第399話 トリマル、日本的なところに行く

 はるか遠くからだが、トリマルを確認した。

 トコトコと大きな船に乗り込むところである。

 どうやら、船の護衛として雇われたらしい。


 このホロロッホー鳥はセントラル帝国の人々から大切に扱われている。


「ホロホロ」


「トリマルさん、こっちにどうぞ」


 トリマルは舳先あたりにちょこんと腰掛けた。

 ここが定位置になるようだ。


 まさか、舳先にいるホロロッホー鳥が、この星で二番目に強大な存在だとは誰も知るまい。

 俺は髪の毛から作った分身を飛ばし、魔力とか諸々を断ってじっとトリマルを見守っているのである。


 惑星で二番目に強い存在とは言っても、心配は心配。

 俺の息子なわけで、過保護に接してしまうわけである。


 おっ、出航して早々に海賊!


「ホローっ!!」


 ホロロッ砲炸裂。

 海を割り、海賊船は蒸発した。


 明らかなオーバーキルである。

 船員たちがトリマルに対する態度が、リスペクトに満ちたものになった。


 鳥に向ける視線ではない。

 憧れすら混じっている。


「トリマルさんパねえ……」


「さすがは勇者様が育てたホロロッホー鳥だぜ」


「ホロロッホー鳥だって修行すればあそこまで行けるんだ。ってことは俺たちも……?」


「トリマルさん、稽古つけてくださいよ!」


「ホロホロ」


 水夫たちから大人気じゃないか。

 もともと、セントラル帝国の船は、地上の鳥を守り神として船の中で飼うようにしているんだそうだ。

 これは、陸に戻るという験担ぎなんだと。


 つまり、縁起のいい鳥と、船の物理的な守り神が一体となっているのがトリマルだ。

 これは船員たちから頼られる。


 船は問題なく海を進んでいく。

 嵐に突入したが、これもホロロッ砲で切り裂いたので、トリマルへの信頼は信仰みたいになった。

 船長と同じくらい偉い立場になったぞ。


 だが、うちのトリマルは謙虚なのだ。

 船長を立て、物静かにホロホロ言っているだけである。

 この気遣いに、船長も感激した。


 船の一同は全員、トリマルのシンパになってしまった。


 船は何日か旅をした。


 俺は俺で、日常生活を送りつつこれを見守っている。


「こんな平穏な船旅は珍しいですよ」


「ホロホロ?」


 双眼鏡を手にした船長が、トリマルに話しかける。

 それは、完全に尊敬の混じった口調である。


「トリマルさんのおかげですよ。船旅っていうのはいつも命がけでね。あらゆる験担ぎをやった上で、考えられる限りの備えをして、それでも船の幾らかは戻ってこないんです。海を渡るってのはそれだけ大変なことなんです」


「ホロ~」


 トリマル、勉強になったな。

 旅を通じて、トリマルは確実に成長しているのだ。

 父は嬉しいぞ。


 そして見えてきた、目的地。

 セントラル帝国から海を挟んだ場所にある、日本みたいな国である。


 仮にヒノモトと呼んでおこう。

 船が到着して、ヒノモトからはわあわあと人が集まってくる。


 セントラル帝国からの荷物が降ろされているな。

 そして、トリマル堂々と船を降りる。


 戸惑うヒノモトの人々。


「保呂鳥だ……」


「保呂鳥が降りてきた」


 ヒノモトではホロロッホー鳥のことを保呂鳥と呼ぶのな。

 この世界、本当にニワトリが一切おらず、同じポジションにホロロッホー鳥がいるのだ。


 言うなればトリマルは、地球で言う最強のニワトリみたいなポジションだな。

 だが、誰が見てもただのニワトリではない。

 溢れ出す覇気が、人々をたじろがせるのだ。


 船長の説明を受けて、ヒノモトの人々はトリマルに興味津々。

 やがてこの地方のお殿様までトリマルの話は届いたらしい。


 トリマルはお城に呼ばれた。

 ヒノモトの城は、どことなく、日本の城によく似ている。

 収斂進化みたいなものだろうか。


「その方がトリマルか」


「ホロ」


「お、おお、そうか」


 殿様が気圧されているぞ。

 お付きの騎士……侍みたいなもんだが、そいつらも警戒してはいるものの、トリマルを前にして、「こりゃあ勝てん」という顔をしている。


 一般人ですら分かる、トリマルの強さだからな。

 少しは使える人間なら、歯向かおうとも思わなくなる。


 トリマル、無駄な争いを起こさないためか、覇気的なものをバンバンに発揮しているのだ。

 それは功を奏していると言えよう。


 頭を使ってるなあ。


「おとたん!」


「おお、マドカ!」


「おとたん、ずーっとなーにみてるの!」


「気付いてたかあ」


 分身を通してトリマルを見ていたら、マドカはずっとそれを察していたらしい。

 俺の膝の上に上ってきて、分身と繋がっている魔力の糸みたいなのに顔を突っ込んだ。


「おー、みえた! といまう!」


「見えてしまったか……。視界共有とか、他の魔法に割り込んだりするとか、かなりの高等技術だと思うがうちの天才マドカならできちゃうよなー」


「まお、えらい?」


「偉くて凄い」


「えへー!」


 マドカがニコニコになった。

 宇宙一可愛いな。


「トリマルはマドカのお兄ちゃんみたいなもんだからな。今、一人で世界を旅してるんだ。男はこうやって世界を知り、成長していくのだ」


「おー!」


 何を言われているか全然分かっていないだろうが、とりあえずマドカが納得した。

 お殿様の御前でトリマルの腕試しが始まる。


 刀を持った侍を相手にして、その場を動かず相手をする。

 斬りかかる攻撃を、紙一重で回避しながら切っ先に蹴りを叩き込む。


 それだけで、侍は錐揉み回転しながらふっ飛ばされた。


「つ、次々行け!」


「うおおおー!」


「ちぇすとーっ!!」


「ホロ」


 これを、トリマルは前進しながら捌く。

 蹴り一発で、次々に侍が宙に舞う。


 空を飛ばされてしまえば、もう死に体である。

 トリマルは、落下してくるまで見逃してやっているだけだ。


 その気になれば空中の追い打ちで終わる。

 侍は皆、それを理解してトリマルの前で膝を突いた。


「み……見事……!!」


 殿様も度肝を抜かれて、扇子を広げている。

 これを見ていたマドカ、俺を見上げた。


「おもしろそうねー。まおもしたいなー」


「マドカとトリマルがやり合ったら、大変だなあー。大陸が一つ沈んじゃうなー」


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