第246話 鍛冶神、祭りに張り切る

『祭りだと!? 祭りはいいな! 人が生み出した最高の文化だ!』


 鍛冶神の放つ光がピカピカと強くなり、彼の核になっている聖剣がよく見えるくらいになった。

 大変興奮している。


「落ち着け鍛冶神。地上にもう一つ太陽が生まれた感じになって大変眩しい」


『おお、すまんすまん。だが、もうじき雨季だろう。そうなれば太陽が出ないことも増えてくる。神が太陽の代わりくらいやってやってもよいが? 祭りがちょこちょこあるのならば』


「本当に祭りが大好きなんだな」


『うむ。魔王大戦の最中は祭りどころではなかったからな。祭りというものは伝統を受け継いでいくものだから、人が死んだり何年もやらなければ消えていく。そして祭りとは、神にとっても祈りを奉じられるためのものなのだ。お前たち人の言い方をするならばご馳走だ』


「なるほど、たまにあるご馳走がずっと食べられなくなっていたということか」


『うむ……。そうなれば神の心の栄養が足りず、テンションも下がっていく。神とは精神のあり方そのもの故に、テンションが低ければ力も弱くなる』


「あー、マドレノースは明らかにそれを狙ったんだろうな! あいつが入り込んだ国々では、戦争のために緊縮財政が行われて、真っ先に祭りが潰されたそうだ! それで神を弱体化させてから、次々に滅ぼして行ったんだな。今思うと、恐ろしいやつだったな」


『ああ。恐るべき魔王だ。ワールディア開闢以来、最も強大で恐ろしく、しかも極めて狡猾な魔王だった』


 思わず、祭りの話からマドレノースの思い出を語り合ってしまう俺と鍛冶神である。

 すると、横合いの空間がにゅっと開き、ピカピカ光る男が顔を出した。


『ずるいですよ。私がいないところで思い出話して』


『お前まで顔を出してきたのか』


『祭りですか。いつやりますか。私も行きましょう』


「ユイーツ神!」


 二神が祭りに参加することが確定したので、これは一大神事になってきたぞ。


「祭りはな、乾季と雨季の間でやるつもりだ。今後は毎年このへんでやろうかなと。乾季の終わりが最初の収穫の時期で、次は雨季の終わりだからな」


『二毛作してましたもんね。では雨季の終わりにも祭りをやったほうがいいのでは?』


「なんだって!?」


 ユイーツ神から過激な提案が出てきた。

 年に二回の祭り!!


『今回が迎肉祭、つまり肉を称えるお祭りでしょう。ならば次は収穫祭。作物を称えるお祭りにするのが良いでしょう』


『なるほど、さすがは豊穣神だな……』


 鍛冶神がすっかり感心して、ユイーツ神を褒めた。

 そうだった。

 ユイーツ神ってもともと豊穣神だったわ。


「ではその意見を取り入れて、迎肉祭と収穫祭を執り行うことにしよう。収穫祭の頃はヒロイナはもう臨月近くだな。リタには二回連続でメインの祭祀をやってもらう他あるまい」


『あの娘か。筋はいいぞ。神が直々に、届きやすい祈祷のやり方を教えたりしている』


「神様が直接教えるのは反則だろ。チートだぞ」


『いいではないか。神はたまの責任のない立場をエンジョイしているのだ』


『鍛冶神様、早く私と替わってくださいよ』


『まあ待て。あと百年ほど待て』


『長いー!』


 おっ、ユイーツ神と鍛冶神が、わいわいと言い合いを始めてしまったぞ。

 俺はこれを眺めながら、水瓶から汲んできた水など飲むのだ。

 こいつは全部沸騰させてから湯冷まししているので、安全なのだ。


 そうこうしていると、俺が神々と語らっているのが気になったらしい連中がやって来た。

 勇者村四天王である。


「ちょーと、なにしてるのー?」


「お祭りをな。そう言えばビン、お前がこーんなちっちゃかった頃に最初のお祭りをやったんだぞ」


「おまつり!! えっと、えっと、ぼくね、ちょっとわかるかも」


「赤ちゃんの時の記憶があるか。すごいなあ」


「ホロホロ」


「もがもが」


「めえめえ」


 他の四天王もめいめい何か言っている。


『彼らも協力を申し出ていますね。地方の小神ほどの力を持つ彼らの力を借りれば、お祭りもにぎやかになりますね』


 ユイーツ神が実に嬉しそうである。

 鍛冶神とは一時、言い争いは棚上げとしたらしい。

 神々は時間がたっぷりあるので、問題をいくらでも棚上げできるのだ。


『では、神は弟子たちを集めてこよう。今後の計画を練らねばなるまい』


 鍛冶神の弟子とは、ブルストと、ブルストの弟子であるピアとシャルロッテである。

 最近はパメラも弟子入りしたらしいので、鍛冶神の派閥もだんだん増えていっている。

 主に屋台を作ったり、そこで出し物をしたりする派閥と考えていい。


 あ、パメラはそもそも、前の迎肉祭がきっかけでうちの村に来たんだったな!

 パメラの仲間の職人たちを呼び集めても面白そうだ。

 うんうん、夢が広がっていくぞ。


 とりあえず、思いつく限りのことを実行だ。

 近くの村に広報せねばな。

 料理などなどは物々交換なので、何かしらを持ってきてもらう。


 勇者村は貨幣制度を採用していないからな。

 そうだ、麦や米を持ってきてもらうのがいいだろう。

 保存も利くし、別の品種のものを混ぜ合わせると強くなると聞いたことがある。


 食味は勇者村だし、何か突然変異が起こって美味しくなるだろう。

 俺は勇者村の土壌を信じる……。


 かくして、色々と予定を決めていく俺なのだった。

 そんな俺を影からパワースが見ており、何か企んでいる様子なのである。


 何かやる気か、パワース……!

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