第56話 皇子様をおむかえに
また特戦隊がやって来た。
「陛下が、約束を果たせとの仰せです。つまり、ハナメデル皇子殿下についての話ですが」
「なるほど、あいつを勇者村で教育するわけだな」
俺は頷いた。
王都からここまで、片道でも一週間近くある。
なのに特戦隊がついたのは、俺とカトリナが王都を訪れてから十日後のことなので、あの後すぐにトラッピアは決断したらしい。
そもそもこの世界、恋愛結婚なんかほぼ無いからな。
俺とカトリナがとてもめずらしいパターンなのだ。
大体は、家どうしのお見合いで決まる。
個人幸福よりも、家や血筋を存続させることを重視するのだ。
「ほーら、赤ちゃん! べろべろばー」
「鳥さんですよー」
フックとミー夫妻と、生まれたばかりの息子、ビン。
彼を、リタとピアが構っている。
ピアなど、トリマル奥さんズの一羽、トリミを抱っこして見せている。
トリミ、じーっとビンを見る。
鳥にも赤ちゃんということは分かるのか。
ビンはまだほとんど目が開いてないので、無表情である。
お地蔵さんのようだな。
あれでおっぱいが欲しくなると、あばばーっと泣き出すのだ。
「どれくらい大きくなったら抱っこさせてもらえるかな」
カトリナがそわそわしている!
「首があとちょっと据わってきたらじゃないか? まだまだ生まれたてだからなあ」
おっと、赤ちゃんの話題ではなかった!
フックとミーも、家が隣同士で、親が結婚させようと決めて結婚したんだそうだ。
なのでこの世界だとむしろ、恋愛結婚は地に足の付いていない、放浪民などがするものだと思われているところがある。
物語で描かれたりはしていて、みんな憧れはあるみたいなんだがな。
基本、結婚は恋愛という不安定な感情に左右はされないことになっている。
ということで。
トラッピアが決心したなら、迎えに行かねばなるまい。
「カトリナ、ちょっとハナメデル皇子を迎えに行ってくる」
「前に話してた、皇子様がうちに泊まるってお話だよね? 行ってらっしゃい!」
「行ってきます」
俺はフワリで浮かび上がり、バビュンで飛んだ。
グンジツヨイ帝国はそこそこ遠いし、間には海まである。
ということで、途中途中にシュンッで使えるような、セーブポイントを設置していった。
これで、瞬間移動を連続してハナメデルを連れてこれるぞ。
今回はマッハまで速度を出す……つもりだったが、ポイントポイントで降りたせいで、思ったよりも時間が掛かった。
三時間くらいかな?
向こうに、巨大な城塞都市が見えてくる。
グンジツヨイ帝国である。
そこの人々は、轟音と共に俺が飛来すると、誰もが空を見て気づいた。
ウワーッ!!という大歓声が上がる。
懐かしいなあ。ここの人々とともに、魔将軍師チュータッツと激闘を繰り広げたものだ。
あの一ヶ月間の戦いは忘れない。
「ゆっ、勇者ショート!!」
門の前に降り立ったら、門番が集まってきて敬礼した。
みんな目をキラキラ輝かせて、頬を紅潮させている。
「ようこそおいでくださいました!! 勇者にこうして間近でお目にかかれるとは、光栄であります!!」
「おう! なんか上から見たら、あちこち再建されて来てるみたいじゃないの。頑張ってるなあ」
「はい! ありがとうございます!!」
「ちょ、ちょっと元帥閣下を呼んできます!!」
一人が猛烈な勢いで走り去っていく。
門の内側で、ピョルルーッと声が聞こえたので、軍事用ハシリトカゲにでも乗ったのかも知れない。
軍事用ハシリトカゲは、ハシリトカゲを特殊な育成方法で人間が乗れるサイズまで育てたものだ。
二本足で、凄まじい速度で走るぞ。
馬に比べて乗りこなしにコツが必要で、安定感も低い。
だが、圧倒的な速度と踏破性、そしてハシリトカゲ自体の戦闘力も相まって、戦場では大活躍するのだ。
門番がお茶を入れてくれたので、その辺に座ってのんびりした。
「申し訳ありません……。軍の規律として、偉大なる勇者様でも無許可で国に入れることはできません」
「気にするな。分かってるからこうやって門の前に降りたんだ。町中に降りて俺が崇められたりしてたら、軍の顔が潰れちまうからな」
「なんというお気遣い……!! 感謝いたします」
門番たちが感激している。
うーむ、新鮮な反応だ。
手前村の住人なんか、俺が行くと、なまはげが訪れた家の子どもみたいな反応するからな!
俺、すっかり勇者ってのは恐怖を振りまくものだと思いかけてたぞ。
しばらくすると、複数のハシリトカゲがやって来る気配がした。
「かいもーん!!」
大声が響き渡り、「開門!」「開門!」と門のあちこちで復唱される。
そして開いていく、巨大な門。
門の中には、もの凄い数の正装の軍人たちと、そして背後にはもっとすごい数の民衆。
先頭には、ずらりと揃った三人の旅団長と元帥。
それから、ちょこんと傍らに立っている線の細い男。
「うおおおお!! ショート殿!! よくぞお越し下さいました!! ついに我が国に住んでくれることに!?」
元帥が駆け寄ってくる。
禿頭でカイゼル髭で、2mくらいあるガチムチのおっさんだ。
俺と仲良しなおっさんの一人でもある。
「ああ、いや。今日はな。トラッピアの頼みでハナメデル皇子を迎えに来た」
「おお、なんと!! だから殿下が一緒にいらっしゃったのですな」
元帥が振り返ると、隅っこにいた線の細い男が手を振ってきた。
周りにお花のエフェクトが浮かびそうな、ほんわかした笑顔である。
軍事の国に生まれたとは思えないほど、優しくふんわりした男……。
それがハナメデル皇子なのだった。
これで、軍略の才能は魔将軍師チュータッツにライバルと認められるほどなのだから、人間というのは分からないな。
「よく来てくれたねショート。僕は嬉しいよ。うん、とっても嬉しい」
もじもじしながら言ってくるのだ。
昔から俺、彼から並以上に好意を向けられてる気がするのだった。
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