝を告げる陽の光が葉についた水滴と共に輝いて、その光の中にいる相沢がまるでお伽話の妖精のように見えた。



休み時間とか放課後に美化委員なりが世話しているところとかほとんど見ないのに、花壇の花が何故か枯れたりしないなとは思っていたけど


そうか‥相沢が世話をしてたんだな。




授業が始まっても気を抜くと相沢へと目を向けてしまう。

まあ、前にいるので後ろ姿なんだが

隣の席とかだったらどうなってしまったんだろう。




放課後になると相沢は掃除当番らしく掃除へ行った。

俺は今日は掃除当番ではないのだが、何となく気になって相沢のいるはずの校舎裏の区画が見える位置の窓からそっと覗いてみた。



そこでは相沢が一人で掃除をしていた。



「は?何で一人なんだよ」


普通、掃除当番は五人前後で回していたはず。


ほうきで落ちている木の葉やゴミを集めては塵取りに入れ、それを一人でゴミ袋を広げて詰めていく。


大変そうだな‥

そう思った頃には俺の足は無意識に校舎裏に向けて歩き出していた。




校舎裏まで急いで行き、手伝うと声をかけてゴミ袋を持って広げて塵取りから入れやすいようにした。

こっちの方が埃とかで汚れそうだから、俺がこっちでいいだろう。


相沢は2.3秒程だろうか、目をぱちぱちと瞬かせたがそのままほうきを動かし始めた。

無言であり、音といえばザァザァとほうきが地面に擦れる音だけであるが不思議と居心地は悪くなかった。


掃除がひと段落したので


「このゴミ袋は俺がゴミ捨て場に持って行くから、相沢はほうきと塵取り片付けといて」


と声をかけると


「‥青羽君、ありがとう」


とお礼を言われた。

小さな声で『はい』か『いいえ』しか聞いた事が無かったが、鈴を転がすような心地いい声だった。


胸の苦しさと温かさが同時に押し寄せて、息が苦しくなる。


片付けに向かう相沢の背中を見ながらふと昔の事を思いだした。




あれは小学校低学年の頃、クラスの女子に好きだと言われたけどよく分からなかった俺は母さんにそれを相談したんだ。



『好きって言うのはね、頭の中がその人で一杯になって、その人の事を考えると胸が苦しくなったり温かい気持ちになったり、助けたいって思ったり守りたいって思ったり。後はそうね、その人の笑顔が見たいって思ったりね。大丈夫、響もそのうち分かるわよ』



今の今まで忘れていた記憶

でも根幹では覚えていたのかもしれない。




そんな気持ちになった事は無かった

今までは。




俺、相沢の事好きだわ



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