第62話 ビンは神の子? ホロホロ鳥、お肉にする会議

 我が勇者村にまた変な事件が起きた。

 というか、既に起こっていたと言うべきか。


 俺が呼んだユイーツ神によって取り上げられた赤ちゃん、ビン。

 こいつ、どうもそのあまりにも特殊な生まれから、聖なるパワーを宿してるっぽいのだ。


 証拠の一つは、ビンがハイハイする時。

 土がむき出しの地面の上でも、平気でハイハイするビンだが、砂利なんかが痛くて普通の赤ちゃんならできない。

 だが、ビンがハイハイすると、砂利が自ら道を開け……地面が平らにならされるのだ……。


「普通に奇跡を起こしてるなこの赤ちゃんは」


「あーばーうー」


 ビンが俺とカトリナがいるところまでやって来て、抱っこをせがんできた。


「はいはい。ビンちゃん、抱っこするたびに重くなるねえー。ぷくぷくしてかわいいー」


 カトリナが、ぶちゅーっとビンのふっくらほっぺにキスをする。

 すると、ビンがキャーッと甲高く叫んで、上機嫌で手をバタバタさせた。


 赤ちゃんのうちから可愛い女子にキスされる喜びを知っているとは……。

 末恐ろしい……! カトリナは俺のだぞ。


 俺が赤ちゃん相手に対抗意識を燃やしていると、フックとミー夫妻がやって来た。

 今は朝なので、仕事前。

 集まって朝飯を食うところなのだ。


「またビンがカトリナに抱っこしてもらってるなあ」


「ごめんねカトリナ。その子、おっぱいが大きい女の人が好きだから……」


「なるほど」


 俺は納得した。

 カトリナは勇者村一立派なものをお持ちである。

 オーガという種族上、男はむきむきに、女はむっちりとしやすいらしいが、それが顕著に出てるのだろうな。


「いいんだよー。ビンは可愛いし。ねえ、ビン」


「ばーうー」


 この赤ちゃんめっ、カトリナの胸に顔を埋めるだと……!?

 俺が衝撃にわななわ震えていると、ヒロイナとリタとピアもやって来た。


 クロロックは既にやって来ているので、これでほぼ勇者村の全員が集まったことになる。


 俺、カトリナ、ブルスト、クロロック、フック、ミー、ビン、ブレイン、ヒロイナ、リタ、ピア。

 この十一人が勇者村の人族メンバーだ。

 これに加えて、ホロホロ鳥軍団が二十羽くらいいる。


 今回はそれも朝食の議題に上ることになる。

 全員が集まる朝食は久々で、これはつまり、村で話し合う議題があると言う意味でもあるのだ。

 この村で一番大きいスペースは教会だが、その次に大きいのはうちの居間なので、ここが実質集会所みたいになっている。


 カトリナの蒸した芋が並べられ、昨日の作りおきのシチューが、グツグツと煮立つまで火を入れられて出される。

 うむ、高温で殺菌もバッチリだな。


 ヒロイナが音頭を取り、みんなで祈りを捧げてから食うことにする。

 近況の報告などしあい、談笑しながら食事は進んでいく。


 みんながほぼほぼ食べ終わった辺りで、本題だ。

 ピアがまだ、お代わりした芋と格闘しているが。


「集まってもらったのは他でもない。うちで飼ってるホロホロ鳥だが……トリマルと話し合いながら、いよいよ肉にしていこうと思う」


 ざわっとざわめく一同。

 いや、主にざわめいたのは、カトリナとヒロイナとリタとピアだ。


「や……ちゃっちゃうの、ショート」


「ひいいい、愛着の湧いた鳥を食卓に!?」


「かわいそう……!」


「かわいそ……でも美味しそう」


 ピアは食欲に意識を持っていかれたな。

 ブルストは屠畜して肉にするのは慣れてるようだし、フックとミーもそうだ。


 クロロックはそういうところはデジタルに対応できそうだし、ブレインに至ってはこいつは絶対家畜を解体して肉にしたことがある顔をしてる。


「ばーう!」


 食事の間中、ずっとカトリナの膝の上にいたビンが無邪気な声を上げる。


「あぶぶぶぶぶ!」


 むむっ、カトリナの胸をぺたぺたし始めたぞ!


「あ、お腹へったみたい」


 ミーが立ち上がって、ビンを受け取った。

 ビンのご飯タイムである。

 もうすぐ離乳食が始まるのではないだろうか。


「みんな聞いてくれ。この話をしたのは理由がある。このままで行くと、ホロホロ鳥はとても増える。うちには外敵がいないからそうなるんだ。だが、そんなたくさんのホロホロ鳥を養う余裕は村にはない。それに、ホロホロ鳥を村に迎えた理由は、卵と肉を得るためなのだ」


「ああ、ショートのいう通りだ。俺らはみんな、ホロホロ鳥の料理を食ったことがあるだろう? あれだって誰かが飼ってた鳥だ。そいつを肉にして、みんなで頂いてたってわけだ。そういうもんなんだよ」


 ブルストが人族とホロホロ鳥の関係を説明する。

 昔は野生の鳥だったホロホロ鳥は、人族と共存することで大いに栄えるようになった。


 世界中のどこにでもホロホロ鳥はいて、人族が育て、増やしてくれる。

 人間、オーガ、ドワーフ、ウルフェン、ラミア……エルフ以外のどの人族も、ホロホロ鳥を飼っているな。


 ホロホロ鳥は種を繁栄させる助けとして、人の手を使った。

 その代わり、彼らは人族に肉と卵を提供する事になったわけだ。


 既に今回の話は、ホロホロ鳥代表であるトリマルとも話がついている。

 俺たちは勇者村ホロホロ鳥の繁栄を約束し、代価として肉と卵を受け取るのだ。


 こういうのは不意打ちでやるとトラウマになるそうだから、きちんと告知して行うのだ。

 ホロホロ鳥への敬意を示すために、村としての行事にした方がいいな。


「祭りにしよう。勇者村のホロホロ祭りを開催する! そこで、肉になったホロホロ鳥をみんなで美味しくいただくのだ!」


 俺は宣言した。

 謝肉祭ならぬ、迎肉祭の開催である。


「そっか。うん、そうだよね。私もホロホロ鳥のお肉大好きだもん。だったら、あの子たちに感謝して食べないとね……!」


「うっ、あたしはしばらくホロホロ鳥ダメだわ……!」


「わ、私、頑張って食べます!」


「うち、お肉になるところ見てみたい」


 ピアが強い。

 全てを食欲が凌駕してくるような娘だな。


 そんなわけで、勇者村迎肉祭、ホロホロ祭りが始まるのだった。


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