第473話 北の神様との顔合わせ
王のおっさんと村人を連れて、凍った海まで行く。
みんな不安そうである。
カトリナとマドカとシーナは村に置いてきた。
ロイロイの調理法を村の奥さんたちに伝授せねばならないからな。
そうして、彼らを先導して到着。
「ここにも国があったのですが、あの恐ろしい怪物……神が現れた時に海の底に沈んでしまいました」
「そんなことがあったのか」
「光り輝く子どもが民を皆すくい上げてくれましたが……」
「そりゃあよかった」
その人たちも含めて今の王国に合流したので、大変な状況になっているらしかった。
なるほど、それじゃあここにやって来るのは複雑な気分だろう。
だが、俺は彼らに試練を与えに来たのではない。
祝福をもたらすために来たようなものだ。
「フォールン!」
凍った海に向かって、俺はその名を呼んだ。
するとさほど時を置かず、海面が揺れ始める。
波が高くなり、渦となり、その中から巨大な神が姿を現した。
獅子の前半身とタコの触手を後半身としている。
フォールンだ。
『ややっ、これはショート殿』
「うむ。この土地の民を連れてきた。顔合わせだ。お前はコワモテだから、警戒心の強いこいつらだといつまで経っても仲良くなれないだろう」
『ふーむ、我は別に仲良くなどならなくても良いのですが』
「まあ、神と人の分みたいなのがあるからな。そこそこ距離は保ったほうがいいが……民が神をいつまでも信仰しないのはいかんだろう。この国には守りが必要だ」
『然り。貧しい痩せた大地です。我がこの者たちと繋がりを持てれば、いくらかは豊穣を与えることもできましょう』
「こう言っている」
「は、はあ……」
王が呆然としながらうなずいた。
まあ理解できないよなあ。
「いいか? 神はそれぞれ権能を持つ。だが、神々は一般権能というやつも持っているのだ。それは己を崇める民に少しばかりの幸運を授けることだ」
「幸運を……?」
「そうだ。お前たちがフォールンに信仰心を捧げる。すると、フォールンに力が満ちることになる。この神は単体でも存在できる、かなり強力な神だ。だが、信仰を得られれば得られたで悪いことはない。な?」
『は。我も信仰を得られれば、他に分け与える余剰の力を使うことができるようになるでしょう』
「そういうことだ」
村人たちというか王国の民が、どうしよう? と戸惑いながら話し合っている。
まあ、いきなり信仰しろと言われても困るよな。
「フォールン、何かお試しで権能を振るってやることできない?」
『ふむ、お試しですか。どれ、凍れる大地の民よ。我が貴様らに権能の一部を見せてやろう。それ!』
俺に対するのとガラリと態度を変え、フォールンが厳かに言い放った。
すると、フォールンの周囲の海が泡立つではないか。
そこから、水底にいたのであろう魚や貝が浮かんできた。
「おお……!! う、海のものがこんなに……!! 氷が薄くなる夏の間しか獲れない貴重なものなのに……!!」
王国の人々が驚きの声をあげた。
『我を信仰せよ。さすれば、海の恵みの量を増やしてやろう……』
「おおお……!!」
どよめく民衆。
これは効いたな。
貧しい北の大地にとって、海産物はとても貴重なタンパク源だ。
きっと夏に獲れたものを干物にしながら、大事に食いつないでいたんだろう。
だが、これの量が増えるとなると話が変わる。
「どれくらい増やす?」
『は。秋から春に掛けて海が凍りつくことは変えられますまい。ですのが、春と秋に氷海の一部を薄くし、そこから漁をできるようにはなりましょう』
「だそうだ」
俺が振り返ると、民衆がうおおおーっと歓声を上げた。
これ、つまり漁をできるチャンスが倍くらいになったようなものだ。
国の人口を増やすことができるようになるな。
さらに、貝殻や魚の骨やヒレなどを畑に撒くことができるようになる。
土壌が改造できるようになるだろう。
「どうだ? フォールンを信仰するか?」
「は、はい……!! フォールン様、よろしくお願いいたします……!!」
『うむ』
フォールンは重々しく頷いた。
ちょっとぎこちないのは、彼がずっと悪神としてのロールを続けていたせいだろう。
人間の味方になるのは初めてだろうからな。
慣れない役割だろうが、この世界の人口が回復するまでの間は頼むぞ。
今後のやり取りは、この国とフォールンに任せるとして……。
俺は村……もとい国に戻ってきたぞ。
本当に手前村より小さいくらいの規模なんだもんなあ。
これで国なんだよなあ。
そこでは、カトリナがロイロイ料理を次々に見せているところだった。
ロイロイに魚介類。
北の王国の食生活事情は一気に回復することだろう。
ベビーブームが来たりしてな。
楽しみ楽しみ。
マドカはマドカで、現地の子どもたちに己の栄養状態からくる強さを見せつけていた。
相撲に似た現地の遊びをやって、年上の男の子だろうがぼんぼん投げ飛ばす。
強い強い。
カッパの子どもを一蹴するレベルだからな。
さもありなん。
そしてここでも、マドカは現地の子どもたちから親分と讃えられるようになるのだった。
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