第258話 激闘、勇者村vs巨大ウナギ

「釣り竿の強度は大丈夫か?」


「大丈夫、問題ありません。ワタシとブレインさんと魔本たちで作り上げた完璧な強度の釣り竿です」


「クロロック、そういうのをフラグと言ってだな」


 俺はてっきり、巨大ウナギの重さとパワーに耐えられず、フラグ満載で作られた釣り竿はポッキリ行くかと思ったのだが。


 ぐーんとしなりつつも、釣り竿が全く折れる様子も無い!

 スーリヤと、勇者村の男たちが支える釣り竿は、がっちりと巨大ウナギを捉えて離さないのである。

 これは本物だ!


 川面は大変なことになっていた。

 全長10メートルはある巨大ウナギが、バッシャバッシャ暴れるのである。

 跳ね上げられた水に混じって、小魚が吹っ飛んでくる。


 これを、乗船しているトリマルがジャンプしてキャッチする。そしてすぐ食べる。

 アリたろうも真似してキャッチするが、彼はアリやペースト状のものしか食べられないので、キャッチするだけである。

 後でピアに頼んで、小魚ペーストにしてやるからな。


「どーれ、俺が手を貸してやろう! 俺が引っ張れば一瞬だぞ!」


 俺が近づいたら、ブルストやアキムが凄い顔をした。


「いやいや、ショートはいい」


「村長がやったら釣り竿が絶対折れる」


「ショートさんは釣りと相反する概念みたいな人だからなあ」


 フックまで!

 いや、付き合いが長いからこそ、そして魔本で語彙を身に着けたからこそ、フックはそんな表現をしたのだろう。

 釣りの方が俺を拒絶しているのか……!?


 ありうる……!!


「よーし、それじゃあショートに変わって私が協力しちゃうよー!」


 カトリナが戦線に加わった!

 暴れる巨大ウナギを、ブルストとカトリナ、二大オーガのパワーが抑え込む。


「わおー!」


 マドカが語彙を失って、なんか腕をぶんぶん振り回しながら応援している。

 孫娘であり、娘であるマドカの声援を浴びて、ブルストとカトリナのパワーが増したように思えた。


「頑張るのだ二人とも! あと勇者村の仲間たちよ!」


「なんだか凄いことになってるけどー! つ、釣り上げますーっ!!」


 スーリヤも、踏ん張るあまりに顔を真赤にしながら叫んだ。

 その気合と共に、勇者村のパワーが巨大ウナギを上回った。


『イルグワーッ!!』


 なんか叫びながら、巨大ウナギは川面から、スポーンと釣り上げられたのである!

 巨体が宙を舞う。


「ビン! 行くぞ! ウナギ入れを作る! ツアーッ!」


「うん!! ちょあー!!」


 俺とビンの念動魔法が炸裂した。

 空中に、ウナギをすっぽり入れられる生簀を作り上げる。

 そこに川の水を入れて、常に新鮮な水が循環するように……。


 よし!


 ウナギはバシャバシャ暴れようとしたが、どうやら自分がまだ水の中にいると気付いたらしい。

 スッと大人しくなり、生簀の中でまったりし始めた。


 済まんな、巨大ウナギ。

 このまま勇者村に連行し、お前を美味しくいただきつつ、皮で赤ちゃんたちの長靴を作らせてもらう……!!

 用事も終わったし、帰るとしよう……と思ったのだが。


「ウナギがいなくなったら、あちこちから魚が出てきたぞ!」


「いれぐいだあ!」


 村の仲間たちが歓声をあげた。

 どうやら、食物連鎖の頂点である巨大ウナギが釣り上げられたため、隠れていた魚たちが次々に現れたようなのである。


 これは巨大ウナギ、あまりたくさん釣ってはいかんな。

 この一匹だけで満足せねば、生態系が崩れてしまいそうな予感がある。


 ということで、巨大ウナギに代わって生態系を維持すべく、勇者村一行は釣った。

 釣って釣って釣りまくった。

 めちゃくちゃに魚がたくさん獲れたので、大半は干物や燻製になって長く我々の食卓を賑わせてくれることであろう。


 船の中ほどにまた生簀を作り、そこがパンパンになるほどの魚だ。


「釣り終了ー。もう勇者村ではこれ以上消化できません。終了ー!」


 俺が宣言すると、やっとみんな釣り竿を引っ込めた。

 すっかり釣りの楽しさに目覚めてしまったか。

 釣った生き物は必ず食べねばならないので、量には注意だぞ。


 こうして船は、勇者村へと戻っていった。

 念動力の生簀を維持したまま、素早く魚を調理していく。


 ブルストがせっせと、燻製を量産するのである。


「うおお! とても一人じゃ間に合わねえ! フック! アキム! ピア! パメラ! シャルロッテ! 手伝えー!」


 ということで、ブルストとパメラ夫人と勇者村古参の男性陣、そして弟子の二人がせっせと魚を紐で吊るし、燻製にするのである。

 その間、バインはうちが預かることになった。


「あぶあー」


「ばいん! おっきおっきねー」


 すっかりでかくなったバインは、まだまだ自らの身体で動くつもりがない。

 手足をバタバタさせていて、それもむっちり太くなっているから、いつでも歩きだせそうなのだが。


 マドカにほっぺをむにられて、バインが手を振り回して抵抗した。


「んまー!」


「きゃははは」


 おお、マドカが腕を回避しながらほっぺをむにむにしている!

 唯一の年下だからなあ。

 マドカにとって、バインは弟分なのだ。


「まお、ばいんとあそんでる! さーらもあそぶ!」


 サーラがやって来て加わった。

 赤ちゃん三人で、キャッキャと遊びだしたぞ。

 バインめ、お姉ちゃん二人に遊んでもらうとは幸せ者め。


 俺はニコニコしながらこの様子を眺めていた。


「ちょーとー! うなぎ、たいへーん!」


 ビンが慌てた様子で走ってきた。


「なんだなんだ」


「うなぎ、くるしいくるしいって」


「水を入れ替えていたが限界が来たか! では巨大ウナギも調理に掛かるか……! ウナギの白焼きにでもしてやろう!!」


 さあ、こっちはこっちで、ご馳走の準備をせねばなのである。

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