第149話 海鮮……いや海戦?

 海の王国の国王、ザザーン王はマッチョなおじいちゃんだ。

 飯屋のテーブルを挟んで、俺と差し向かうザザーン王。

 俺と彼の交渉が始まる。


 テーブルの上には、海で獲れたもので出汁を取り、魚醤で味を整えたスープ。

 まあ磯汁だよねこれ。

 お茶の代わりにこれが出てきた。


 うまい。


「うまいうまい」


 磯汁をグビグビ飲み、お代わりまでする俺。

 隣でカトリナも、ごくごく飲んで具をむしゃむしゃ食べている。


 俺たち夫婦の大変な健啖ぶりを見て、ザザーンおじいちゃんが嬉しそうに顔を緩めた。

 交渉成功である。

 言葉はいらん。名産品が最高にうめえと伝えるだけでいい。


 かくして、海の王国はハジメーノ王国、グンジツヨイ帝国、砂漠の王国の連合に加わることになった。

 ハグ砂連合あらため、ハグ砂海連合である。

 何気にどれも、魔王大戦で存在感を示していた強大な国だ。


 ハジメーノ王国は評判どん底から、トラッピアが立て直したな。


 海の王国は速攻で連合に加わったが、彼らがチョロいわけではない。

 魔王大戦で共闘した俺への信頼度がカンストしているからだ。


「それで勇者様、新婚旅行以外であなたが直々に交渉に来られるとは、そこまで世の中の情勢は切羽詰まっているのですかな? 確かに、海向こうのウエストランド大陸がきなくさいのは分かっておりますが」


 ウエストランド大陸は、ポリッコーレ共和国があるところだな。


「ぶっちゃけると、多分あっちに魔王が降臨した」


「なんと!?」

 

 ザザーン王が目を見開く。


「先の魔王大戦の主な戦場は、このミディアム大陸でしたからな。ウエストランドの連中は手を汚さず、魔王との対話とかへそが磯汁を沸かすようなことを言っておりましたわい」


「戦場に立たないから綺麗事が言えるんだよ。んで、その綺麗事マン連中が、今回の爆心地になったわけだ。あのポリッコーレが周辺諸国を侵略してるらしいぞ」


「ああ、それはおかしくありません。かの国は魔法を用いた軍事力は優れていますからな。ゴーレムを用いて、人的損害を出さず、敵国の人間を効率的に殺す兵器を作っています。これで人道的と謳っているのですな」


「わはは、すげえブラックジョーク」


 もとから、自分の手を汚さずに何かをする国というわけだ。


「ポリッコーレから何か通告が来たりしてないか? 我々に従え、みたいな」


「来ましたな。手紙一枚をよこしましてな。おい、持ってこい」


「はっ」


 ザザーン王の部下が城に戻っていく。

 しばらくして、満腹のカトリナがうとうとし始めた頃合いで戻ってきた。

 もちろん、マドカは爆睡している。堂々たるものである。


「勇者様、この手紙です」


 ポリッコーレから来たという手紙を開いてみた。


『我々は真実を知っている。世界をこのような閉塞感に満ちた姿にしたものは、第二の魔王、勇者ショートである! 自由を取り戻すのだ! 独裁者ショートを倒し、この世界を人間の手に取り戻すのだ! 各国には、正義の戦いに参じる義務がある。これに従わぬ場合、独裁者ショートに寝返った悪とみなして断罪する!』


「ほう。これはダメなやつだな」


「でしょう」


 俺とザザーンが、わはははは、と笑った。


「これ、世界を人間の手に取り戻すって言うけど、人間って人間だけのことじゃね?」


 この世界には多くの知的種族が暮らしている。

 人、とは、それら全ての知的種族を表す言葉だ。

 だが、人間となると、俺たちのことになる。


「ポリッコーレ共和国では、支配階級にあるのは人間だけですからな。他の種族は魔王に与したから全て魔族である、という考えをしていますな」


「ああ、なるほど。それは俺に対する挑戦だな」


 うちの奥さんオーガだぞ。

 マドカは両方の血が入ってるし。


 俺はやる気になった。

 どうやらポリッコーレは、俺に宣戦布告したらしい。


「勇者様を本気にさせてしまった……。これはポリッコーレめ、馬鹿なことをしたな」


 ザザーンがあごひげを撫でながら笑っている。


 そうこうしていたら、ジャストなタイミングで向こうさんがやって来た。

 慌てた様子で、兵士が駆け込んできたのだ。


「た、大変です! ウエストランド大陸から、凄まじい速度で接近する船団が! 恐らく、ウエストランドの高速ゴーレム艇です!」


「そうか! 迎撃の用意! 奴らめ、わしの返答を聞いて怒り心頭と見える!」


「どういう返事をしたんだ、ザザーン王?」


 王は俺にウインクした。


「魔王とも戦わなかった腰抜けが、正義を名乗るとは千年早い。ましてや勇者様を侮辱するなど、恥というものを母親の腹の中に置き忘れてきたか、坊主、と返しましたな」


「わはは!」


 大変愉快な返答だったので、俺は大笑いした。


「よし、愉快ついでに、あれは俺がちょろっと片付けるよ。ゴーレムだろ? 被害を気にしなくていいから楽なもんだ」


 俺はザザーン王を伴い、海辺に移動した。

 そこには、手足が生えた異形の船が幾つも並んでいる。


 何人か人間が乗っているらしい。

 そのうちのリーダー格と見えるものが声を張り上げた。


「我ら、自由と真実のために戦う、正義のウエストランド連合軍なり! 悪の枢軸たる海の王国よ! 天誅を受けろ!!」


「何が天誅だ!」


 もっとでかい声で怒鳴り返すザザーン王。

 大変男らしい。


「よし、任せろ」


 俺は海の王国の者たちに告げると、ふわりと浮かび上がった。

 腕組みをしながら、悠然とゴーレム船団に近づいていく。


「ひ、人が飛んで!? な、何者だお前は!」


「何者だとはご挨拶だな。俺はな、貴様らが第二の魔王と呼んでいる、元勇者にして今は村長のショートだ」


「ゆ、勇者ショート!!」


「魔王大戦に使わず、大事に取っておいたゴーレム船だと? そんな下らんおもちゃで、満を持して同じ人族を殴りつけて言うことを聞かせるのか? お前らな、いい加減にしろよ?」


 俺、怒る。

 全身から魔力とオーラみたいなのが溢れ出し、天の雲が一瞬で吹き散らされ、円形に青空が覗く。

 海の波が全て止まり、凪ぐ。

 風も止まった。


「ひいっ! ば、化け物! ええい、やれ、やってしまえ! 相手はただ一人の人間だ! いや、一匹の魔王だ! 正義の力であれを滅ぼせー!!」


 ゴーレム船団が、一斉に俺に向き直る。

 そして、搭載していたらしい金属の弾を撃ち出してきた。


 こいつらがもし魔王大戦に参加してたら、どれだけ人族は戦況を押し返していただろうか。

 うーん、考えるだに腹立たしい。


「攻撃誘引収束魔法、ダイソーン(俺命名)」


 俺の目の前に向かって、全ての弾が吸い込まれてきた。

 ごく狭い範囲にそれらは詰め込まれ、圧縮されて小さく小さくまとまる。


「へ……?」


 これを見て、ウエストランド連合とやらの部隊リーダーが口をポカンと開けた。


「お返ししてやろう。当てないでやる。ありがたく思え」


 俺は圧縮した金属の弾を、デコピンした。

 それはゴーレム船団の目の前の海に着弾すると、一瞬でその質量を元に戻した。

 水中で、大爆発が起こった形である。


 巻き起こった強烈な波で、全てのゴーレム挺が転覆した。

 さらに圧力によって、船はひしゃげ、つぶれる。


 ちなみにこれらは全て、陸には何の影響もないようにしている。

 砂浜に到達する時点で、俺が魔力で押しつぶし、波の力を全て殺しているのだ。


 ほんの数分で、並み居るゴーレム船団は跡形もなく消えた。

 俺は人間を拾い上げ、無理やり復活させ、縛り上げる。


「ザザーン王! こいつらを尋問しよう! ついでに、磯汁の飲み直しをしようぜ!」


 こうして第一次の、大陸間戦闘が終了した。

 事態が風雲急を告げてきた感じがする。


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