第66話 さらばお祭り、そして勇者村のお酒を飲もう

 お祭りはつつがなく終わった。

 途中でスコールもあり、クロロックが雨に打たれてツヤツヤしたりもしたが、無事に終わった。


 振り返ってみれば、手前村からやって来た参加者がいたお陰で、盛り上がった気がする。

 俺たちだけなら、しみじみとホロホロ鳥に祈りを捧げながら飯を食らう集まりになっていたからな。

 これを考えると、村人が多いっていうのもいいな。


「村人増産計画……」


「ショート、村人は畑から採れませんよ」


 俺のつぶやきに、すかさずブレインが突っ込んできた。

 わ、わかってるぞそんなこと。


 コツコツ、その人間の人柄を見て増やしていかないとな。


 観光客連中は、さきほどアイテムボクースに詰め込んで、手前村に置いてきた。

 残っているのは、お祭り職人三名である。


「いい村だよなあ。だけど、人が少ねえから商売にはならねえな」


 職人の一人がそう言って笑った。

 その通りである。

 今は十一人しか村人がいないからな。


「夜が明けたら、俺らも帰るよ。今日はありがとうな」


「こちらこそ、美味い屋台の飯をありがとう」


 俺は職人たちとガッチリ握手を交わした。


「あたいはちょっと名残惜しいねえ……。この村、あたいの故郷にちょっと似てるんだよね。あそこにいた頃は、こんなしけた村、さっさと出ていってやるなんて思ってたけど……。歳を取ると、懐かしくなってきちまうねえ」


 パメラが遠い目をしている。

 この言葉に、職人やフックとミーが頷いて、なんだかしんみりした空気になってしまった。


 俺の故郷か……。

 就職失敗、再挑戦失敗、ソシャゲ課金、友達と疎遠になり、昔好きだった子が二十歳そこそこでできちゃった婚……。


 うん!

 あれだな!

 故郷なんかクソだな!


 俺の気分を代弁するかのように、樽を抱えたブルストが姿を現した。


「おいおい、なんだお前ら! 祭りの締めだってのにしみったれた雰囲気になりやがって! そこでだ、俺がお前らを愉快な気持ちにしてやる! これはな、俺とクロロックとブレインとフックで仕込んだ、丘ヤシの酒だ!」


「なにっ!? 完成していたのか……!!」


 俺は驚愕した。

 最近、ブルストは建物を作ってばかりだと思っていたが、同時進行で酒の仕込みもやっていたのだ。


「フフフ……。我々に抜かりはありませんよ」


 クロロックが得意げに、喉を膨らませてクロクローと鳴く。


「あぶばー」


 ビンが膨らむクロロックの喉に触りたいらしく、手をぱたぱたさせている。


「むっ」


「あぶ」


 カエルと赤ちゃんが見つめ合った。

 そのまま二人とも止まる。


「あー」


 ビンが口を開けたら、よだれがたらーんと出た。


「あー、よだれがこぼれちゃった」


 慌てて拭くミ―。

 あのままずっと止まってるかと思ったぞ。


 俺がカエルと赤ちゃんに注目している間に、ブルストは得意げに酒の説明を始めていた。

 そして手製の陶器のジョッキを必要なぶん用意。


「是非飲んでくれ! 勇者村酒造の、最初の一杯だ!」


 うおーっと盛り上がる職人たち。

 あとヒロイナ。


 おい、司祭。


 なみなみとジョッキに注がれた丘ヤシ酒は、ちょっと濁っていた。

 割と長いこと掛けて熟成させていたっぽいので、どうだろう。

 俺の疑問に気付いたようで、ブレインがスッと出てきた。


「実は大半の時間は寝かせていたんです。蒸留してアルコール濃度を上げていますから、雑味などは消えていますよ」


「ブレインがそう言うなら間違いないだろう。どれ……俺は水割りで」


「なんでえショート、そのままグーッといけ」


「俺はそこまで酒が好きじゃないんだよ! 酒を飲む場の雰囲気が好きなんだ」


 ブルストの無茶を聞き流しつつ、ジョッキを満たす。


「じゃあ、村長である俺が音頭を取らなくちゃな」


 俺が立ち上がると、みんなが注目した。

 おほん、と咳払い一つ。


「ここにいるみんなのお陰で、祭りは大成功だ。とても盛り上がった。それから、ブルストの酒もこうやってできた。二重でめでたいな! ってことで、みんなのこれまでの頑張りと、今日の祭りの成功と、そしてこれからに幸多からん事を願って……乾杯!!」


「かんぱーい!!」


 みんながジョッキを上げ、ぶつけ合う。

 これは、地球でもワールディアでも変わらない。


 ちなみに子どもや、アルコールが苦手な人は、丘ヤシを絞ったジュースだ。

 これはこれで美味い。

 後で、酒をジュース割りにしよう。


 口を付けてみると、丘ヤシの酒は悪くない。

 蒸留したと言うが、それでもほんのり甘みを感じる。

 これは丘ヤシの甘い香りが濃く残ってるからかな?


「美味いじゃないか! これはいい酒だよ!」


 パメラが目を細める。

 ごくごく飲んで、本日のおかずである芋をスライスして油で上げた料理……即ちポテトチップスもどきを摘まむ。


 油料理は、ミーの独壇場である。

 酒に合うものをということで、ポテトチップスに、イノシシ肉の素揚げ、油で猪肉と芋を煮込んだものなどが出た。

 どれも美味い。


「美味しいねえー」


 ニコニコしながら、カトリナがポテチと揚げ肉をパクパク食べる。

 今日は料理しなくていいし、後片付けは明日の仕事なので、ガンガン食べている。

 あれ? カトリナさん、そのジョッキの中はジュースで割ったお酒では……?


 この世界の成人は十五歳だからいいのか。

 うん、きっとセーフだな。


 向こうでは、すっかり酔っ払ったヒロイナがあられもない格好になって歌いだしており、職人の男二人がやんややんやと盛り上がっている。

 フックも盛り上がりかけたところで、ミーに尻をつねられて悲鳴を上げていた。


 浮気はいかんぞ……。誰も幸せにならないからな!


 侍祭のちびっこ二人は、ブレインとクロロックと一緒にジュース組。

 気づくと、ビンをリタが抱っこしている。


「赤ちゃんまだジュース飲めないの?」


「ちょっとなら飲めるんじゃない?」


「ええ、その年頃の赤ちゃんなら、ジュースは飲めるはずですよ」


「あばうばー」


 うんうん、いい雰囲気ではないか。


「うーん、なんだか眠くなってきちゃったあ……」


 横で何やら蕩けそうな声が聞こえてきた。

 カトリナが、お酒で顔を真赤にしているではないか。

 彼女はすぐに、俺の方に頭をこてんと預けてきて、すうすうと寝息を立て始めてしまった。


 酒臭いが可愛い。

 そして、俺たちの対面。


 ブルストとパメラが、ジョッキをがぶがぶ空けながら大いに盛り上がっている。


「話が分かるなああんた! そうなんだよー。大好きな酒を我慢してなあ。だけど、こうやってみんなのお陰で酒を作れたんだ!」


「うんうん、酒はやめらんないよねえ。あー、あたいも旅してると酒を飲めないことも多くってさあ。こんないい酒があるなら、ここで暮らしちゃってもいいなあー。お祭りってさあ、まだまだやる余裕があるとこって少ないから、生活ギリギリでさあ」


「おうおう、うちにこい! うちの娘婿のショートは懐がでかいからな! どんなやつだって受け入れるぞ!」


 人格は精査するけどな。


「おっと、飲みすぎた……。と、トイレ……」


 ふらふらとパメラが立ち上がった。

 ブルストも、ちょっと足元がふらつきながら立ち上がり、


「こっちだこっち」


 と彼女を連れて行く。

 そして二人は普通に戻ってこなかったんだが。


 うーん、お楽しみですなあ。

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