第472話 北の土地まで遊びに行く
「最近はあちこちに遊びに行ってばかりなのだが」
「うんうん、私は楽しいから好きだけどな。今度はどこに行くの?」
カトリナは話が早い。
「この間挨拶にやってきたフォールンいるだろ」
「大きい神様ね!」
「そうそう。あいつが封印されていた土地の守り神になったんだけど、そこに遊びに行こうかと……」
「いいんじゃない? ショートは村だけのショートじゃなくて、世界のショートなんだもん。あちこちに顔を見せに行くのは大事だと思うな。もちろん、一番は私とマドカとシーナを期にしてくれると嬉しいんだけど!」
「そりゃあもちろん! じゃあ、行くか」
そういうことになったのだった。
世界が安定してきて、様々な土地との繋がりが再開されつつある。
この世界は多神教的な世界だが、ユイーツ神信仰というのがそこの中心を通っているので、ある程度どこでも価値観をすり合わせやすいのだ。
この辺りは地球とちょっと違うよな。
流石異世界。
神様が現存していてちょこちょこ現れる世界。
まあ、豊かになってきたらみんなまた、つまらんことで争い始めると思うけど。
今はそうではないので束の間の平和を楽しもう。
うちの一家を引き連れて、北へ移動した。
空から大地を見下ろすと、植生がみるみる変わっていくのが楽しい。
勇者村が赤道に近いくらいのところにあるので、かなり移動したという感じがする。
ビンとガラドン、凄い勢いで移動したんだな……。
「おとたん、またさむーくなるの?」
「寒くなるなー」
「ゆきふるねー! まおゆきだいすきだよー!」
マドカがキャッキャはしゃいでいる。
だがスマンな。
多分、こっちは雪が少ない系の寒冷地だ。
案の定、黒い地面がむき出しになった大地が見えてきた。
針葉樹林と黒い地面。
それしかない。どこまでもそれしかないぞ。
「ゆきないよー?」
「多分雪があんまり降らない土地なんだろうな」
「えー! やだやだやだー!」
マドカがジタバタした。
いつもいい子のマドカがいやいやするのは新鮮だなあ!
なお、シーナもこれを見て真似して、「にゃにゃにゃ!」とか言いながらジタバタした。
顔はニコニコしているので、お姉ちゃんの真似をしただけだな。
うーん、うちの子は可愛いなあ!
「ねえ? シーナも最近はよく踊るんだよー」
カトリナも踊っている。
俺もなんか楽しくなってきたので踊った。
マドカがこれをみてハッとする。
「おとたん、おかたん、ずるいー! まおもおどるの!」
家族四人でダンシング。
そんなことをしながら、北にある村へとやって来たのだった。
多分、人口は三百人くらい。
村に見えるが、これでも一つの国だろう。
木々を組み合わせて作った塀に囲まれており、畑はその外に作られているようだった。
で、畑はほうぼうに柵がこしらえてある。
森からやってくる獣に荒らされないためであろう。
村人たちは野良仕事をしていたのだが、俺たちが空飛ぶ大地に乗ってやって来たので、皆作業をやめてぽかーんと見上げている。
「やあやあ北の大地の諸君。俺はショート。元勇者だ。世界を救った勇者だ」
俺が周囲に響くよう、拡声魔法を用いて挨拶すると、地元の人々はわあわあと騒ぎ出した。
何人かが慌てて村に走っていく。
俺のことを連絡するんだろう。
すぐに武器を持った村人がやってきた。
武装は槍、兜、上からかぶる感じの簡素な鎧。
さっき戻っていった連中が武装しただけである。
300人くらいの国だもんなあ。
「落ち着け落ち着け。この間ここで神様が暴れただろ。で、そいつをちびっことヤギが鎮めただろ」
「そ、その関係者か」
「その師匠だ」
「おおーっ」
村人たちが警戒を解いた。
というか、抵抗を諦めた。
スーッと降りていく俺の大地。
畑に触れないギリギリの距離くらいでストップし、俺はマドカを、カトリナがシーナを抱っこして飛び降りた。
「ということで、この土地への挨拶と観光に来たんだ。復活した神は俺が話を付けたから、この土地の守り神になるぞ。もうちょっと人口増やせるようになるぞ」
「ま、待ってくれ! 色々言われすぎて頭が混乱してきた!」
ちょっとの情報量だと思ったが、よく考えるとこういう、他との接触が少ない土地では数日分の量がある情報だったかもしれない。
しばらくして、周辺の村人がみんな集まってきた。
王だと名乗るおっさんがいたが、これがまた普通のおっさんなのだ。
他の村人の間に紛れると全く分からなくなる。
「その、つまりあなたが、あの恐ろしいものを説き伏せて我々を守る神にしてくださったと」
「うむ。俺はユイーツ神ともマブダチだからな。あ、これ証拠な」
俺は空に向けて光の魔法を放った。
上空を包む雲を貫き、ぽっかりと巨大な穴があく。
そこから眩しい青空が見えて、村人たちがポカンとした。
「どうだ? 俺の言葉を信用できそうか?」
「し、信じます。勇者ショートよ」
王が慌ててひざまずいた。
村人たちもそれを見て、わらわらと膝を突く。
あっ、物凄く怖がらせてしまった!
だがなんと素朴な人々だろう。
こんな風にストレートに畏れられるのは久々だな。
「頭を上げてくれ。俺はお前らと新たなる古き神、フォールンの仲を取り持ちに来た。ついでに観光に来た」
「おお、なるほど……。ですが我々には、勇者ショートをお迎えできるほどの備蓄は……」
「お近づきの挨拶でこいつをやろう。ロイロイと言うどこでも育つ植物でな……」
「ショートがまたロイロイを布教してる」
それ以外にも、干し肉をどっさりあげたらめちゃくちゃに喜ばれたのだった。
食料は最高の交渉材料だな。
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