第163話 勇者村四天王、お使いに行く

 どうも俺に準じる力を持った者が四人揃ったようなので、俺はこれを四天王と名付けた。

 四天王筆頭トリマル。

 四天王次席ビン。

 四天王補佐アリたろう。

 四天王見習いガラドン。


 ホロロッホー鶏と一歳児とコアリクイと子ヤギである。

 どう見ても強くなさそうだ。

 だが、多分この四人揃って魔王を覗いた今の共和国と互角くらいかな?

 ちょっとこっちの方が強いな。


「彼らをお使いに出してみようと思っている」


 俺のいきなりの提案に、勇者村が揺れた。


「ビンはまだ一歳半だぜ!?」


「心配……!」


「そこはトリマルがついてるし、ビンもほら、小国なら単身で相手取れる一歳児だから」


 俺の狙いは、四天王の自立心を養うことである。

 いや、トリマルもビンもアリたろうも、割とめいめい勝手に動いてるな……。

 そこは心配しなくていいな。


「いいかトリマル、ビン、アリたろう。ガラドンはまだまだ赤ちゃんヤギだ。色々教えてあげるんだぞ」


「ホロホロ!」


「あい!」


「もが!」


 良いお返事がかえってきた。

 心配するフックとミーだが、何かあったらビンをすぐにコルセンターでお取り寄せするからと説得する。

 そして、ミーとカトリナが作ったお弁当をもたせ、四天王はお使いに旅立ったのである。


 目的地は手前村。

 お使いの内容はヨーグルトの購入である。

 あっちのヨーグルトとうちのヨーグルトで比較したいからね。


 フックとミーがめちゃくちゃ心配するので、二人用にコルセンターを用意して設置しておく。

 空間に小窓があいて、そこがディスプレイみたいになってビンの様子が見えるのだ。


 四天王がトコトコ道を行き、何かあるたびに二人がキャッとかうわーとか声を上げている。

 賑やかなものだ。


「ショートさん、なかなかスパルタですなあ。可愛い子には旅をさせると言いますが、まさかビンちゃんを旅に出すとは」


 俺とともに稲束を干す作業をしていたアキムが話しかけてくる。


「そうだなあ。あのメンバーならいけるだろう。ほぼ敵なしだからな」


「なるほどお。今回もショートさんは何か、深い考えがあってやったんですかね」


「……深い、考え……?」


 俺は考え込んだ。

 特に何もない。


 ただ、なんか四人揃って面白そうだなあと思っただけであった。

 俺が常に深い考えがあって動いていると思うなよ……!?


 ただ、ビンについてはほとんど勇者村の中しか知らないし、フックとミーはちょいちょい過保護気味で、このままではビンは外の世界を知らないまま成長してしまうなと思っただけだ。

 あいつは俺にとっても息子みたいなもんだからな。


 なので、俺の最強の右腕であり、俺の長男みたいなものであるトリマルをつけた。

 トリマルとビンの付き合いも長いからな。

 何せ、生まれてからずっとだ。


「あーっ、危ない、ビンー!」


「ぐううー、すぐにでも行ってやりたい! ショートさん! ビンを助けてくれー!」


 向こうが騒がしくなって来た。


「なんだー!」


 呼びかけてみると、フックもミーもわあわあと騒いでる。

 なんだなんだ。


 俺とアキムの二人で観に行くと、コルセンターの中で、ビンが熊と向かい合っていた。

 こりゃあ立派な熊だ。

 そして熊の前で仁王立ちするビン。


「ああー! ビン、あぶなーい!」


 ミーが悲鳴をあげるが、俺からすると、熊、あぶなーい! である。

 願わくば、熊が野生の勘で目の前の一歳児の恐ろしさを感じ取ってくれることを願うばかりだ。


「ぐおおー!」


 熊が吼えた。

 あかんかった。

 後ろでは、トリマルが腕前拝見とばかりにじっと見ている。


 アリたろうは、いつでも飛び出せる態勢だ。

 そしてガラドンは、持たせてやったミルクをぺちゃぺちゃ舐めている。


 熊がビンに突っかけようとする!

 それをビンが、念動魔法の壁を作り出して止めた。


「ぐおおーん!?」


「ほかのひと、たたいたら、めーなんだよ!」


 ビンが舌足らずな口調で告げると、ぷにぷにした腕をくるりと回してみせた。

 すると、熊が天地逆転し、頭から地面に叩きつけられる。


 手加減したなあー。

 それでも、熊にとっては驚愕の事態だ。

 目の前のちっちゃい人間が、訳のわからない技で自分を投げ飛ばしたのだ。


 流石に、熊もビンと自分の実力差を察したらしい。

 起き上がると、猛烈な速度で逃げていく。


 うむ、いたずらに生命をあやめなかったな。

 偉いぞビン。


 横にトコトコとトリマルがやって来て、ビンに乗るように促した。


「あい!」


 トリマルの背中にぴょんと乗るビン。

 かくして、一行はまた動き出した。

 のどかな旅……ではない。


 基本的に、地上を走る三匹が出せる平均速度で突っ走るのだ。

 時速百キロ近い。

 ガラドン、赤ちゃんながら百キロで走れるのは逸材だな!


 さすがは生まれながらの四足歩行だ。

 やがてすぐに手前村が見えてきて、入り口で見張りをしていた村人が目を丸くした。


「えっ!? 鳥に乗った赤ちゃん!?」


「よーぐうとくだたい!」


 ビンが元気に要件を口にした。

 えらい。


 村人も、一歳児を外に置いておくのは気が引けるようだ。

 慌てて四天王を村の中に案内した。


 村には家畜を飼っているおじさんがおり、おじさんに金を払うとヨーグルトを買えるのだ。

 一歳児と動物たちがヨーグルトを買いに来たので、おじさんもめちゃくちゃ驚いたようだ。


 アリたろうが首から下げたがま口から、俺が持たせたお金を取り出す。

 おじさんがそれを震える手で受け取った。


 ちゃんと必要分のヨーグルトが手渡される。

 これを、ガラドンの体にくくりつけて、帰還となる。


 帰りは四天王も気楽なものだ。 

 寄り道したり、お昼寝したりしながら、時速五十キロくらいでゆっくり帰ってきた。


 村に到着したのはお昼過ぎである。


「ただいまー!」


 ビンの元気な声がしたので、フックとミーが全力ダッシュで駆けつけていった。

 愛を感じる。


 ヨーグルトはたっぷりと買って来てくれたようだ。


「偉いぞビン! トリマル、アリたろう、お使いご苦労さまだ。ガラドンは外に出てみてどうだった?」


「めえー」


 ガラドンはそれだけ鳴くと、母であるオーレのところに行ってしまった。

 おっぱいが恋しいらしい。

 まだ赤ちゃんだしな。


 かくして、四天王初めてのお使いは大成功だった。

 ビンはもうちょっと成長しないと難しいだろうが、そのうちもっと遠いところまでお使いに出してみるのもいいかも知れないな。



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