第55話 助産師は神様! ショートは一日唯一神
ミーが産気づいたので、勇者村は騒ぎになった。
よく考えたら、産婆さんをできる者などいないのである。
悩む時間はない。
助産師探しリアルタイムアタックだ。
「俺に任せろ」
「ショートがやるの!?」
「いや、困った時は神頼みだ。おーい、ユイーツ神」
祈る真似をしたら、チャンネルが開いた。
『なんです?』
「ちょっと一人産気づいてるので助産師さんやって」
『別にいいですけど、その間はショートさんが神様の代わりやっててくださいよ』
「えっ、俺が!?」
『願いには代償が伴うんですよ。っていうかショートさん、私をユイーツ神に推薦した時、他の神様方から次の時代の最高神にするからって言われてましたよね? 満場一致で決まってたでしょ』
「うむ……地球に帰るつもりですっかり忘れてた」
『そうですねえ。これまでこっちの世界からあっちに帰った記録はゼロですからね。普通に一方通行ですからね。さあ、やるんですかやらないんですか』
「ミーの赤ちゃんのためだ。やろう」
そういうことになったのだった。
空間に扉が生まれ、そこから光り輝く男が出現する。
カトリナがそれを見て「うわー!」と驚き、偶然通りかかったヒロイナとリタとピアが腰を抜かした。
「ひょええええ……。ショート……その人だれよう」
ヒロイナがぶるぶる震えながら指差す。
ここでユイーツ神だと言ってしまってはショックで失神するかも知れない。
「ユイーツ神のお使いの人だ」
「ひええええ! 天使様!」
『そんな感じです』
ユイーツ神はフランクに頷いた。
「お産の手伝いをするために来てくれた。カトリナ、彼をミーのところに案内してくれ。神のパワーで安産させてくれるぞ。もと地方神だからな」
『作物の実りとか司ってました。任せて下さい』
ユイーツ神は、グッと力こぶを作ってみせた。
なかなかの盛り上がりである。
肩にちっちゃいジープが乗っているかも知れない。
「うん、うん分かった! 天使さん、こっちだよ!」
カトリナがユイーツ神の手を引っ張って走っていく。
ヒロイナと侍祭の娘二人が、後を追った。
「ひええ~! 恐れ多い、恐れ多い」
ヒロイナにも信仰心というやつがあったのだなあ。
かくして俺は、ユイーツ神代行として仕事をすることになった。
あいつが空間に開けた扉に入ると、玉座がある。
フカフカで、肩こり防止なのか、腰掛けると背もたれの一部がうにうに動いてマッサージしてくれる。
『あっ、これはショート様!』
『次代の神ショート様!』
「次の世代はうちのトリマルじゃないの?」
『トリ……?』
おっと、トリマルのことは認知されてないんだったな。
そうだ。
俺はあいつを立派な神様に育て上げ、次のユイーツ神にしてやればいい。
そうしようそうしよう。
腹の中で今後の予定を決めながら、上がってくる仕事を捌いていく。
ここは神界というところで、言うなればこの惑星ワールディアの頭脳であり心臓部分に当たる。
かつてここまで、魔王マドレノースは攻め込んできて、多くの神々を殺した。
お陰でワールディアは機能不全になっていたのだ。
今の神界は、俺が推挙した地方神をユイーツ神代行とし、生き残った他の地方神たちで合同運営されている。
強力な神様はほとんどやられてしまったので、新しい神の育成が急務なのだ。
『あ、これはこれは鍛冶神様』
神界の使いが、俺の腰の剣、エクスラグナロクカリバーに頭を下げる。
剣が鷹揚に頷く感じで、ぶるぶるっと震えた。
そうか。
一応俺の剣が、唯一生き残った古い神ということになるのか。
ほとんど剣になってて、自我はほぼ無いが。
「さてさて、神界のリソースはっと。うわー、少ないなあ」
『はあ。神々の多くがお隠れになられまして。こちらが供出できるリソースは以前の一割にも満たないのです。ただ、祈りはたくさん届けられておりますから、祈りをリソースにコンバートする作業で、神界はてんてこまいでして』
「よし、祈りをリソースにする仕事に、神界の人員半分裂こう。その上でやる気がありそうなのをスカウトして、教育してくれ。今は頭数が必要だ」
『はっ!』
「地上から上がってくる願いの成就は、この世界に対する影響度が高いものから処理していく。バンバン上げてくれ。俺一人でやれる」
『はいっ! あー、ショート様がこちらにいて下さったらなあ。ユイーツ神様はお神柄はいいのですが、お仕事が丁寧なぶんゆっくりで……世界に加護が行き渡らないのですよね』
「そこは仕方ない。多少、加護にムラがある方がむしろ神様っぽいだろ」
そんな話を使いとしながら、作業に勤しんだ。
数時間ほど、世界に加護をもたらす仕事をしていただろうか。
空間に開いた扉から、ユイーツ神が帰ってきた。
『お疲れさまですショートさん。どうです、このまま神様やりません?』
「やだよー。俺には待っててくれる可愛い奥さんもいるのに……」
『それは残念です』
俺は立ち上がり、扉をくぐった。
向こうでは、目をキラキラさせたカトリナと、青くなってげっそりしたヒロイナ、そして何やらやる気に満ち満ちている侍祭候補の少女たちがいる。
『皆さんに実践しながら助産のやり方を教えました。特に、司祭ヒロイナは覚えがいいですね。真っ青になってますが。侍祭の娘たちはこれからでしょう』
「そうか! 何から何まで済まないな」
『それと、ショートさんが隠していた神様候補と会いましたよ。なるほど素晴らしい神気です。彼を育て上げくださることを期待しています』
「他の地方神に相談しなくていいの?」
『ショートさんが育てたって言えば、みんな両手を上げて賛成するでしょうね』
つまり、俺がトリマルをどう育てても、神様になること確定か。
責任重大ではないか。
だが、今はそれよりも大事なことがある。
「ショート! 赤ちゃん可愛いの! 見に来て!」
「よしよし!! 俺も予習しに行くか……!!」
カトリナと連れ立って、ミーの赤ちゃんを見に行くのだ。
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